建築物は新しければそれだけ高値で売れると、損をしないように短期間で売りに出したいと考えがちです。確かに、中古物件でも築年数の長い物件より新品に近い物件の方が価格が高くても人気がありますだからといって、短期間で新しい物件であればあるほど得をするという考え方は現在では通用しません。
それどころか損をするようになりました。これは、バブル期以降に始まった制度によります。また、ある一定の期間以上所有した物件は、さらに優遇されるという制度もできました。いずれも、いくつかの条件がありますが、これらを上手に活用すると、有利な売買ができるようになります。
1.短期譲渡所得と長期譲渡所得について
かつてバブルと呼ばれた時期に日本国内の不動産価格が一気に暴騰し、投資目的の不動産売買が日常茶飯事に行われていました。所有期間が短くても日ごとに不動産価格は上昇するので、短い間に売却をして利益を得る人が増えたのです。
そのため、土地を買い家を建てて住みたいと思う人が正当な価格で手に入れることができなくなってしまう現象が起きてしまいました。「不動産不足」を解消し、投資目的の「土地ころがし」を抑制するために設けられたのが短期譲渡と長期譲渡の期限設定です。
短期・長期にかかわらず不動産を譲渡した際に発生する利益は所得としてみなされ、所得税や住民税が課せられますが、5年を境にして税率に差をつけられるようになりました。これにより、所有して5年を超えた物件を売却した方が5年以内で売却するよりも税金が半分になりました。このように、短期間で売買すると不利になるような制度を作ったのです。
1.1 不動産売買において収益がでた場合に算出される
不動産売買をして利益が発生した場合、金額に関係なく所得税や住民税などが課せられます。もっとも計算をしたうえで非課税となる場合がありますが、少しでも利益が発生した場合は税金の対象となります。
ここでいう利益のことを売却益といいますが、この売却益から購入時まで遡ってすべての諸経費をや特別控除などを差し引いた金額が譲渡所得額になり、この額をもとに所得税額や住民税額が算出されます。なお、経過年数に応じて算定される減価償却費は諸経費に含まれません。
1.2 短期か長期かは不動産を所有していた期間による
不動産を所有していた期間が短期か長期かの境目は5年です。不動産を売却した年の1月1日時点で、不動産を購入した日から5年以下の場合は短期、5年を超えていると長期になります。例を挙げて説明すると次のようになります。
購入年月日 | 売却年月日 | 所有期間 | 1月1日時点での所有期間 | 短期・長期 |
2010年8月1日 | 2015年9月1日 | 5年1か月 | 4年5か月 | 短期 |
2009年8月1日 | 2015年9月1日 | 6年1か月 | 5年5か月 | 長期 |
これによると、2010年8月1日に購入した物件は2016年5月以降に売却した方が税金を安く抑えられることになります。少しでも出費を少なく抑えるのであれば、このように節税するという方法もあります。
購入年月日はいつ?
ところで、ここでいう「購入年月日」は、どのように決められているのでしょうか。中古や分譲物件などは不動産会社が仲介しますので不動産会社との間で決められます。
大概は売買契約書などを取り交わした日や引き渡し日を購入年月日とすることが多いようです。一方、不動産会社が関わらない新築物件の場合はどうなるかというと、業者に依頼して建築した場合は「引き渡し日」が購入年月日になりますが、自分で建てた場合は建築を完了した日を「購入年月日に」することが多いようです。
これらの年月日も正確に把握しておかないと、短期・長期の判断がつかず、間違って長期のはずが短期にすると、課せられる税額が変わり、結局は損をしてしまう可能性があります。購入年月日や引き渡し日はきちんと確認をしましょう。
1.3 譲渡所得から所得税と住民税と復興特別所得税がかかる
不動産売却で利益が発生した場合、所得税と住民税、そして2037年までは復興特別所得税が課せられます。復興特別所得税は、東日本大震災で被害を受けた地域の復興費用として設けられた税で、2013年から徴収しています。
これら税金の税額は譲渡所得から算出することもできますし、確定申告の際に申請することで知ることもできます。なお、確定申告をしなければ特別控除も適用されず、さらに各納税の手続きも出来なくなります。一方、申告をすると減税になる場合もありますので、必ず行ってください。
1.4 不動産を10年以上所有している場合
短期譲渡所得や長期譲渡所得は所有期間5年が境に税率が変わりますが、10年以上所有している不動産に対しても別の税率で算出されます。10年以上所有している物件を売却した場合は譲渡所得額が6000万円を境に2段階に分けて設定されています。
ただし、この税率措置は居住用の物件に限られており、商業用の建築物や商用地では適用されません。また、築年数が10年を超えると税金は安くなる代わりにリフォームをしなければいけない箇所が増えてきますので、想定外の出費がかさむ可能性がでてきます。
また、100年を超える物件になると査定額も下がりますので、よほど立地条件が良かったりプレミア感がある物件でなければ10年超の家を売ってもそれほどの利益は期待できないでしょう。
・短期と長期の境目は5年
・購入年月日は正確に
・所有期間で税額も変わる
2.税金の種類と計算方法
不動産を売買した時に一番気になるのが、課せられる税金ではないでしょうか。税額は自分で計算することができます。税額の申請は確定申告で行い、納税は翌年度からになります。
売却に対する納税は売却をした年度の1回限りです。もし、何らかの事情で申告をし忘れても、過去3年の分を申告手続きができます。しかし、申告をしないでおくと、脱税と見做され追徴課税になる可能性もありますので、売却後速やかに確定申告で申請をしてください。
2.1まず譲渡所得を計算する
所得税額や住民税額を知るためには、まず譲渡所得額を算出しなければいけません。譲渡所得は、不動産を売買して得た代金から、その不動産にかかった諸経費と特別控除額を際し引いた額です。
譲渡所得=売却代金-(取得費+譲渡費用)-特別控除 | ||
---|---|---|
取得費 | 購入代金 | 不動産の購入代金 |
仲介手数料 | 購入時に不動産会社に支払った手数料 | |
登記費用 | 不動産名義変更登記手続き費用 | |
購入後の改築・リフォーム代 | ||
譲渡費用 | 仲介手数料 | 不動産売却時に不動産会社に支払った手数料 |
登記費用 | 不動産名義変更登記手続き費用 | |
測量代 | 土地売却の際に必要な測量 | |
印紙代 | 諸手続きに貼付する印紙 | |
解体工事費用 | 売却した土地に建てられている建物の解体費用 | |
立ち退き料 | 売却した土地からの立ち退き諸費用 | |
特別控除 | 「2.5 計算時に知っておくべき特例」で解説 |
譲渡所得をシミュレーション
家の売却価格が5000万円、購入時の額が2000万円、譲渡費用を500万円とすると、譲渡所得は5000万円-(2000万円+500万円)-特別控除3000万円=-500万円と、マイナス額になります。この場合は譲渡所得がゼロ円ですので非課税になります。
2.2 所得税を計算する
譲渡所得額を算出してから所得税額を計算します。所有期間から短期か長期かを選びます。短期の場合の所得税額は譲渡所得の30%、長期の場合は譲渡所得の15%、10年以上の場合は所得額が6000万円以下の場合10.21%、6000万円超の場合は15.315%になります。
所得税をシミュレーション
譲渡所得が2000万円とすると、不動産の所有期間が短期の場合の所得税は600万円、長期の場合は300万円になります。また、10年以上の場合は2,042,000円です。
2.3 住民税を計算する
住民税も譲渡所得をもとに計算します。短期の場合の住民税率は9%、長期の場合の税率は5%、10年以上の場合は所得額6000万円以下で4%、6000万円超で5%になります。
住民税をシミュレーション
譲渡所得を2000万円として計算すると、短期の場合は180万円、長期の場合は100万円、10年以上の場合は80万円です。
2.4 復興特別所得税を計算する
復興特別所得税は短期・長期に関わらず所得額の2.1%が課せられます。例えば、所得が2000万円の場合の復興特別所得税は42万円になります。復興特別所得税は2037年まで毎年徴収されます。この場合の所得とは、不動産だけではなく給与所得など全ての所得額を合計して算出されます。
2.5 計算時に知っておくべき特例
譲渡所得は、次のような特別控除の適用が受けられます。
特別控除の種類 | 控除の上限額 |
---|---|
2009年~2010年に購入し5年超で売却 | 1000万円 |
公共事業のための売却 | 5000万円 |
自己所有の居住用を売却(マイホーム控除) | 3000万円 |
特定土地区画整理事業のための売却 | 2000万円 |
特定住宅造成のための売却 | 1500万円 |
農地保有の合理化のための売却 | 800万円 |
条件によって特別控除にはさまざまなものがありますので、所有する不動産に該当する控除であれば適用されます。譲渡所得が控除の上限額を下回る場合は、課税額がゼロになります。
また、複数の物件を一年にまとめて申告しても受けられる控除額が上限5000万円と決められています。多くの不動産を売却する場合は、一度ではなく複数年に分けて売却した方がより高額の控除が受けられることになります。
なかでも、自分の家を売却すると必ず適用される特別控除が「マイホーム控除」といわれるもので、短期・長期に関わらず一律3000万円まで控除されます。
ただし、「マイホーム控除」は実際に居住した家屋だけに適用されますので、別荘や仮住まい用といった期間限定の家屋や居住以外の目的で建てられた建物には適用されません。また、「マイホーム特例」取得を目的に一時期だけ居住することも認められません。
特別控除の申請はすべて確定申告で行います。他の基礎控除などと同じ要領で申告書を記入しますが、不動産の名義人の住所と不動産物件の住所が異なる場合は、名義人の所在を確認するための書類(例えば戸籍や住民票などのコピー)の添付が必要です。
特別控除は確定申告をしないと一切適用されませんので、忘れずに申告をしてください。
・2037年まで復興税も
・住居対象のマイホーム控除
費用総額シミュレーターで売却にかかる費用を算出してみよう
以下の費用シミュレーターを使って、あなたの不動産を売ったときにかかる費用を算出してみましょう!
「売却価格」「購入価格」「物件の所有期間」「現在住宅として住んでいるか」をそれぞれ入力し、「費用を算出する」ボタンを押すと、売却時にかかる費用が自動で算出されます。
※購入価格が分からない場合は空欄で大丈夫です。
費用の内訳も表示されますので、まずはどんな費用がいくらかかるのかを把握しておきましょう。
3.不動産売買で損失が出る場合
不動産を売却すると必ずしも利益があるわけではありません。地価の下落や社会状況によって不動産価格も変動します。また、売却するタイミングや取引をする不動産会社選びを間違えるとそれだけ損失も多くなる場合があります。
3.1 買ったときよりも安く売れた場合に発生する
不動産の売買で損失が出るとはどういう時のことを言うのでしょうか。不動産価格は地価や国土交通省が設定する評価額をもとに不動産会社が決めています。
この額をもとに取引を行い発生する利益は「利益」ではなく、売却代金から購入代金や購入にかかった諸経費、売却にかかった諸経費、特別控除(居住用家屋の場合3000万円)を差し引いた額が利益となります。
つまり、売却をして実際に手にしたお金があっても、そこから諸経費を際引いた金額が利益になります。全ての諸経費を差し引いて残った額が利益となります。つまり、購入代金が3000万円で売却価格が6000万円以下だとすると「損失」になるわけです。損失になった場合は譲渡にかかる諸税金はすべて非課税となります。
3.2 損失を出さないために
損失になると税金を払わなくていいという考え方もありますが、所有していた期間は税金を払っていたわけですから、その分を取り返すためにも出来るだけ高値で売った方が良いに越したことはありません。
しかし、高値で売ってしまいたいと考えて自分勝手に価格を高く設定するのは自由ですが、売れなければ意味がありません。逆に売ることを前提に安値を付けてしまうとそれだけ利益が少なくなるどころか赤字になってしまいます。
どのような不動産にも相場というモノがありますので、相場を十分に理解してから売却価格を設定する方が間違いなくより確実な売買ができます。
また、相場を知るためには不動産会社が公表している販売取引価格や査定額を参考にするのが一般的です。販売取引価格は、不動産会社が行う査定額をもとに設定されていますので、不動産会社ごとに価格が違います。
また、査定額は不動産会社独自の見方で行いますので、会社ごとに価格が違うのは当然です。そのため査定額はたんなる参考価格にすぎません。
このように考えると、少しでも高値で売るのであれば査定額の高い会社を選ぶのが賢明だといえます。そして、高値で取引をしてくれる「自分に合った不動産会社」は、1社だけに査定を依頼しても見つけることはできません。一括査定サイトを利用して複数の会社に査定依頼をすることが大切です。
・損失益も必ず申告を
・不動産会社にも差がある
4.不動産会社について情報を収集しよう
所有する不動産についての情報は、出来るだけ多くの知識や情報を収集することが大切です。情報はいろいろなサイトや資料などで地価や相場などを調べることができますし、日ごろの社会状況なども大切な情報になります。
そして、より満足のいく価格で売却をするためには所有する物件の価格と相場を知ることです。そのためにも、まずは査定を依頼することが大事です。
査定を依頼するにも、1社だけではなく出来る限り多くの会社に依頼した方がより確かな価格を知ることができます。その中から査定額の高い、いわゆる「優良不動産会社」を選びます。査定額の高い会社は取引額も高く設定してくれる可能性が高くなるので慎重に探しましょう。
・査定額で良い会社を選ぼう
・一括査定サイト