不動産の有効活用として、最近よく耳にするようになった「民泊」。興味はあるけれど、民泊とは具体的なシステムや民泊を始めるにはどのような手続きが必要なのか、分からないという人も多いことでしょう。この記事では、そもそも民泊とは何かというところから、民泊を始めるにあたって必要な法律上の知識やビジネス上のノウハウまでお伝えします。
目次
1. そもそも民泊とは
2. 民泊を始めるためのステップ
3. 民泊を始める前の手続きと確認事項
4. 民泊を成功させる準備のコツ
5. 民泊ができない物件を売却するときのポイント
1. そもそも民泊とは
民泊とは、もともと好意で民家に無償で泊めることを指す言葉でしたが、2008年ごろから出現したインターネットの仲介サイトにより、観光客に個人宅や投資用物件を有料で宿泊用に提供することを指すようになりました。民泊はいくつかの形態に分類され、形態によって法規や条件が異なります。以下にその分類を簡単に挙げてみます。
1.1 民泊には3種類ある
民泊には、大きく分けて3つの種類の形態があり、関係する法令が異なります。「旅館業民泊」、「特区民泊」、「新法民泊」の3種類です。それぞれどのように違うのか、分析していきましょう。
旅館業民泊
営業日数・宿泊日数ともに制限がなく、年間を通して営業できるのがこの「旅館業民泊(簡易宿所ともいう)」。旅館業法という法令で規定されています。本格的なビジネスとして民泊を運営したい人にとってはベストの選択ですが、居住専用地域では運営不可であることや、消防法や建築基準法の条件が厳しいことから、許可がなかなか取りにくいタイプの民泊です。
特区民泊
国から指定された「国家戦略特区」の中で、なおかつ「民泊条例」を制定している自治体の中でのみ運営できる民泊です。各自治体の民泊条例により、営業できる地域などに多少の違いがあり、自治体の認定を受ける必要があります。滞在期間の要件は、以前は6泊7日以上とされていましたが、2016年9月より2泊3日以上となり、活用の幅が広がりました。
新法民泊
2018年6月から施行された「住宅宿泊事業法(民泊新法)」に基づく民泊の形態です。「住宅」に宿泊することを前提としているため、ホテルや旅館が営業することのできない居住専用地域でも運営が可能です。年間営業日数の上限が180日と定められているため、本格的なビジネスとして考えるには、残りの日数の活用法など課題が多いでしょう。
1.2 家主不在型と家主居住型
民泊には、家主不在型と家主居住型の2種類があります。家主不在型と家主居住型では、法律で定められた管理の仕方が異なります。まずは、あなたの始めようとしている民泊がどちらに当てはまるかを理解したうえで、手続きの準備などを進めていくことが大切です。
家主居住型
あなたの家の一室や自分の別荘を宿泊施設として提供するにあたり、宿泊客が泊まっている間あなたもその住宅に住んでいる場合を、家主居住型といいます。
住宅宿泊事業者であるあなたがその住宅に住んでいることが重要であって、あなた以外の人がその住宅に住んでいる場合や、あなたが隣の家に住んでいる場合、旅行で留守をする間貸し出したいという場合などには当てはまりません。
また、家主居住型の条件として、住宅宿泊事業者であるあなたが不在をしないということも要求されています。用事がある場合は、原則1時間までの不在(事情があると認められる場合は2時間程度までの不在)であれば構わないとされています。それ以上の時間不在をするのであれば、家主不在型としての届け出が必要になります。
家主不在型
上記の家主居住型の条件に当てはまらない場合は、家主不在型となります。このタイプでは、あなたが自分で管理業務を行うことはできません。住宅宿泊事業者に管理業務を委託することが定められています。また、非常用照明や消防施設などの安全措置に関する要求が高くなります。
では、実際に民泊を始めようとする場合、どのようなことをする必要があるのでしょうか。必要なステップとその手順を見てみましょう。
・3種類の形態
・家主不在型と家主居住型
2. 民泊を始めるためのステップ
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許可申請・届出
リノベーション
インテリアやアメニティの準備
ウェルカムガイドの作成
民泊サイトへの登録
運営開始
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民泊を始めてみたいと思っても、どこから手を付けたら良いのか分からないという人も多いのではないでしょうか。民泊スタートまでの主な手順は、上の図の通りです。このほかに、自分で清掃が困難だという場合には清掃代行業者、民泊サイトへの登録からゲスト対応までの運営をプロに任せたいという場合は運営代行会社を選ぶことも必要です。
民泊を始める前には、許可申請などの手続きをきちんと行ってはじめて、合法的に民泊を運営することができます。関係する手続きと、確認しておきたいポイントについて、次の部分でチェックしてみましょう。
3. 民泊を始める前の手続きと確認事項
まずは許可申請・届出関係の手続きを行う必要があります。民泊の形態によって手順が違ってきますので、3種類の形態ごとに考察してみましょう。
3.1 旅館業の場合
旅館業として申請を行う場合は、保健所での申請となります。とはいえ、いきなり申請を出して許可が下りるわけではありません。保健所はもちろん、開発審査課や建築指導課、都市計画課や下水浄化センター、消防関係や環境保全関係といった部署で、それぞれの条件を満たしているかどうか確認する必要があります。
条件を満たしていることがはっきりして初めて、申請書提出となります。自治体によって多少の違いはありますが、申請に必要な書類は一般的に次の通りです。
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3.2 特区民泊の場合
特区民泊の許可を申請する窓口は、各自治体によって違います。観光庁のポータルサイトで確認してください。必要書類は、法人と個人で違いがありますが、おおむね次の通りです。
法人の場合の必要書類
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個人の場合の必要書類
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3.3 新法民泊の場合
新法民泊の場合は、許可申請ではなく届出という形になります。届出は、ポータルサイトと保健所で行うことができ、必要書類は次の通りです。
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3.4 確認しておきたいポイント
民泊のスタートを検討するにあたり、許可申請や手続きの準備と並んで確認しておきたいのが、あなたの物件がどの種類の民泊に適しているか、そしてそもそも本当に民泊に使用できるかどうか。関連する要素をもれなく考慮することで適切な判断ができ、計画の変更や準備のやり直しなどの時間や労力の浪費を防ぐことができます。
用途地域に注意
地域ごとに、どんな用途の建物を建てることができるかが決められています。以下の用途制限の地域には、旅館業民泊と一部特区民泊を営むことはできません。
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一方、新法民泊の場合は「ホテル・旅館」ではなく「住宅」という扱いになるため「工業専用地域」以外のすべての地域で営業が可能です。
マンションの管理規約に注意
多くのマンションの管理規約には、住む目的以外の用途に使ってはならないという項目が存在します。このようなマンションでは、どのタイプの民泊であれ運営することができません。
一棟マンションの容積率に注意
敷地面積に対する延床面積の割合を容積率といいます。ホテルには容積率について規定があり、そのために従来は、一棟マンションに旅館業の許可が下りることが極めて難しい状況でした。
2016年6月に、ホテル容積率の緩和が行われたため、一棟マンションを宿泊に供する許可が下りる可能性が広がりました。しかし、緩和についての判断は各自治体にゆだねられているため、自治体によっては依然許可が下りないところもあるのが現状です。
民泊が成功し、利益を生んでくれるかどうかは、事前の準備にかなりの程度かかっています。続く部分では、民泊を成功させるためにどのような準備をすればよいかを見てみましょう。
・窓口と必要書類を確認
・用途地域や管理規約確認
4. 民泊を成功させる準備のコツ
成功する民泊とは、多くの人が魅力を感じて泊まり、満足してくれること、なおかつトラブルが少ないことではないでしょうか。そんな民泊運営をするために、準備段階で行えることはたくさんあります。ここでは、そのうちでも特に大切な3点を取り上げましょう。
4.1 宿泊客の目線に立ったリノベーションとインテリア
どのような人が泊まりに来るのか、どのような部屋なら快適に過ごせるかを、宿泊客目線でチェックしましょう。例えば、外国人の訪日観光客にとっては、和式トイレは困惑のもと。
最低限、トイレだけでも洋式のものにリノベーションすることをおすすめします。また、体格の大きな西洋人が快適に感じられるよう、狭いトイレを広めにリノベーションするのも良いでしょう。
余裕があれば、プラスアルファの魅力を生み出す方向のリノベーションも検討を。訪日外国人の喜ぶ最新式のハイテク便座を導入したり、畳や障子を取り入れた和風モダンのつくりにし、それに合わせたインテリアにしたりするのも良い方法です。また、多人数で泊まれる大部屋物件では、バス・トイレ別の間取りにすると喜ばれるでしょう。
宿泊を検討している人は、民泊サイト上の写真を見て決めるため、写真うつりも考慮したうえで魅力あるレイアウトやインテリアを心がけましょう。観葉植物や、気の利いた小物などを配置するのもおすすめです。
備品類の中で、特に宿泊客の満足度に影響するのが、水回り用品と寝具、そしてWi-Fiです。洗濯機や電子レンジなどの操作ボタンが日本語になっているものや、シャンプー・リンス・ボディソープの類で表記が日本語しかないものは、外国語表記をつけたりマニュアルを準備したりして使いやすいようにしておきましょう。
4.2 親切なアクセスガイド
重いスーツケースを引っ張りながら疲れて到着する宿泊客にとって、スムーズに宿に到着できるかどうかも、満足度を左右するポイントとなります。土地勘のない人や外国人訪日観光客にもわかりやすい、親切なアクセスガイドを作成しましょう。
ホテルとは違って大きな看板を掲げているわけではないこと、最近ではLCCなどでの深夜到着も多くなっていること、外国人訪日観光客にとってはバスよりも電車や地下鉄のほうが利用しやすいことなどを踏まえて作成すると良いでしょう。また、物件周辺の飲食店やスーパーマーケット、観光スポットなどの情報も喜ばれます。
日本語だけでなく、少なくとも英語と中国語でのアクセスガイドが必要であることも忘れないようにしましょう。場合によっては、韓国語やスペイン語での準備が望ましいこともあります。
4.3 周到なウェルカムガイド(ハウスマニュアル)
宿泊客が快適かつトラブルなく過ごすことができるよう、周到に準備されたウェルカムガイド(ハウスマニュアル)は非常に重要です。家電やリモコンの使用方法、設備使用のルールや注意事項をはっきり理解できるような説明書を作成しましょう。こうすることで、宿泊客の満足度を上げるとともに、滞在中の連絡や問い合わせを最小限にすることができるため、あなたの手間を減らすことにもなります。
また、地域のルールについての徹底も必要です。喫煙やゴミ捨て、深夜の騒音などについてのルールは厳しく徹底するとともに、必要に応じて室内に張り紙を。ご近所とのトラブルで民泊運営が難しくなるといった事態を未然に防ぐことが大切です。
こちらも、多言語対応が非常に重要です。英語と中国語はもちろん、可能であれば韓国語やスペイン語も用意しておくことができれば理想的です。
・アクセスガイドを作成
・多言語のウェルカムガイド
5. 民泊ができない物件を売却するときのポイント
すべての物件が、民泊に適しているわけではありません。有効活用を検討するにあたり、民泊のできない物件は売却する方向で検討するのもひとつの方法です。
不動産の売却にあたっては、良心的で腕の良い不動産会社と媒介契約を結ぶのが一番のポイント。そのためには、複数の不動産会社に査定をしてもらい、金額に納得がいくと同時に信頼できると感じる不動産会社に依頼するのが早道です。一括査定サイトなどを利用すれば、手軽に複数の不動産会社に当たることができ、おすすめです。
活用していない不動産は、税金や管理費だけがかさみます。客観的な判断で、一番適した方法での有効活用に踏み切りましょう。
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