活用しきれていない土地を持っている場合に、売却する、アパートやマンション、オフィスビルなどを建てて運用するという選択肢の他に、借地にする、という選択肢もあります。利用できていない土地であっても、固定資産税だけは所有していれば毎年支払わなくてはいけません。活用できる土地を活用しないというのはとてももったいないことです。
先祖代々の土地であった場合には、今はうまく活用できなくても、将来的に子供や子孫に受け継がせていきたいという強い思いを持っている人も少なくありません。資産運用して、少しでも利益を上げたいものです。
この記事では、土地を貸し出すことを検討している人に向けて、借地の基礎知識と、借地料の算出方法、借地に出すことのメリットとデメリットについてお伝えします。
- 借地料の相場は、「地域の相場」「土地の利用法」によって決まる
- 路線価の1.5%~3%程度が、年間借地料の相場
借地の基礎知識について
まず、土地を借地に出すことを検討する上で必ず知っておかなくてはいけない基礎知識についてみていきましょう。昔であれば、土地は貸したら最後、決して戻ってこないといわれていましたが、1992年の法律の改正により、そのようなことはなくなってきました。現在の土地の貸し出しとはどのように行われているのでしょうか。
「土地を貸したら絶対に戻ってこない」は昔の話
1992年より以前の土地の貸し借りでは、返してもらうのがとても大変でした。借主に引き払ってその土地から出ていってほしいと思っても、借主の居住権の方が強く認められたために、なかなか土地を引き渡してもらうことができなかったからです。
法律によって貸主から契約解除ができないことになっていたので、賃料を長い期間滞納していたとしても、退去して土地を返してもらうことは難しいものでした。
しかし、これではあまりにも貸主に対して不利すぎることと、相続税対策に土地を売却したり、土地で物納したいと思ってもできないといった問題が頻発するようになりました。このことから、1992年に定期借地制度という制度が始まり、一定の契約期間が過ぎたら無条件に土地を返さなくてはいけないようになりました。
定期借地制度について理解しよう
それでは定期借地制度というのはどのような制度なのでしょうか。定期借地制度というのは、土地の賃貸契約に期限を区切ることです。基本的に契約期間が終了したら、貸主の同意がなければ更新することはできません。
貸主にとっては、期限が来たら必ず土地が戻ってくるので長期的な目で見た場合の運用が可能になります。借主にとっても、その大きさの土地が必要な期間が区切られているのであれば、自分で土地を買うよりも安いコストで土地を活用できるというメリットがあります。
この定期借地権には一般定期借地権と、建物譲渡特約付き借地権、事業用定期借地権の3種類があります。それぞれどのようなものなのか見ていきましょう。
一般定期借地権とは
一般定期借地権というのは、借地権の存続期間を50年以上とします。その間、借地料を払い続ければ借主は自由に土地を使うことができ、建物を立て直すこともできます。
一般定期借地権では次の3つの特約が付いているのが特徴です。
- 契約更新はなし
- 建物の用途は限定しない
- 更地にして返還する
一般借地権では、広い土地をディベロッパーに貸して、そこに分譲マンションを建設するケースなどがあります。地主としては、長い期間、借地料が入ってくる上に、契約終了後には必ず更地になって戻ってくることや、借主が住居用の住宅を建てた場合には固定資産税の軽減措置の対象となるので、節税対策もできます。
建物譲渡特約付き借地権とは
建物譲渡特約付き借地権というのは、借地権の契約期間を30年以上に設定して、契約期間満了後には地主が建物を買い取ることで、土地の借地契約を終了させることです。
アパートやマンション、商業ビルやオフィスビルを事業者が土地を借りて建物を建てて始めて、土地の借地契約期間が終了したら、通常は地主がその建物を買い取って事業を継続していきます。尚、借地権を消滅させるためには、地主が必ず建物を購入しなくてはいけません。購入できなければ借地権は存続します。
事業用定期借地権とは
事業用定期借地権というのは、居住用には向かない土地や、短期間だけ貸したい場合に、コンビニやファミレス、工場などを造るために貸し出すことです。借地権の期間は10年から50年未満と短く、コンビニやファミレスの場合には10年に設定することがほとんどです。
現在は活用できていない土地でも、運用して賃料を得ながら、将来的には子供や孫の住宅用に譲りたい、という場合などに、短期的な運用ができるこちらの契約で土地を貸し出します。
借地料はどのように算出するのか
借地に出すことを検討している場合、最も気になることがどのくらいの利益を得ることができるのか、ということでしょう。借地料の相場はどのくらいで、どのように算出するものなのか、ここから見ていきましょう。
借地料を決める条件に付いて
借地料の相場というのは、全国統一のものはありません。土地の相場なりに借地料も決まっていくことが一般的ですが、借地料を決めるのには、いったいどのような条件があるのか、ここから見ていきましょう。
地域の相場
借地料の相場はその土地のあるエリアによって変わってきます。土地の価格が高い都市部であれば借地料も高くなる傾向にあり、安い地方であれば安くなることが一般的です。
土地の利用法
土地をどのように利用するのか、といったことでも借地料は違ってきます。高い収益を生み出す商業用ビルやオフィスビルであれば借地料も高くなりますが、資材置き場に使う場合には安くなることもあります。住宅用に利用されるのであれば、固定資産税が安くなるので、その分、地主の利益は大きくなります。
借地料の具体的な算出方法について
借地料はどのように計算するのでしょうか。ここからは借地料の算出方法について具体的に見ていきましょう。
積算法
積算法というのは、その土地の更地での価格に対して、運用した場合に期待される利回りと運用にかかる必要経費を加えた金額から借地料を決める方法です。運用してある程度の利回りやそれに対する必要経費が算出できる土地であれば、この計算方法が有効です。
賃貸事例比較法
こちらは近隣エリアの似たような条件の土地の借地料を参考にして、その土地の借地料を決定する方法です。近隣エリアに同じような土地で貸し出している土地が多くあり、借地料に関する資料が集められるエリアであれば、この方法が効果的です。
固定資産税を元にして算出する方法
固定資産税を元にして計算する方法もあります。こちらは、資料を集めたり、利回りを計算する必要がなく、土地を持っている人が簡単に計算できる、というメリットがあります。固定資産税と都市計画税が課税されているのであればそちらも合計して、その2倍から4倍程度の範囲で年間借地料を設定することが一般的です。
路線価から算出する方法
路線価というのは、国税庁が発表している土地の価格です。路線価を元に更地価格を求めて、そこから借地料を算出します。更地価格の目安は路線価に0.8を掛けた金額になります。その金額の1.5%から3%程度が年間借地料の目安になります。
尚、路線価から地価を算出するのは、道路との位置関係や土地の形、間口などによって評価額が変わってきます。この方法で算出する場合には、専門家に正確に算出してもらうことをお勧めします。
活用しきれない土地は貸すべき?メリットとデメリットについて
現在では以前と違って、定期借地権を設定すれば地主に有利に土地を貸すことができるようになりました。活用しきれていなくて、固定資産税の出費だけがある土地を貸し出して借地料を得ることは、資産運用として前向きに検討するべきことかもしれません。
しかし、土地を出しだすということには資産運用としての大きなメリットがある一方で、面倒くさいデメリットも存在するものです。こちらでは、使っていない土地を借地にすることのメリットとデメリットについてそれぞれ見ていきましょう。
借地にするメリットについて
まずは土地を借地として貸し出すことにメリットについてみていきましょう。借地にするメリットには主に次のようなものがあります。
利益を出しやすい
土地を貸し出すということは、マンションやアパートにして貸し出すよりもはるかに賃料は安くなります。しかし、最も大きなメリットは初期投資をしなくてもいい、という点です。地盤に何も問題がなければ、その土地を貸し出すための出費というのは0円で済みます。ただ今ある土地を貸すだけで、収益を上げてくれる、固定資産税代分くらいの利益は長期間にわたって毎年上げてくれる、というのは大きなメリットになります。
土地を自分で管理しなくていい
更地を持っていると、草刈りの要請を隣近所や市町村役場から受けることが年に数度あります。遠方の土地であれば交通費を掛けていったり、現地でお金を払って管理をお願いするのに、かなりの出費が必要になります。何も運用していなければ、このように管理の手間と出費が必要です。
しかし、貸し出してしまえば、そのような面倒くさい管理は借主がすべて行ってくれます。土地を管理しなくても済み、その上、借地料が入ってくるというのは、大きなメリットになります。
税金対策ができる
土地を貸し出すことで節税効果も期待できます。
まずは固定資産税が節税できる場合があります。空地に一戸建てやアパート、マンションといった住宅用の建物が建つと、土地の分の固定資産税は6分の1、もしくは3分の1に軽減されるので、大きな減額になります。
また、相続税対策にもなります。借地では借地人の居住権が強く保護されることから、相続税評価額から借地権割合が差し引かれます。相続税評価額が5千万円の土地で借地権割合が60%の土地の場合には、評価額が2千万円になり、その分だけ相続税が軽減されます。
借地にすることのデメリットについて
借地にすることには様々なメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。借地にするかどうかを考えるときには、メリットとデメリットを両方とも天秤にかけて考えた上で、判断することが大切です。
貸している間は土地を自由に使えない
借地権というのは、10年とか30年、50年といった長い期間にわたって設定するものです。一度設定してしまったら、地主の要望では解除することができません。
例えば、就職をして遠くの街へ出ていった子供が、仕事を辞めて家族を連れて帰ってきて地元で就職した、ということもあります。せっかく土地を持っているのだから、そこに新しい家を建てて住まわせてあげようと思っても、その土地に借地権が設定されてしまっている場合には、借地権が切れるまでは地主であっても自由に使うことはできません。
土地を貸し出す場合には、本当に将来その土地を使いたくなるようなことはないのかどうか、本当に貸し出してしまっていいのか、よく検討することが大切です。
苦情は地主へやってくる
その土地を借りている人が、騒音などのご近所トラブルを起こしたときに、すぐそばに地主がいればその苦情は地主にやってくることもよくあります。
不動産会社や管理会社を間に置いてなければ、地主がトラブル処理に追われてしまう、ということがよくあります。トラブルメーカーを入居させてしまったとしても、借地権が設定されている期間は、借主の居住権の方が優先されるために、出ていってもらうこともできません。
間に業者を挟まずに自分で直接土地を貸すときには、本当にその相手に貸して大丈夫なのか、しっかりと見極めることが大切です。
相続税対策が難しくなることがある
借地権を設定しておくことで、相続税を減額させることができる場合もありますが、貸し出していることで相続税の支払いが難しくなることもあります。それは相続税のお金が足りずに、貸し出している土地を売却して現金にして納税するか、物納するしかない場合です。
相続税のために必要なことであっても、定期借地権の期限内であれば地主はその土地を売ることも、物納することもできません。
将来的に相続税の支払いのために売却する必要がある土地であるのならば、借地権契約を短くする必要があります。しかし、コンビニなどで活用するのではなく、居住用として借りたい人は、長期間の契約を望むこととが普通です。定期借地権を長期間で設定することで、相続税がどのようになるのかは、貸し出す前にシミレーションしておくことが大切です。
借地と売却のどちらがいいのかはよく考えてから決断を!
この記事では土地を貸し出した場合の借地料の計算方法や、土地を貸し出すことのメリットやデメリットについてみていきました。
活用しきれない土地を持っているのであれば、貸し出すというのは1つの選択肢ですが、メリットとデメリットは良く天秤にかけて、考えるようにしましょう。
相続税対策などを考えたら、売却してしまった方が面倒が少なくて済むこともあります。売却と貸し出し、どちらがいいのかは良く考えてから決断しましょう。