せっかく高い資金を使って手に入れるのですから、できるだけ長く住める家であってほしいものです。その住める期間は、建物自体の材質や構造、立地条件や周囲の環境によって大きく異なるはずです。一般に言われる「耐用年数」は木造住宅で22年とされていますが、全ての木造住宅に適用されるのはなぜなのでしょうか。
ここでは、住宅の「耐用年数とはなにか」を探り、その意味や使い方、現実的な「寿命」との違いを考えていきます。
1. 住宅の「耐用年数」とはなにか
「耐用」とは、使用に耐えること、その期間や回数を言い、その年数ならば素直に考えれば「使用に耐えられる期間」。住宅の耐用年数と素直に考えれば「住むために耐えられる年数」、つまり住宅の「寿命」と思えることから、耐用年数と寿命を混同してしまうのは仕方のないことかもしれません。しかし、現実で「耐用年数」というと、たった1つの意味を表します。
1.1 耐用年数は会計上の「基準」のこと
耐用年数とは、会計上で減価償却資産が利用に耐えられる期間(年数)のことです。「減価償却」とは次のような考え方のことです。
減価償却とは
企業などで高額な費用を支払って得る物品や権利は多くの場合、そのとき・その1年だけで使うのではなく、その後数年・数十年にわたって利用します。つまりこの高額な費用は「数年間利用する費用の合計」と考えられます。
とすると、手に入れた当年に一括して費用を計上すると、大きな赤字になりますが翌年からその費用が一切かからないため赤字は大幅に改善します。しかし実際には翌年もその翌年もその物品や権利を利用して収入を得ています。実際の経営の実態に比べると、当年は費用が大きすぎ、翌年以降は費用が少なすぎるのです。それをその使える期間、一定の決まりにのっとった費用として計上する仕組みが「減価償却」なのです。
取得費と耐用年数から減価償却費を計算
ここでいう「支払った高額な費用」は、その減価償却資産を手に入れるための「取得費」です。ではその「使える期間」がわかれば、1年ごとに計上できる減価償却費がわかります。しかし単に「使える期間」と言ってもそのモノや性質によって様々で、状況による変化も含めると1つ1つが違う可能性もあります。
そのため、そのモノや性質・用途などによって区分を設け、それぞれに「使える期間」を定めました。実際の利用の現実をもとに定めているため、誰にも公平に減価償却できるようになったのです。
1.2 耐用年数は性質や素材によって異なる
国税庁ホームページには、主な減価償却資産の耐用年数が示されています。そのうち、建物や建物附属設備に関する耐用年数は以下のようになっています。
建物
構造・用途 | 耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの | 12年から24年 |
木骨モルタル造のもの | 11年から22年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 31年から50年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 30年から41年 |
金属造のもの | 15年から38年 |
上表から、建物の構造や用途によってかなりの違いがあることがわかります。実際には、それぞれの構造や用途の中にも、細かい用途や条件ごとに耐用年数が定められています。
細目には、住宅用のほか、店舗用・事務所用・飲食店用・公衆浴場用のものなどがあり、最も耐用年数が長いのは「事務所用」、最も短いのが「公衆浴場用」です。これは主に水やそれに付帯する劣化要因があるかないかによる違いです。
建物附属設備
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
アーケード・日よけの設備 | 主として金属製のもの その他のもの | 15年 8年 |
店舗簡易設備 | 3年 | |
電気設備(照明設備を含む) | 蓄電池電源設備 その他のもの | 6年 15年 |
給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
また建物に附属する設備についても細かく定められています。多くは店舗や工場などの設備ですが、住宅でいうと給排水・衛生設備・ガス設備の耐用年数が適用されます。
リフォーム箇所 | リフォームした方がよい理由 | リフォームの内容 |
建物外周の足元と1階の壁 | 耐震補強のため。過去大規模な地震でも崩壊しやすい部分。 | 腐朽した土台部分の木材を取り換える 金物で土台部分と基礎部分をつなげる |
床組み・床下 | 地盤が軟弱な場合床下に隙間が出来たり、湿気がたまり家を支える木材が腐朽しやすいため。 | 金物を使用して土台部分の接合部を補強する 床下の木材をヒノキに取り換える |
水道管 | 劣化によりさびが発生している可能性があるため。 | 給水管を変え、二重構造の配管にする |
電気配線 | 劣化による漏電を防ぐため。 | コンセントや配線を増やす |
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1.3 耐用年数の使われ方
耐用年数は、概ね「建物の使える期間」を表します。厳格にはそれぞれの状況などによって実際の「使える期間」とは異なりますが、一定の「基準」として利用されることがあります。本来の意味である「減価償却期間の利用に耐える年数」と比較することで、次のような使い方をされる場合があります。
住宅ローンは耐用年数が基準
住宅を買うための融資「住宅ローン」でも、耐用年数が一定の役割を果たします。特に不動産投資対象であるアパートで使えるアパートローンでは、融資期間を「法定耐用年数以内」とされ非常に厳しかったり、メガバンクで耐用年数を超えた物件への融資を受けることについてもかなりハードルが高いのが現実です。
しかし一方で「法定耐用年数=融資期間」とは一概には言えず、地方銀行や信用金庫などでは管轄地域内であれば耐用年数を超えた物件への融資も検討してもらえることがあります。
金融機関にとっては、融資とは「債務不履行になったときに、物件を差し押さえて損が出なければよい」というものです。たとえ建物が法定耐用年数を越えていて価値がゼロであったとしても、土地には値段がつきます。評価基準は様々ですが、一般的な積算法であれば相続路線価格の7割から8割程度が土地の担保価格とみなされ、融資は耐用年数とは別に審査されることもあるのです。
既存の木造住宅をどうするかという目安
今住んでいる、または所有している木造住宅をどうするか。築年数を経ると、だんだんとそんな「将来」についても考えるようになります。もちろん外観や設備の劣化は不具合の発生ごとに対処するでしょうが、建物を含めた住宅を今後どのように使うかは重要な問題ですから、それに備える必要があります。
その際必要になるのが、いつまでに備えればいいのかという「タイミング」です。例えば売却して住み替える、リフォームや大規模リノベーションでその先数十年住み続けるなど将来住宅をどうするかは事情によって様々です。それらに備えるための基準として、耐用年数を使う場合もあります。
1.4 耐用年数が過ぎても利用できる
耐用年数とは使える年数としてはおおまかな基準でしかありません。住宅だけでなく世の中にあるものは、きちんと維持・管理することで使える年数を長らえることができるのです。木造住宅の耐用年数を超えた住宅が多く存在するのはそのためです。
減価償却の考え方によれば価値はゼロであるかもしれませんが、水まわりや外壁、屋根を丁寧にメンテナンスすれば十分価値のある住宅として維持することができます。特に売却するときは、残っている資産的な価値よりも住宅そのものの状態や使いやすさが重視されます。もちろん築年数は検討されますが、状態が良ければ「思ったよりいい物件だ」と捉えられ、高額で売却されることも少なくないのです。
・減価償却に必要な基準
・資産別に決まっている
・使える年数の基準である
2. 「木造住宅の寿命は30年」といわれる理由
一般に「木造住宅の寿命は30年」と聞きますが、耐用年数ともズレがあるためそれには別な理由がありそうです。ここではその理由について探ります。
2.1 住宅の中で最も多い構造は「木造」
わが国には、築数百年という木造建築物がたくさんあります。木造住宅は、そんな伝統的な建築技術を活用していますが、それは気候や環境に適していたからこそ普及しました。
木造に限らず、建物は天候や環境の影響を大きく受けます。わが国は台風や大雨などの災害も多く、それにさらされてもなおしっかりとあり続けることは非常に難しいことです。設計や建築時のちょっとした配慮や住み方・使い方、災害時に限らず定期的に状態を確認し、細かくメンテナンスすることでも寿命は大きく変わります。
2.2 「築30年」になると起こること
一方で「築30年」ほどになると自然に起こることがあり、その際に「やはり30年が限度なのか」と感じる人が多いのも事実です。築30年の時点で取り壊し、建て替えてしまえばその家の寿命は30年。まだまだ住むことはできても他の理由によって寿命が決まってしまうことになります。
設備や内外装の寿命
ガス設備や給排水設備の耐用年数は15年とされています。故障や不具合から一度は交換できても、2回目は設備の進歩が大きいため、ちょっとした工事で交換することは難しくなり、大がかりなリフォームやリノベーションが必要になる場合もあります。
その見積額の大きさから「いっそのこと建て替えたほうが良いのではないか」と考えても不思議ではありません。特にタイル貼りの浴室や、シンプルな洗面台は、充実した機能を持つ現代の製品と比べるとあまりに魅力的です。また高齢になると以前は気にならなかったわずかな段差も危険です。バリアフリーというリフォームはお金には変えられない面があります。
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間取りや外観が古くなる
時間が経てば、最初は夫婦二人だけで、将来の子どものためにと新築した住宅でも、30年経てば子どもは成長して独立し、再び夫婦二人住まいになる場合もあります。子どもがいればちょうどいい広さ・間取りでも、いなくなるとあまりに広く感じられ、掃除するにも大変になります。
また昔はある程度の広さがあるリビングがあればよかったのですが、最近ではリビング・ダイニングを分けない広々とした部屋が人気です。窓も広いため昼間は明るく開放感があり、家族が多くの時間をそこで過ごします。昔の間取りの、リフォームできない設計なら、昔の間取りで住むしかありません。この家を子ども夫婦に譲るにしても、人気の間取りでないことから断られる可能性もあります。
浴室・トイレやキッチンも同様ですから、こうなると「建て替えてしまうか」と考えるのは無理もありません。やはり家の「寿命」より短い築年数で取り壊されることになるでしょう。
耐震改修工事の要望
1986年に施行された「新耐震基準」もかなり大きく取り上げられるようになりました。東日本大震災以降も各地で大きな地震が発生し、その度に大きな被害からその必要性が増しているからです。新耐震基準施行以前に建てられた住宅は、阪神淡路大震災でも被害が多かったといいます。住宅会社は最低限の基準を満たすだけでなくそれ以上の耐震機能をそなえた商品を次々と開発しています。
地震での被害が広まるほど不安は大きくなり、耐震改修工事を施すことになります。しかしあくまで耐震機能を強化するのであって、新耐震基準で設計・施行されたものの耐震性能には及びません。業者の耐震改修工事提案の中で、建て直しによる耐震性能を促されることはよくあるようです。
・内外装の改修がきっかけに
・将来住む人が使いやすく
・耐震性能の必要の高まり
3. 木造住宅の現実的な寿命
それでは、住宅で最も多い「木造住宅」の、物理的・現実的な寿命について考えてみましょう。考え方や測り方によってさまざまですが、中には耐用年数を定めるにあたり参考にされたデータもあります。
3.1 建物の平均寿命
建物の平均寿命は、新築から取り壊しまでの期間をいいます。国土交通省では便宜上の木造住宅の寿命を約30年としていますが、それはこの平均寿命27年ということからきています。あくまで現象としての新築・取り壊しまでの年数の平均ですから、それは「住めなくなったから取り壊した」場合だけではありません。とすれば木造住宅の寿命は、30年以上だろうと考えることができます。
鉄筋・鉄骨コンクリート造であるマンションは、多くが交通の便や生活するための各種施設が近い場所に多く建てられます。逆に言うと、それらがなくなればマンションに住む人は少なくなり、その必要に応じて建て替えることも起こりやすいのです。マンションの平均寿命は37年とされていますが、これも住めなくなったためというより「ニーズがなくなったため」であり、やはり物理的な寿命とは異なります。
しかしわが国には築数百年の古民家や、法隆寺のような建造物があるのも事実です。しかしそれはかなり上質の建材・工法であることや、それを代々守る人々がいたということ、また天災などの外的要因から逃れるという「運」という複数の要因があっからこそ。それ以外の木造建築のほとんどが今はないことからも、それほどの長寿命は難しいことがわかります。
3.2 現存する住宅の築年数
総務省統計局がまとめた、現存する同年代築年数住宅がどのように分布したチャートがあります。2015年の情報ですが、その中では築20年以上の住宅は全体の6割を超えています。その中のわずか2%が1945年(終戦した年)以前に建てられたことを考えれば、一部の古民家を除けば住宅は「一定期間で建て替えるのが普通」と言えます。ただしその期間はまちまちです。
3.3 研究による実質的な住宅の寿命
こうした「建物の現実の寿命」とは別に、建物の推定寿命についての研究も行われています。
木造住宅については2011年に、早稲田大学の小松幸雄教授による調査結果が最も広く知られています。建物の完工後取り壊されていない建物の比率(残存率)が50%となるまでの推定年数が65年と算出されました。
コンクリート造の建物については、先の小松教授による同様の計算では68年、1979年に算出された実際の建物の減耗度調査によれば117年、1951年に当時の大蔵省主税局が示した物理的効用持続年数として120年、それを外装仕上げにより延命した場合150年とされています。
・建物は事情で取り壊される
・寿命の前に取り壊すことも
・木造住宅の寿命は65年
4. 住宅の寿命の実際
現在では新築だけでなく中古住宅の流通もかなり増えてきました。その原因は買い手の経済的事情もありますが、政府による空き家対策や中古住宅のメンテナンスやリフォーム・リノベーション技術の向上によるものだと考えられます。
4.1 家を長持ちさせることは難しくない
戦災を逃れた東京のある住宅は「築70年に住み続けているのは高齢者の一人暮らしで、死ぬまでは建て替えるつもりはない」という状態でした。もちろんその間、決定的な災害に遭わず、都市計画により立ち退くこともなかったという運のよさもありますが、逆に言えば「これくらい住み続けることは難しくない」とも考えられます。
4.2 古くても快適な住まいを実現する技術が向上
さらに現在は、中古住宅市場の活性化もありリフォームやリノベーションの技術が大きく向上しています。以前なら壁紙や床の素材を変更するなどの内装リフォームが主流でしたが、最近は基礎構造だけを残して骨組みだけにしてしまい、建物をほとんど「建て直す」ほどのリノベーションを提供する業者も増えてきました。建物自体が古くても、基礎構造が十分安全なら、思うような住環境を作ることが可能になったのです。
4.3 住宅の寿命は長くなってきている
前述の小松教授による1997年の調査では建物の平均寿命は43.53年、2006年では54年、2011年はさらに65年と、14年の間に21.5年も寿命が長くなっていることがわかりました。この期間に建築技術が劇的に向上したとは考えづらいため、1990年代後半からは世帯平均所得が下がり始めていることもありより多くの人が「古い家に住み続けている」だろうことを思わせます。
リノベーションが流行を始めたのが2000年代中盤、中古住宅に新たな価値を与えて販売する業者が現れたのも同じ時期です。「古ければ取り壊して建て直そう」といった意識が変わり、古くても使える住宅を活かす選択肢が増え、寿命をいかに伸ばすかを重要とする価値観に変わってきているようです。
・住人の価値観で変わる寿命
・古い住宅を快適にする技術
・住宅は延命が可能に
5. 住宅の耐用年数と住める限界は違う
住宅における耐用年数とは、下がる資産の価値を1年ごとに費用として計上する方法の要素であり、思わず誤解してしまいそうな「住める限界の年数」ではありません。耐用年数は制度の1つであるため国によって基準を定められており、賃貸などにおいてその費用を計上するときに使われています。
わが国で最も多い木造住宅は寿命が30年と言われていますが、それは「住めなくなるまでの年数」ではなく「何らかの事情で取り壊されるまでの年数」であり、「住める限界」ではありません。研究によれば限界は65年とされており、マンションではさらに長いと考えられています。
ですから、木造住宅が築30年になることは何も特別なことではなく、いつであっても、ただ間取りや設備について、昔と違った高い技術を利用して新たな快適な住環境を作ることができます。木造住宅の寿命にとらわれることなくしっかりと住まいを見つめ、適切に環境を整えることがより長く住むための大切な条件だと言えます。