2020年に入り世界各地に甚大な経済的影響を与えている新型コロナウイルス。不動産価格への影響を懸念している方も少なくないと思います。
今回はすまいステップ監修者である逆瀬川勇造氏が、コロナ禍が不動産価格に与える影響について解説していく。
コロナ禍が不動産価格に与える影響
コロナによりGDP実質27.8%減
新型コロナウイルスは世界各地に健康被害だけでなく、甚大な経済的被害をもたらしています。
日本国内においても例外ではなく、内閣府の発表によると2020年4月-6月期のGDP(国内総生産)は年率換算で-28.1%となっています。(参照:日本経済新聞)
最近の経済ショックとして記憶に新しいリーマン・ショック後の落ち込みが年率17.8%だったことと比べても、今回の落ち込みの大きさが分かります。
新型コロナウイルスでは、感染拡大を防ぐため政府が緊急事態宣言を出したことから、個人消費への影響が大きく、年率換算で7.9%の落ち込みとなっています。
その他、訪日外国人客の消費は統計上「輸出」に区分されることから18.5減と大きくマイナス。
一方で、輸入は0.5%減、住宅投資は0.2%減と影響の小さなものも見られます。
不動産がGDPに与える影響は大きい
日本全体のGDPは大きなマイナスとなりましたが、不動産はこの数値にどのくらいの影響を与えているのでしょうか?
Gross Domestic Productの略で一定期間に国内で生み出された付加価値の合計を表します。
ある人が賃貸物件を借りて、家賃を支払うと、その家賃はGDPの対象となります。
一方、持ち家を持っている人は住宅ローンの返済はするかもしれませんが、家賃は支払いません。
しかし、GDPの計算上、持ち家を持っている人は自分の家に家賃を支払うとみなし、GDPの対象と考えます。このことを、帰属家賃と呼びます。
この帰属家賃の存在が、GDPに与える不動産の影響を大きくしているといってもよいでしょう。
景気が悪くなっても、人はどこかに住む必要があるため、特に住居系の不動産への影響は限定的とされます。
また、賃貸物件に住んでいる人が持ち家に移り住んでも、またその逆に持ち家に住んでいた人が賃貸物件に移り住んでも(家賃と貴族家賃が同額程度であれば)GDPには影響を与えません。
一方、今後失業者が増えたり、企業が従業員に支払う給料が大きく減ったりして、より家賃の低い住居に引っ越すといったことが起これば、GDPに大きな影響を与えることが予想されます。
2020年7月発表の路線価はプラスになった
コロナ禍の中、2020年7月1日に発表された路線価は全国平均で19年比1.6%の上昇となりました。
路線価は毎年1月1日時点の7月に国税庁が発表するもので、主に贈与税や相続税の算出に用いられる土地の価値に関する指標の一つです。
ポイントは、1月1日時点の土地の価値を算出したもの、ということで、つまり今回の発表ではコロナ禍による影響は織り込まれていません。
実際に内容を見てみると、インバウンドや都市部の再開発による上昇という側面が強く、都市部の他、北海道や沖縄など観光地での大幅に地価が上昇しています。
一方で特にコロナ禍では感染拡大を防ぐために入国制限がなされることもあり、インバウンド需要はほとんどゼロに近くなるほどの影響を受けているという現状があります。
インバウンド需要に支えられていた地域において収入が大きく減少するのにも関わらず、贈与税や相続税は高いままという状態になることが懸念されます。
こうしたこともあり、国税庁では路線価発表と共に、今後の情勢次第では修正する可能性もあるという異例の発表がなされています。
なお、国交省が2020年8月には発表した「地価LOOKリポート」によると、全国100地区の内38地区で下落、一方で上昇した地区はわずか1地区に留まっています。
東京都内においては横ばいが9割と踏みとどまっているものの、銀座や歌舞伎町、上野など東京を代表する繁華街が下落に転じています。
最新の公示地価や不動産価格指標については、下記記事を参考にしてください。
不動産価格の2024年までの推移と2024年の推移予想を解説!【2024年最新版】
コロナ禍以前の不動産価格はどうだったか
この章では、数回に渡りコロナ禍が不動産価格に与える影響について考察していくが、その前に、コロナ禍以前の不動産価格はどうなっていたのか確認してみよう。
都心を中心とした再開発による影響
2020年7月に国税庁により発表された1月1日の路線価によると、全国32万地点の標準宅地は19年比1.6%プラスで、5年連続で全国平均がプラスとなっています。
これはインバウンド需要増加による都市部のホテル建設需要や東京オリンピック開催に向けた都市部の再開発による影響が大きいとされています。
都道府県別で見ると、東京都が前年比5.0%、宮城県4.8%、福岡県4.8%、京都府3.1%、大阪府2.5%、愛知県1.9%のプラスといずれも都市部でのプラス幅が大きいことが分かります。
こうしたエリアにおいては、以下のようなプラス要因がありました。
- 緩やかな景気上昇傾向や金融緩和政策による良好な資金調達環境によりオフィス需要が堅調だったこと(オフィス賃料の上昇)
- インバウンド需要増加によりホテルや店舗の出店が顕著だったこと(店舗陳亮の上昇)
- 都市部を中心に再開発が行われており利便性や繁華性の向上が見込まれること
これらの傾向はアベノミクスによる円安誘導や金融緩和政策、東京オリンピック開催を要因としていたこともあり、ここ数年間の継続した傾向でした。
円安などを原因としたインバウンド需要による影響
また、アベノミクスによる円安誘導や金融緩和政策、東京オリンピック開催はインバウンド需要増加により観光地の地価の大きなプラス要因ともなっています。
JNTOの統計によると、2012年に800万人程度だった訪日観光客は右肩上がりで増えていき、2015年には約1,900万人、2019年には約3,200万人と大幅な伸びを見せています。
これは、アベノミクスによる円安誘導等を要因としたものであり、2012年1月の対ドルの終値は約76円だったものが、その後2015年には117円になり、その後はほぼ横ばい傾向が続いています。
2020年1月1日地点の路線価では、北海道が前年比3.7%のプラス、沖縄県が前年比10.5%と観光地として人気のエリアでの大幅な上昇が見られています。
また、東京都内においても浅草など観光地での地価上昇が全体の地価を下支えしています。
26年振りに地方地価が上昇した
一方で、この数年の地価上昇は主に都市部が全体をけん引している形で、地方はその恩恵を受けていないとされることも少なくありませんでした。
こうした中、2019年に発表された地価公示では全国的に広くゆるやかな地価の回復傾向が見られ、地方圏では1993年以来26年振りに商業地の平均が上昇に転じ、住宅地を含めた全用途の平均でも下落から横ばいに転じています。
都心で中古マンションの成約戸数が新築マンションの供給戸数を上回る
日本においては新築物件の人気が高く、中古物件の流通量と比べて新築物件の供給量が多いのが一般的な傾向でした。
しかし、東京都の地価の上昇を背景に、新築マンションの価格が大幅に上昇していき、一般的な収入では新築マンションを購入することが難しい状況にまでなっています。
こうした状況から、東京都においては2016年から3年間、新築マンションの供給戸数を中古マンションの成約戸数が上回る逆転現象が起こっています。(参照:LIFULL HOME`S)
新築マンション | 中古マンション | |
---|---|---|
2016年 | 35,772戸 | 37,108戸 |
2017年 | 35,898戸 | 37,329戸 |
2018年 | 37,132戸 | 37,217戸 |
これは中古不動産の流通環境の整備が進んだという側面もありますが、要因の多くは都心を中心にバブルと噂されるほどの地価の上昇だといってよいでしょう。
特に地価という側面においては、アベノミクスがもたらした影響は非常に大きかったということが分かります。
コロナ禍でも住宅系の不動産価格は影響を受けにくい
コロナ禍により不動産価格は大きな影響を受けることが予想されるが、一方で住宅系の不動産価格への影響は限定的との見方もある。この章では、住宅系と店舗・オフィス系に分けて不動産価格への影響を考察する。
オフィスや店舗は不動産価格が大きく値下がりせざるを得ない?
コロナ禍により大きな影響を受けると予想されるのが、オフィスや店舗です。
感染拡大を防ぐために政府が緊急事態宣言を出すなどして、飲食店では来客数が大きく落ち込んでおり、廃業せざるを得ない企業は増えることが予想されます。
こうして店舗の空きが増えれば賃料の下落要因となり、不動産価格も下がっていく可能性が高いでしょう。
また、コロナ禍により売上が落ちた企業は、スタッフを雇うための人件費の支払いに苦慮することになりますが、コロナ禍を要因として休業した企業等に支払われる雇用調整助成金の給付が12月末までとされており、この給付が終われば企業の倒産数が一気に増える可能性があります。
なお、帝国データバンクによると、新型コロナウイルス関連の倒産数は2020年9月16日時点で533社となっています。
その他、オフィスについては感染拡大を抑制するために推奨されるリモートワーク導入により、高いオフィス家賃を支払わなくてもよくなるといった可能性があります。
こちらも、将来的に空室が目立つようになれば不動産価格の下落要因となりえるでしょう。
なお、ビルディンググループの提供する市況データによると、2020年8月の東京都の空室率は2.99%と3カ月連続で空室率が上昇しています。
その他のエリアを見てみても、概ね空室率は下落傾向にある一方、成約賃料についてはまだ大きな下落には至っていません。
空室率については、今後も下がり続けることが予想され、この傾向が続けば成約賃料についても影響を受けることになるでしょう。
住宅系の不動産はコロナ禍による影響を受けにくい
店舗やオフィスは緊急事態宣言による来客低下や、リモートワーク導入等を理由に空室率が増加していくことが予想されますが、一方で住宅系の不動産については、コロナ禍による影響を受けにくいとされています。
これは、経済が悪くなっても住む場所は確保する必要があることが原因です。
ただし、コロナ禍による減給等なされると、家賃の減額交渉があったり、より価格の低い賃貸に引っ越したりといった事も考えられるため、今後は下落する可能性もあります。
コロナ禍により家族と一緒に過ごす時間が増え新規住宅受注数が増加傾向
現状では住宅系の不動産についてはコロナ禍の影響は限定的で、むしろ都市部においては上昇している地点も多く見られます。
これはデータ的な裏付けのあることではありませんが、コロナ禍により家族と一緒に過ごす時間が増えたことが一つの理由として考えられるでしょう。
例えば、住宅メーカーのヒノキヤグループでは、2020年7月の住宅の新規受注が対前年比で上回ったと発表されています。
また、東京都新宿区に本社を置く三栄建築設計では、2020年4月こそ前年同月比で80%弱まで落ち込んでいると、その後の4カ月間は120%~150%程度対前年比で上回っており、2020年4月~8月の累計で126%程度の上昇となっています。
こうしたことからも、特に住宅系の不動産においては、現時点ではコロナ禍による影響は小さいと見ることができるでしょう。
コロナ禍で「職住融合」がトレンドに
コロナ禍は不動産価格への影響だけでなく、住まいに求められるものにも影響を及ぼしている。
リクルートホールディングスが毎年発表するトレンド予測の2020年版「住まい領域」では「職住融合」が取り挙げられた。この章では職住融合とは何かといったことを解説していく。
職住融合とは
職住融合とは、その名の通り職場と住居が融合していることを指します。
言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、政府が出した緊急事態宣言に対応するため企業が導入したリモートワークによるもので、要は自宅で仕事をする機会が増えたということだと考えるとよいでしょう。
2020年6月に東京商工会議所が好評したリモートワークの実施状況に関するアンケートによると、緊急事例発令期間のリモートワーク実施率は67.3%と前回調査同年比で41.3%増加していることが分かります。
また、経団連が2020年4月に実施した調査によると、リモートワークや在宅勤務の導入割合は実に97.8%に上っています。
東京商工会議所のデータにおいては、主に対象が中小企業、経団連のデータについては、主に対象が大企業だと考えると、中小企業でおよそ7割弱、大企業で9割後半の企業がリモートワークを導入していると見ることができます。
コロナ禍以前よりリモートワークは増えていた?
ところで、リモートワークは新型コロナウイルスにより頻繁にその言葉を目にする機会が増えましたが、実はコロナ禍以前より増加傾向にありました。
平成29年に実施された通信利用動向調査によると、企業の13.9%で何らかのリモートワークが導入されていたことが分かります。
また、リモートワーク導入企業のうち在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%となっています。
コロナが収束すればリモートワークを導入していた企業も取りやめて、職住融合といったトレンドは一時の流行で終わる可能性があります。
しかし、もともとリモートワークが増加傾向にあったというデータを見てみると、コロナ禍でリモートワークを初めて導入した企業も、今後継続して導入する可能性も低くはないとも考えられるのではないでしょうか。
住まいに求められるものの変化
コロナ禍によりリモートワークを実施する企業が増えると、住まいに求められるものも変わります。
例えば、住んでいる方がDIYで自宅にワークスペースを設けるケースが見られる他、賃貸物件の大家さんも簡単なリフォームを実施して部屋の中にワークスペースを設けるといったことを行っているケースもあるようです。
その他、これまで気にしていなかった方も自宅で過ごす時間が増えたり、仕事をする機会が増えたりしたことで、自宅のインターネット環境について不満を持つ人も増えています。
株式会社リクルート住まいカンパニーが2020年4月に行った「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態調査」によると、18%の人がネット環境が悪いと不満を持っていることが分かります。
コロナ禍により不動産の在り方が変わる可能性がある
コロナ禍によりリモートワークを実施する企業が増えたことで職住融合がトレンドになった。これにより、住宅に求められるものが変わっただけでなく、不動産の在り方が変わる可能性もある。この章では、リモートワークが不動産に与える影響について見ていく。
リモートワーク導入により街選びの選択肢が広がる
不動産の価格は、利便性の高い駅から徒歩どのくらいでつけるかといった、立地に大きな影響を受けるのが一般的です。
一方、コロナ禍によりリモートワークの利用が拡大したことにより、会社に通う必要性や頻度が減り、必ずしも通勤の利便性を考えなくてもよくなっています。
株式会社リクルートホールディングスの「2020年のトレンド予測」によると、「リモートワークをきっかけに引越しを検討したか」という質問に対し、53%の人が実際に引越しを実施したり、引越しを検討したり、もしくは希望したりしていることが分かります。
また、同データでは「リモートワークが導入された場合、通勤時間が長くなっても引越しを検討するか」という質問に対し、57%の人が引越しにより通勤時間が長くなること許容しています。
このように、リモートワークの利用が拡大することで、会社の近くに住む必要性が薄れ、街選びの選択肢が増えることにつながります。
都心の駅徒歩1分あたりの価格差は首都圏坪4.0万円
ここでは、駅からの距離が不動産の価格に与える影響について見ていきましょう。
三菱UFJ不動産販売の2017年のデータによると、東京都において最寄り駅からの距離が1~5分の中古マンションの平均価格は4,486万円となっているのに対し、6~10分で4,204万円、11~15分で3,454万円、16分以上で2,825万円と駅徒歩と中古マンションの価格にきれいな相関関係があります。
今後リモートワークが定着すれば郊外の土地の人気が高まる可能性がある
一方で、コロナ禍によりリモートワークを実施する企業が増え、また今後コロナ禍が収束した後も引き続き、リモートワークを導入する企業が一定数の割合でいる場合は、先述したような、駅からの徒歩が近いほど不動産の価格が高くなる傾向が弱まる可能性があります。
郊外の土地であれば、都心にある土地と比べて安くで広い不動産を購入できる可能性が高く、また住む環境としても自然豊かな場所で生活を送れるといったメリットが考えられます。
こうしたことにより、コロナ禍の前と後で不動産の価格に対する考え方が変わる可能性があり、これまで見向きされなかった郊外の不動産にスポットライトが当たる可能性があるといえるでしょう。
なお、株式会社エイチーム引越し侍が2020年6月~7月に実施したアンケートによると、「地方への移住に興味があるか」という質問に対し、「興味がある」、「今回の引越しで移住する」など前向きな回答をした人の割合は3割弱に上ったということです。
特に人気の道府県は沖縄県、北海道、神奈川県となっています。
こうした道府県に移住しながら東京都に本社のある企業でリモートワークで働くといったスタイルが定着すると、都心の地価にも大きな影響を及ぼすことが考えられるでしょう。
まとめ
コロナ禍により不動産の在り方が変わる可能性があるというテーマについてご紹介しました。
都心で働く人は、リモートワークの導入により出勤する必要が無くなったり、その頻度を少なくしてよくなったりしたことで、引越しや移住を検討する人が一定数いることが分かりました。
こうしたことがすぐに不動産価格に大きな影響を与えることは考えにくいですが、長期的に見れば、都心の不動産価格が安くなり、郊外や地方の不動産にスポットライトが当たる可能性もあるでしょう。
気になる方は、今後の不動産価格の動きについて定期的に調査してみてはいかがでしょうか。
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