家の売却は面倒な手続きも多く、期間も長期化しやすいため大変です。
いかに不動産売買のプロが仲介をしてくれるといっても、自身でもやるべきことは多く、売却を終えた頃にはくたくたになっていることも多いでしょう。
家の売却は、確定申告まで含めて一連の流れになっているため、ここまで終わらせてようやく売却は終了と言えます。
家の売却後になぜ確定申告が必要なのか、必要性や申告する意味を知り、重要性を理解しておきましょう。
注)本記事は一般的な税金の計算方法や手続きについて述べております。
各人により税額その他が変わることがありますので、必ず税理士または税務職員等にご相談の上ご対応ください。
なお税理士法により税務相談は税理士または税務職員等しか回答できません。
家の売却後に確定申告が必要な理由
確定申告の重要性を知るには、まずは基本的な理解を深めることが大切です。
家の売却後に確定申告が必要な理由を知りましょう。
所得を申告するため
家の売却後に確定申告が必要なのは、年間の所得を正しく申告するためです。
所得は大きく10の種類に分けられ、それぞれを合算した金額がその年の合計の所得です。
家の売却にかかる税金は、会計上譲渡所得に該当します。
譲渡所得にかかる税金(譲渡所得税)は分離所得と呼ばれ、他の所得と合算しません。そのため、会社員の方でも確定申告が必要です。
申告漏れがあると、所得が正しく計上されず、個人の収益や資産の管理ができないため、確定申告が義務付けられています。
必要な税負担を算出するため
確定申告では単に所得を申告して終わりではなく、家売却で生じた利益にかかる税金を算出します。
所得の金額に応じた税負担は、国民の義務であり、国の経済状態を良好に保つためには重要なことです。
ただ、確定申告をする際には控除や特例などを利用して実情に合わせた税負担ができますので、申告する側にとって一方的に税金を課せられるよりも良いでしょう。
国は国民の所得を正しく把握し、適切な税金が設けられ、個人では申告による金銭的なメリットもあるため、お互いにとって必要な手続きと言えます。
家の売却後に確定申告をしないとどうなるか
家の売却後は確定申告をしなければなりませんが、強制的に手続きをさせられるわけではありません。
しかし、売却後に確定申告を行わなければ自治体から案内のハガキが届くことがあります。
また利益が出なかった場合に確定申告をする義務はありませんが、確定申告をすることで得をするケースも多いです。
確定申告をしないことによるデメリットは少なくありません。
家の売却後に確定申告をしない場合、どのような不利益を被るのか知っておきましょう。
特例や控除を利用できない
家の売却後に確定申告をしないと、特例や控除を利用できません。
家の売却で譲渡所得が出た場合、「3000万円特別控除」などの税金を利用することで課税される譲渡所得税の税額を抑えられます。
家の売却で損失が出た場合でも損失が出たなら申告をした方が得になることもあります。
理由はマイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例などを利用して、他の所得から損失を控除して所得税を少なくすることができるからです。
家の売却で損失が出た場合の申告は義務ではありませんが、その損を少しでも取り戻すために確定申告をすることで、損失を最小限に抑えられることを覚えておきましょう。
譲渡損失の損益通算
譲渡損失の損益通算とは、一定の条件を満たす場合に家を売って出た損失の金額を事業所得や給与所得など他の所得を損益通算と合算し控除できる特例のことです。
例えば給与として300万円の収入(※所得控除後)が得られ、譲渡所得として100万円の損失があるとします。
この場合、譲渡所得税は下記のように求められます。
= (所得額(※1)- 譲渡損失 )× 税率(※2)
= (300万円 – 100万円)× 税率※1:給与所得控除後の金額とする
※2:所得税の税率
また、損益通算してマイナス部分が残った場合、その年の翌年以降3年間繰り越して控除が可能です。
追徴課税が課せられる
家の売却によって利益を得たにも関わらず所得を申告しないケースが悪質と判断されると追徴課税が課せられます。
通常は利益に対して定められた税率をかけ、税金額を算出します。しかし、申告をしていないと通常よりも高い税率で計算され、税負担は倍増します。
申告の有無だけで負担が大きくなってしまい、場合によっては出費が増えて損失が出る可能性もあるため、注意しなければなりません。
また、追徴課税が課せられているにも関わらず、支払いを拒否しているとさらに税額は増え、督促状が届いて資産を差し押さえられる可能性もあるため、注意が必要です。
家の売却での利益の考え方
確定申告をスムーズに行うには、そもそも家の売却で利益が出ているのかを知らなければなりません。
不動産売買での利益は計算が複雑で、買ったときよりも売ったときの方が安かった=利益が出ない、とはならないため注意しましょう。
利益の計算方法や利益に対して課税される税金の種類を知って、確定申告への理解をさらに深めましょう。
譲渡所得の有無
家の売却によって得た利益は譲渡所得と呼ばれ、以下の式で計算します。
譲渡所得=売却価格-(取得費+売却費用) |
売却費用から、売却までにかかった各種費用を差し引き、プラスになった場合は譲渡所得が発生するとみなされます。
取得費は住宅の購入額などから、購入にかかった費用と減価償却した費用のことです。
そのため購入価格がそのまま取得費費用となる訳ではならない点に留意しましょう。
減価償却は建物を数年に分けて消費するという会計上の考え方です。
例えば購入価格が1,000万円の建物を10年かけて消費すると考えた場合、1年に100万円費用計上するのが、減価償却の考え方です。
減価償却は物件ごとに計算方法が違うため、物件の構造や築年数から残っている耐用年数を割り出し、対応する償却率を使って求めましょう。
また、減価償却が可能なのは、建物だけであり、土地部分の償却はありません。
売却費用は売却時の「仲介手数料」、「印紙代」なども計上できるため、できるだけ多く計上し、譲渡所得を減らすことが大切です。
特例控除も考慮しよう
家の売却では、要件に応じて特例控除が適用できます。
マイホームの売却なら「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用できる場合が多いです。
これを適用させた場合、譲渡所得をさらに3,000万円引いて計算できるため、税負担をかなり抑えられます。
家の売却でかかる税金
家の売却の利益にかかる税金は、「所得税」、「住民税」、「復興特別所得税」であり、それぞれで税率は異なります。
所得税と住民税の税率
所得税と住民税は、売却した住宅の保有期間に応じて、税率が異なるため注意しなければなりません。
所有区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得は保有期間が5年以下、長期譲渡所得は5年超えのものが該当します。保有期間は、住宅を購入した日からではなく、購入後1月1日を迎えた回数で計算します。
つまり、2018年の4月1日に購入した場合、5年後の2023年4月1日を経過した2024年1月1日時点で5年にカウントされます。
したがって期間が5年を超えるのは、2024年の1月1日以降と考えましょう。
1月1日時点で保有期間を計算するため、2024年1月1日以降の売却なら長期譲渡所得に該当しますが、本来5年を経過している2023年4月2日に売却しても長期譲渡所得ではなく、短期譲渡所得になってしまいます。注意しましょう。
所得税と住民税は短期か長期かで税率が大幅に異なるため、負担を減らすには長期譲渡所得になるまで待つことが大切です。
しかし、税率を気にする必要があるのは、あくまで利益が出る場合のみです。
売却損が大きい、あるいは控除で利益が出ないことが分かっているなら、所有区分に関係なく、もっとも好条件になるタイミングで素早く手放しましょう。
復興特別所得税の税率
復興特別所得税の税率は、通常の譲渡所得税額に2.1%をかけた金額です。
したがって長期譲渡所得の場合は15%に2.1%を掛けた0.315%が課税価額に掛けられます。
これは所有区分に関係なく一律で決まっているため、利益が出た場合は固定で必要な費用と考えましょう。
確定申告の注意点
確定申告を行う際には、いくつか注意点があります。
確定申告は必要な人が限られているため、今まで一度も手続きをしたことがないという人も少なくありません。
予備知識を持たずに手続きを進めると、失敗する可能性もあるため、注意点を正しく把握して、スムーズに申告を終えましょう。
申告時期が年ごとにずれる
確定申告の時期は毎年2月16日から3月15日までと決まっていますが、詳細な時期は年によって少しずつずれます。
土日の関係によって、申告期間が伸びたり、短くなったりするため、その年のスケジュールは必ず確認しておきましょう。
期間内に申告できないとペナルティ
確定申告は手続きを行うのはもちろん、期間内に申告を完了させなければなりません。
定められた申告期間を過ぎてしまうと、申告の意思があってもペナルティを課せられるため注意が必要です。
売却で利益が出ている場合は、申告期間に提出しないと特例や控除が利用できず本来の納税額よりも高くなってしまいます。
申告期間を少し過ぎただけなら、ペナルティはそれほど大きくありませんが、時期が遅れるごとに税負担が増えるため、注意しなければなりません。
仮に期間内に間に合わなかった場合でも、できるだけ早く申告することを心がけ、余計な税負担を増やさないようにしましょう。
必要書類は早めに準備
確定申告時に必要な書類は多いため、期間内に申告を完了させるためにも、前もって準備しておくことが大切です。
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領収書はそれぞれコピーでも問題ありませんが、これらがないと費用に計上できないため、注意しなければなりません。
また、売却時に他にも費用がかかったなら、それらの領収書もまとめて持参しましょう。
契約書や領収書関係は簡単に用意できますが、全部事項証明書は法務局やネット申請で事前に入手しておかなければなりません。
売却後の情報が記されているなら、いつ発行しても問題はないため、売却終了後、余裕のあるうちに入手しておきましょう。
確定申告指導も利用
自治体によっては、確定申告時期に手続きの方法を指導してくれる場合があります。
確定申告の時期が近付くと、無料相談会や申告指導の会なども増えるため、初めての場合はそれらを利用するのがおすすめです。
確定申告は初めてだと勝手が分からず、期間始めから手続きを開始しても、期間内に完了できない場合もあります。
せっかく早めに始めても、期間内に完了できないとペナルティが発生するため、疑問点が多い場合は相談会を利用して、基礎知識を身につけておきましょう。
繰越控除は行うごとに申告
売却での損失を1年で控除できない場合は、最大4年に渡って繰越ができます。
繰越控除を適用する場合、適用する年度ごとに確定申告を行わなければなりません。売却した翌年しか確定申告をしていないと、余った分の損失を無駄にしてしまうため、注意が必要です。
繰越控除を適用するということは、それだけ損失が大きいとも言えるため、損失を少しでもカバーするためにも、忘れずに申告しましょう。
家の売却後は確定申告をしよう
確定申告に馴染みがない人も多いでしょうが、家を売却した後は、利益の有無に関係なく確定申告が必要です。
確定申告をしないデメリットは大きく、場合によっては損失を抱える可能性もあるため、注意しなければなりません。
確定申告は期間内に完了させることが大切なため、スムーズに進められるよう、事前準備を徹底することが大切です。
家の売却は確定申告が完了してようやく終了するため、最後まで気を抜かず、正しく申告して手続きを終えましょう。