資産を多く持つ人にとって、相続は重要な問題であり、いかに税金をかけずに相続できるかがポイントです。相続税は課税対象額に応じて大きくなり、遺産総額が巨額になるほど、相続税の負担も大きくなります。相続できる金額が大きくても、税金でほとんど持っていかれて、雀の涙ほどしか残らないこともあるため、注意しなければなりません。
相続税対策では不動産投資が注目されており、中でもアパートの経営に関心を寄せる人は多いです。アパート経営の節税効果の高さを知り、相続税対策に役立てましょう。
なぜアパート経営が相続税対策になるのか
相続税対策では、不動産投資の中でもアパート経営が注目されていますが、そもそもなぜこれが相続税対策になるのか、疑問に思う人も多いでしょう。アパートを経営するということは、アパートを購入する必要があり、新たに資産が増えることになります。
資産が増えると当然遺産総額にも影響しますが、実は賃貸物件の場合は税制面での優遇が大きいのです。所有している土地に新たにアパートを建てる場合、すでに所有しているアパートを賃貸物件に変える場合の両方で、相続税対策は可能です。
不動産は評価額で相続される
相続税は相続する遺産の金額によって課税対象額が決定しますが、不動産の場合、「購入額=遺産金額」になるわけではありません。不動産の遺産金額は評価額という指標で計算され、購入額より安くなることがほとんどです。
例えば1,000万円を持っている場合、現金のまま相続すると遺産金額は1,000万円ですが、土地を購入すると評価額が遺産金額になります。評価額は複数の要素によって決定しますが、仮に80%程度とするなら、遺産金額は800万円になり、現金よりも200万円節税効果が高くなります。
物件付きの土地の場合、評価額はさらに変わり、現金を不動産に変えるだけで、相続税の対策になることは覚えておきましょう。
賃貸物件は評価額が低い
建物は居住用と投資用の2種類に分けられ、賃貸物件は投資用に区分されます。投資用の場合、評価額は居住用とは指標が異なり、賃貸ならより評価額は下がりやすいです。同じ間取りや立地条件でも、居住用か賃貸かによって評価額は変化します。
すでにアパートを持っているなら、賃貸物件に変えるだけでも節税効果は高くなり、相続税の課税対象も小さくなります。
借入金も差し引きできる
賃貸用のアパートを購入する場合、一括で支払いが難しいなら、借入金を使って物件を購入します。実は借入金も遺産金額に含めることができ、マイナス計上できるため節税効果は高くなります。例えば現金が1,000万円、アパートの評価額で1,500万円の場合、遺産総額は2,500万円です。
これに借入金が3,000万円あると、合計で-500万円になり、相続税の課税対象はありません。借入金があると、負債を残すことになり、相続者に迷惑をかけると思われがちですが、実は節税効果があることは覚えておきましょう。
相続税対策でアパート経営をするメリット・デメリット
アパート経営は相続税対策の常套手段であり、多くの人が活用しています。古くから使われている方法なだけに、メリットは大きいですが、反面デメリットもあるため注意しなければなりません。アパート経営をしたからといって、必ずしもお得になるとは限らず、なにもしないほうがプラスになることもあります。メリット・デメリットの両方を知り、アパート経営で相続税対策をする場合の魅力と危険性を理解しましょう。
アパート経営のメリット
相続税対策でアパート経営をするメリットは、大きく3つに分けられます。
遺産総額が減る
アパート経営をする最大のメリットは、遺産金額を減らせる点にあります。アパートの建設費はもちろん、建設用に土地を購入した場合はその費用も含めて現金が減少し、かつ評価額の低い資産に変わるため、より高い節税効果が期待できます。
アパートは建設して終わりではなく、そこから経営もしなければなりません。アパートの経営では管理や維持にも費用がかかるため、これらで現金を減らしておくと、収益物件を保有しつつ、遺産総額をさらに減らすことができます。
収益が得られる場合も
アパート経営は出費が増えるだけではなく、経営次第で利益が得られることもあります。アパートの戸数や家賃の設定額にもよりますが、満室状態なら利益を得られることがほとんどでしょう。利益を得ると資産が増えるため、遺産金額も増えてしまいますが、賃貸物件で評価額が下がっていることと比べると、悪くても差し引きゼロ程度になることが多いです。
仮に現金の場合と相続する遺産金額と同じでも、相続後にも収益を上げ続けるなら不労所得が得られるため、実質の利益は大きくなるでしょう。
税金対策にも繋がる
アパート経営は相続税だけではなく、その他税金対策に繋がることも多いです。不動産を所有していると、毎年固定資産税や都市計画税などが発生します。賃貸物件の場合、これらも費用に計上することができ、帳簿上の収入を抑えられるため、所得税と住民税の節約になります。
さらに経費が多く、帳簿上で収支がマイナスになっているなら、他の所得と合算して、給与所得や事業所得の所得税、住民税の還付を受けることも可能です。帳簿上でマイナスになっているといっても、経費の計上額が大きいだけで、実際には利益が出ている場合もあります。利益を得ながらも相続税を含めた各種税金対策ができる場合もあるため、金銭的なメリットは大きいでしょう。
アパート経営のデメリット
相続税対策でアパート経営をするデメリットは、大きく3つに分けられます。
管理にコストがかかる
アパートを経営するには、念入りな管理が必要であり、コストがかかってしまいます。管理にかかるコストとは、金銭的な負担はもちろん、時間的な負担も含まれるため、注意しなければなりません。管理人を雇ってアパートの管理を任せることも可能ですが、経営の収支の計算や物件状況の確認など、アパートのために時間を費やさなければならないことは多いです。
また、管理人を雇うことでコストは増大し薄利になる場合もあります。アパート経営のコストは幅が広く、思わぬところで手間や負担が増える可能性があることは理解しておきましょう。
損失が出る場合も
アパート経営でコストが増えるだけならまだましですが、場合によっては損失が出る可能性もあるため、注意しなければなりません。損失が出ると他の所得と損益通算して税負担を引き下げられますが、損失自体が大きいと節税効果を打ち消してしまう可能性もあります。
損失が出ると遺産金額も当然減りますが、これは相続できる金額を減らすことを意味します。税金がかかりづらくなるのはメリットですが、反面残せる遺産そのものが減ってしまい、少しでも多く資産を残すという本来の目的を果たせない危険性が高いです。
処分の自由度が下がる
賃貸物件の評価額が低いのは、処分の自由度の低さが原因です。一度賃貸に出し、入居者が入ると、原則全ての入居者が出ていくまで、賃貸以外での転用や売却はできません。入居時には賃貸契約を結び、2年や3年更新になっていることが多いですが、これはほとんど自動更新です。
契約が満了したからといって、すぐに退去を求められるわけではなく、入居者が居住の意思を示すなら、契約は自動で更新されます。入居者に退去を迫れるのは、正当な事由がある場合のみであり、大幅な契約違反や迷惑行為がない限り、退去は入居者の意思に左右されると考えましょう。
いざ売却したいとなっても、賃貸物件はすぐに身動きが取れないことが多く、退去を待っているうちにタイミングを逃してしまう可能性もあるため、注意が必要です。
アパート経営以外の相続税対策は?
アパート経営も立派な相続税対策ですが、資産が多いとそれだけで不十分な場合もあります。効率よく相続税対策を行うなら、複数の方法を試すことが大切です。アパート経営は方法のひとつにしか過ぎないため、賃貸経営と並行して、他の相続税対策も進めましょう。
居住用の物件を建てる
賃貸物件を建てるだけではなく、居住用の物件を建てることも、相続税対策に繋がります。居住用でも不動産は評価額で計算されるため、現金で保有するより遺産総額は小さくなります。賃貸物件に比べると、評価額は高くなりますが、そもそもアパート経営に自信がないなら、無理に賃貸物件を建てる必要はありません。
賃貸用のアパートを建てるなら、きちんと経営できることが大切であり、ある程度の知識、ノウハウが必要です。自分に経営の心得があっても、相続者が上手に経営できるとは限らないため、賃貸物件を残しても迷惑がかかる可能性があります。
賃貸物件を必要としないなら、誰でも活用しやすいよう居住用の家を建てたほうが使い勝手は良く、かつ多少の相続税対策にはなるため、おすすめ度は高いです。
不動産を売却する
そもそも相続時に不動産が不要な場合は、売却して現金化するのもひとつの手です。現金化すると相続税の課税対象が増えてしまいますが、少しずつ生前贈与をするなら問題はありません。生前贈与でも贈与税が発生しますが、年間110万円までなら非課税で贈与が可能です。
1年で110万円でも、10年だと1,000万円以上非課税で贈与できるため、かなりの節税対策になるでしょう。死亡する3年以内の生前贈与は、相続時の遺産金額に含まれてしまうため、贈与するなら早めに動き出すことが大切です。
また、生前贈与をしないなら、不動産を売却するメリットはありません。現金化することで、課税対象を増やしてしまうため、生前贈与の意思がないなら不動産のまま相続させたほうが良いでしょう。
遺産総額を減らす
相続税は相続する遺産金額の総額で決定するため、遺産金額そのものを減らすことで、税負担は抑えられます。遺産金額を減らすには、財産を使うこと、評価額の低い不動産を購入することはもちろん、非課税の資産の購入に充てるのもポイントです。
同じ資産でも、お墓や仏壇などは課税の対象外のため、どれだけ高額なものを買っても遺産金額には含まれません。また、遺産金額は葬式の費用も差し引いて計算するため、ここに費用をかけるのもポイントです。非課税のものは死後必要になるため、終活の一環で身辺整理を兼ねて、非課税資産を購入しましょう。
相続税対策とアパート経営を両立させるには
相続税対策でアパート経営を始める人は多いですが、単に節税目的で行うだけではなく、きちんとアパート経営と両立させることが大切です。いかに相続税の対策ができても、経営に失敗するとリスクが高くなり、結果的に損をする可能性もあります。
相続税対策をしつつも、アパート経営にも力を入れ、両方を成功させるのがベストな状態です。それぞれの両立を目指し、金銭的なメリットをさらに高めましょう。
損失を出し過ぎないこと
アパート経営は、仮に損失が出ても相続税対策では問題がなく、むしろマイナスが多いほど節税効果は高まります。しかし、節税効果には限界があり、それを超える損失を出してしまうと今度はマイナス面が強くなってしまいます。
相続税対策でアパート経営を行うなら、過剰に利益を出し過ぎると課税額が上がり、本末転倒になりますが、損失を出し過ぎるのも考えものです。損失は出し過ぎないなら問題はないため、ある程度良好な経営状態が保てるよう、経営戦略を考えることが大切です。プラスを目指すよりも、マイナスを抑える経営を心がけましょう。
借入金を大きくしない
借入金は相続時の遺産金額から差し引いて計算できるため、金額が大きいほど節税効果は高いです。しかし、あまりに借入金が大きいと、アパートの経営が苦しくなり、金利だけで費用回収が追い付かなくなる場合もあります。相続税対策のために、あえて借入金を大きくし、相続後すぐに売却するという方法もありますが、この場合だと利益が出ない可能性も高いです。
また入居者がいるなら、そもそも売却自体も難しく負債だけが大きく残って、相続者への負担が大きくなります。多少の借入金はあっても問題がありませんが、損失同様、大きすぎると節税効果を超えたマイナスになります。節税効果はあっても、借入金はあくまで負債であることは理解して、アパート購入時には金額を調整しましょう。
相続税対策にアパート経営は効果的
アパート経営にはメリットとデメリットの両方がありますが、相続税の対策になることは確かです。現金で相続するより更地、更地よりも建物付き、建物付きでも賃貸物件と評価額は下がります。評価額が低いほど相続時の遺産金額は減るため、結果的に相続税の引き下げが狙えるでしょう。
ただし、相続税対策だけでアパートを購入すると、後で困る可能性もあります。アパートは相続後も問題なく経営できること、大きな損失を出さないことが大切です。相続税対策とアパート経営の両立がベストな状態のため、どちらか一方に傾き過ぎないよう、注意して不動産の処分を決めましょう。