近年、マンションの耐用年数が大きな問題になっています。
1970年代~80年代前半に建てられたマンション、とくに81年より前の旧耐震物件において、「そろそろ寿命か」という建て替え問題に直面しています。
耐震性などの問題から建て替えが必要でも、居住者にとって1戸あたり数千万円単位の負担を強いられることもあり、なかなか意見がまとまらず、建て替えが進まないことが現実のようです。
もしも終の棲家と思って購入したはずの自宅マンションに建て替えの話が出たとしたら、あなたはどうしますか?
この記事では、マンションの耐用年数や、寿命を迎えたマンションはどうなるのか見ていきましょう。
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マンションの耐用年数とは
マンションの耐用年数とは、法人税などを計算するうえで統一した基準で減価償却の計算を行うために法律で規定された年数のことです。
耐用年数を過ぎたからといって住んではいけないというわけではなく、減価償却費算出のため法的に定められた年数が耐用年数です。
マンションの耐用年数は47年
耐用年数は物件の構造によって年数が定められています。
マンションは基本的に鉄筋コンクリートで作られているので耐用年数は47年となっています。
構造 | 耐用年数(住宅用の場合) |
---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 22年 |
木骨モルタル造のもの | 20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 38年 |
(参考:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数(建物/建物附属設備)」)
例えば、鉄筋マンションを4,700万円で購入した場合、定額法での減価償却は次のような計算を行い、毎年100万円ずつ価値が減っていくことになります。
税の計算で使われる考え方で、固定資産の価値や寿命を考える一つの目安になります。減価償却費の計算方法については5章で詳しく説明します。
耐用年数がマンションの寿命ではない
耐用年数は、あくまでも法律で画一的に定められた減価償却費の計算に用いる基準です。「実際にマンションに住むことができる年数」という意味ではありません。
マンションの寿命は物件の状態によって変わってきます。
マンション建築で使われているコンクリートの質や、入居後に適切なメンテナンスを行っているか、地震などの災害に遭ったことがあるかによってマンションの寿命が変わります。
住宅性能表示制度を利用している場合には、パンフレットなどに劣化対策等級が、等級1から等級3まで記載されています。
等級1は、最低限の建築基準法に定められた対策がなされていることを、等級2は今後2世代(約50年から60年)、等級1は今後3世代(75年から90年)は耐久性が見込めることを表しています。
マンション平均寿命は68年
取り壊されたマンションの平均寿命は、国土交通省が2013年に発表している資料によると平均68年で取り壊されています。
そのなかで、取り壊したのちに建て替えられたものに限っての平均は33年です。
これはあくまでも平均であって、50年で建て替えられているマンションもあれば、33年で壊されてしまい、その後の建て替えがないものも当然あります。
1981年に「新耐震基準」が始まりましたが、それ以前に建てられた建物というのは、震度6から7の揺れで倒壊する可能性があります。
耐震補強工事をするくらいなら、建て替えて戸数を増やしたほうが良いという考えもあり、建て替えが進められているケースもあります。
マンションの寿命は最長150年
一方、最長で100年以上の耐久性を備えているマンションもあります。
国土交通省の調査によれば、コンクリート造の建物の寿命は120年、リフォーム等の延命措置を行えば最長で150年まで住み続けることができるとされています。
しかし、50年ほどで住めなくなるマンションがあるのも事実です。早く寿命を迎えるマンションと長く使えるマンションの違いは何なのでしょうか?
マンションの寿命を左右する要素
鉄筋コンクリート造りの建物というのは、本来であれば100年以上持つと言われています。
しかし、現実には先ほど述べたように、現在の日本では全体で70年弱で取り壊されていることが現状です。
取り壊される理由もさまざまですが、「建物が寿命を迎えて、これ以上使い続けることができなくなった」という理由も多いようです。
寿命を早く迎えるマンションと、長く使い続けられるマンションとでは、いったいどんな違いがあるのか見ていきます。
要素①:構造上の問題
マンション構造を理解する上で、重要になるのが耐震基準です。
旧耐震基準(1981年6月1日以前に施工された建築物)に基づいて建設されたマンションは現在の新耐震基準を満たしておらず現行と同じ基準の耐震性が備わっていません。
旧耐震基準では”震度5程度の中規模地震で建物が崩壊しないこと”が基準でした。
しかし、新耐震基準では建物内の人命を守ることに焦点があてられ、”中規模の地震でほとんど損傷しない、かつ、大規模の地震で倒壊・崩壊しない”基準になりました。
つまり、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊を免れる耐震基準が求められています。(参考:国土交通省)
大規模地震が頻繁に発生する日本では旧耐震基準で建てられた中古マンションが選ばれにくい(売却しにくい)のが実態です。
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要素②:メンテナンスの問題
マンションの寿命に大きな影響を与えるのが、メンテナンスの問題です。
近年に建築されたマンションであれば、長期修繕計画書が作成されており、定期的にメンテナンスが施されています。
一方、古いマンションの中には長期修繕計画が存在せず劣化が目立ち始め不具合が発生してから、修繕をしている建物もあるようです。
このような物件は例えば20年間以上何も手入れしないままになっていることもあり、建物の寿命が短くなる原因になります。
特に必要なメンテナンスは配管工事
現在、建て替えが進められているマンションの多くが、1960年代から70年代の高度経済成長期に建設されたものです。
鉄筋コンクリート造りの建物の寿命から考えると、耐震工事さえしっかりと行えば、まだ使い続けられるはずですが、この時代のマンションは配管に問題があると言われています。
この時期に建てられたマンションの一部物件では、配管をコンクリートの中に埋め込んでしまっている物件もあります。配管の寿命は長くても30年と言われているので、すでに寿命を超えているものがほとんどです。
しかし、コンクリートの中に埋め込まれているため、交換することができずに、建て替えるしか選択肢がないというマンションが多いことが現状のようです。
要素③:建材の質
マンションで使われているコンクリートの質も寿命の長さに関わってきます。
例えば、マンションが大量に建てられた1970年代のマンションには質の悪いコンクリートが使用されていることもあり、一部の物件では、築10年経つと雨漏りが相次いだという問題も発生しているようです。
また、給排水管の材料も要注意です。給排水管は、さびやすいメッキ鋼管よりも、腐食に強い塩化ビニール管の方がいいとされています。
要素④:立地条件
マンションの寿命は、マンションが建っている立地や周辺環境が影響してきます。陽当りが悪ければカビが発生しますし、海に近い立地なら塩害対策をしなければなりません。
寿命を迎えたマンションはどうなるか
寿命を迎えてしまい、住み続けることができなくなってしまったマンションはどうなるのでしょうか。
耐震性にも問題があり、配管もボロボロになってしまったら、そのまま住み続けるわけにはいかなくなります。そうなってしまったマンションには、どのような選択肢があるのか見ていきましょう。
居住者負担で建て替える
一つ目の選択肢には、居住者負担で建て替えるというものがあります。しかし、これは現実的ではありません。というのは、建て替えには所有者の5分の4以上の賛成が必要になることと、建て替えの費用が1戸あたり数千万円以上に及ぶことが多いためです。
新築のときから、長年住み続けてきた住民の中には、すでに定年を迎えている人も多く、今から何千万円もの住宅ローンを組むことができないという住民も多いことが、建て替えが必要なマンションの実態です。そのため、なかなか居住者負担による建て替えは、進まないのが現実です。
ディベロッパーなどに売却
二つ目の選択肢として、ディベロッパーなどに建物ごと売却してしまって、売却益をそれぞれが受け取って、引越しをするというものがあります。ディベロッパーは建物を解体したうえで、新しいマンションや商業用ビルを新しく建設します。
ただし、売却費用から、建物の解体費用が差し引かれてしまうので、すべての所有者に分配する金額は、期待したほどにならないこともあります。新しい住居を用意する費用が足りないこともあるので、反対する人が多くなかなか実現しません。
解体したうえで土地を売却
すべての住民に引越しをしてもらってから、解体して更地にしたうえで売却するという選択肢もあります。この場合には、売却した利益の配分は引っ越し後になります。
そのうえ、マンションの場合には解体費用がかなり高額になることから、売却費用から解体費用を差し引くと、大した金額になりません。
やはりこちらも、新居を用意して引っ越す費用を考えると、現実的ではありません。
居住者負担0円で建て替えられる場合も
現在進められている建て替えの多くが、居住者負担0円で建て替えるという方法です。
こちらは、建物の建ぺい率と容積率を使っていない部分を用いて、以前のマンションよりも大きなマンションを建設します。そして、増えた戸数分だけ分譲マンションとして販売すれば、居住者負担0円で建て替えが行える可能性があります。
都心の一等地などでは、建設費用の負担が0円というだけでなく、建設中の仮住まいや2回の引っ越し費用も賄えてしまう場合もあり、現在積極的に推進されています。
そのまま住み続ける
使っていない建ぺい率と容積率を活用して、戸数を増やして分譲した収入から、建て替え費用および、現在の居住者の仮住まいと引っ越し費用を賄うことができなければ、寿命が来たマンションを取り壊すことは、居住者に多額の負担となります。
新築のときから住み続けている居住者の多くが高齢者で、新居を探してこれから新しい家で、新生活を始めようという気力のない人が多いことが現状です。
そこで、いろいろと不具合があっても、終の棲家としてこのまま住み続けることを、選択する場合も少なくありません。
しかし、そういったマンションでは管理組合も実質稼働していない場合もあり、また「耐震性などに問題あり」のマンションもあることから、今後の対策が急がれています。
マンションの減価償却費の計算方法
建物や機械など、長い年数使い続けるものは、購入するときに多額の出費が必要になります。
一度購入してしまえば数年間、場合によってはメンテナンス代だけで数十年も使い続けることができます。
こうした不動産や設備などを、購入した年の会計で、経費として一度に計上してしまうのではなく、分割して1年ずつ計上していくことを「減価償却」と言います。
ここでは投資用マンションを持っている人向けに、減価償却費の計算についてお伝えします。
覚えておかなければならないことは、減価償却ができるのは建物本体と設備だけだということです。
土地は減価償却できないので注意しましょう。また、建物本体と設備の減価償却できる年数は違うので、こちらも注意が必要です。
まずはマンションであっても、持分割合によって土地を所有しているので、購入費から土地の持ち分価格を差し引きます。
また、設備費も同じように購入価格から差し引きます。土地や設備の価格は、通常は売買契約書などに記載されていますが、中古マンションの場合には、しっかりと分けて記載されないこともあります。
その場合、不動産会社に聞いて、どのような内訳になっているのかを確認しましょう。
購入価格から、土地と設備の価格を差し引いた金額が建物本体の価格です。
建物本体価格と設備費に、耐用年数によって定められている償却率を掛ければ、減価償却費が算出できます。
中古マンションの場合には、法定耐用年数から、築年数を0.8倍した年数を差し引いた数字が、残りの法定耐用年数になります。なお、建物設備の法定耐用年数は15年です。
例えば、築10年2カ月の物件を3,000万円で購入して、土地が1,500万円、設備費が300万円で建物本体が1,200万円だった場合の減価償却は、次のように計算します。
【建物本体の法定耐用年数】 47年-(11年×0.8)≒38年 (端数は切り捨て切り上げ適時) *償却率は0.027【建物設備の法定耐用年数】 15年-(11年×0.8)≒6年 (端数は切り捨て切り上げ適時) *償却率は0.167
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建て替えの話が出始めたら早めに売却を考えよう
寿命が来たマンションを建て替えるということは、とても大変なことです。
新たな購入者が多く見込める立地であれば、建ぺい率を増やして、実質居住者負担0円で建て替えるという方法も取れますが、すべてのマンションでこの方法が取れるわけではありません。
定年後にマンションの寿命が来てしまい、建て替えや住み替えが必要になったら、面倒くさいことになるのが目に見えています。
下手をすると、居住者負担や新居探しで、退職金の貯えも吹き飛んでしまう可能性があります。
そうなってしまったら老後の生活も危うくなってしまいます。今住んでいるマンションの寿命の話や建て替えの話というのは、管理組合の総会で必ずいつかは話題になるものです。そういった話が出始めたら、中古マンションとしてまだ価値があるうちに、売却することをおすすめします。
現在、中古マンションは人気がありますので、もっと長く住み続けられるマンションや一戸建てに住み替えて、安心できる老後を選択することをおすすめします。
また、中古マンションの購入を考えている人は、検討しているマンションの寿命ということも考えて検討しましょう。住宅性能表示制度による等級を、確認できる物件のみを探すなどして、あらかじめ自衛することが大切です。