法人で土地を売却すると、税金はどうなるのか気になっている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、個人との違いや税金の計算シミュレーション、適用できる特例などを解説しています。
法人の土地売却に関する税金の基礎知識を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
土地売却の基礎知識については以下の記事で詳しく解説しています。
土地売却の全体を分かりやすく解説!流れ・費用・高く売るコツなど
法人が土地を売却したときにかかる税金の種類とは?
法人が土地を売却したときにかかる税金の種類をまとめると次の5つです。
- 法人税(国税)
- 地方法人税(国税)
- 法人住民税法人税割(地方税)
- 法人事業税(地方税)
- 特別法人事業税(地方税)
どのような税金なのか解説していきます。
法人税(国税)
法人税とは、法人の利益(所得)を課税対象とする国税です。
税率は原則として23.2%ですが、資本金1億円以下の普通法人は年800万円以下の所得について15%に軽減されます(軽減税率)。
仮に資本金1億円以下の法人の利益(所得)が800万円以下なら、法人税の税率は15%です。
所得 | 税率 |
---|---|
各事業年度の所得金額800万円以下部分 | 15% |
各事業年度の所得金額800万円超部分 | 23.2% |
地方法人税(国税)
地方法人税は、地方交付税の財源を確保するために国が地方に代わって徴収する国税です。
地方法人税の税額は、法人税の額を課税対象として税率10.3%を乗じた額となります。
法人住民税法人税割(地方税)
法人住民税は、法人が都道府県や市区町村に納める地方税です。地方税は都道府県や市区町村に納めます。
法人税割と均等割がありますが、土地を売却したときの利益に関係するのは法人税割です。
法人住民税法人税割は、法人税額を課税対象としています。
東京都では、資本金1億円以下で法人税額が年1,000万円以下であれば標準税率7.0%です。
適用される税率は都道府県や市区町村によって異なるため、総務省が公表する「法人住民税及び法人事業税の税率採用状況」を参考にするか、自治体のホームページにて確認しましょう。
法人事業税(地方税)
法人事業税は、法人の利益(所得)を課税対象とする地方税です。
東京都では、資本金1億円以下の法人は年所得額2,500万円以下なら標準税率7.0%です。
さらに、資本金1,000万円未満の法人などは次のとおり軽減税率が適用される場合があります。
所得 | 標準税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
400万円以下部分 | 7.0% | 3.5% |
400万円超800万円以下部分 | 7.0% | 5.3% |
800万円超部分 | 7.0% | 7.0% |
事業税も都道府県や市区町村によって異なるため、税率は総務省が公表する「法人住民税及び法人事業税の税率採用状況」を参考にするか、自治体のホームページにて確認しましょう。
特別法人事業税(地方税)
特別法人事業税は、標準税率で計算した法人事業税を課税対象とする地方税です。
東京都では、資本金1億円以下の法人は税率37%となっています。
法人が土地を売却したときの税金の計算方法のシミュレーション
ここからは、法人が土地を売却したときの税金の計算方法をシミュレーションしていきます。
実際に法人の所得に対して33.58%の税率負担となるのかも確認しておきましょう。
土地売却時の損益計算(仕訳例)
まず法人が土地を売却したときの損益ですが、基本的には買ったときより高く売れると利益、安く売れると損失です。
土地は減価償却資産ではないため、建物のように減価償却費は気にする必要がありません。
具体的には、土地購入時の仲介手数料や購入代価を土地の取得価額として貸借対照表に計上し、その金額が簿価(帳簿価額)となります。
売却時には、売却価額と帳簿価額の差額を固定資産売却益または固定資産売却損として、損益計算書の特別損益に表示します。
以下は、簿価250万円の土地を300万円で売却し普通預金に振り込んでもらった場合の仕訳例です。
売却価額と簿価との差額50万円は、固定資産売却益として処理します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 300万円 | 土地 | 250万円 |
固定資産売却益 | 50万円 |
事業年度の所得を計算する
法人税や地方法人税、法人住民税法人税割、法人事業税、特別法人事業税など(以下、法人税等)は、法人の事業年度の所得から計算可能です。
法人の事業年度の所得とは、益金の額から損金の額を控除した金額です。
損益計算書における税引前当期純利益と、ほぼ同じになります。
仮に営業利益が1,000万円で固定資産売却益が50万円、その他の損益がないとき税引前当期純利益は1,050万円です。
個人は土地売却の損益だけで税金を計算する申告分離課税の所得となるところ、法人は事業の黒字や赤字を含め、すべての所得を計算するのがポイントとなります。
所得に税率を乗じて税額を計算する
厳密には税務調整(税法上の加減算)が必要ですが、事業年度の所得が決まればおおよその税額を算出できます。
例えば、資本金1,000万円以上1億円以下の法人について、法人税等の所得に対する税率をすべて合計すれば36.80%です。これを表面税率といいます。
=法人税率23.2%×(1+地方法人税率10.3%+法人住民税法人税割税率7%)+法人事業税率7%×(1+特別法人事業税率37%)
=36.80%
ただし実際には法人事業税と特別法人事業税の9.59%分は損金に算入できるため、その影響を考慮すると税率は33.58%です。これを実効税率といいます。
実効税率=表面税率36.80%/事業税等の影響109.59%
=33.58%
結果、税引前当期純利益が1,050万円の法人は実効税率33.58%に相当する352万5,900円が法人税等の額と計算できます。
また、土地の売却益50万円による税額への影響は、実効税率33.58%を乗じた16万7,900円です。
法人が土地を売却したときに適用できる税金の特例
法人が土地を売却したときに適用できる税金の特例は次のとおりです。
ちなみに、個人の場合はマイホームを売ると最高3,000万円を控除できる特例があります。
- 特定の長期所有土地等の所得の特別控除(租法65の2)
- 収用換地等の場合の所得の特別控除(租法65の2)
- 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(租法65の3)
- 特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(租法65の4)
※租法:租税特別措置法
どのような特例があるか確認しておきましょう。
特定の長期所有土地等の所得の特別控除(租法65の2)
特定の長期所有土地等の所得の特別控除とは、平成21年から平成22年までに国内の土地を取得し、売却年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている場合に、最高1,000万円まで譲渡益から控除できる特例です。
収用換地等の場合の所得の特別控除(租法65の2)
収用換地等の場合の所得の特別控除とは、公共事業者の施行者からの買取り申出後6月以内に売却することを条件として、最高5,000万円の特別控除ができる特例です。
収用換地は、土地収用法の規定に基づき道路や公園など公共事業に必要な土地を売った場合の土地を指します。
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(租法65の3)
特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除とは、土地区画整理事業のために土地を譲渡した場合に、最高2,000万円の特別控除ができる特例です。
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(租法65の4)
特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除とは、住宅の建設や宅地造成を目的とする事業のためなどに地方公共団体等に土地を買い取られた場合に、最高1,500万円の特別控除ができる特例です。
個人よりも法人で土地を売却すると節税になる?
法人の土地売却税制について紹介してきました。
結局のところ、個人よりも法人で土地を売却したほうが節税になるかどうか気になるところです。
しかし状況によって異なるというのが答えであり、一概に言い切ることはできません。
土地売却に関する個人と法人の税制の違いは下表のとおりです。
個人 | 個人(マイホーム) | 法人 | |
---|---|---|---|
課税制度 | 申告分離課税 | 申告分離課税 | 各事業年度の所得 |
短期譲渡所得税率 | 39.63% | 39.63% | 33.58% ※特別課税制度は停止中 |
長期譲渡所得税率 | 20.315% | 20.315% | 33.58% ※特別課税制度は停止中 |
10年超譲渡所得税率 | 20.315% | 14.21% ※譲渡所得6,000万円まで | 33.58% ※特別課税制度は停止中 |
損失(欠損金)の繰越し | なし | 3年間 | 10年間 |
税率だけ見ると、売却年の1月1日時点で所有期間が5年以内の短期譲渡所得では、個人の39.63%より法人の33.58%のほうが有利です。
しかし、個人が住宅とともに土地を売却すると最高3,000万円の特別控除を適用できる点も考慮すべきでしょう。
また、法人は営業利益が黒字のときに土地の売却損を出して税負担を抑えられるほか、営業利益が赤字のときに土地の売却益を出して相殺するといった調整ができます。
土地の売却で損失が出て所得もマイナスになった場合は法人のほうが有利です。
法人は青色申告書を継続的に提出すれば10年間にわたって欠損金を繰り越して将来の黒字所得から差し引けます。
法人が土地を売却する税金上のメリットとは?
法人が土地を売却するときの、個人にはない税金上のメリットは次のとおりです。
- 短期譲渡所得でも税率は高くならない
- 事業の黒字や赤字と通算できる
- 青色申告なら損失を10年間繰り越せる
それぞれ確認していきましょう。
メリット1. 短期譲渡所得でも税率は高くならない
法人は申告分離課税制度を採っていないため、短期譲渡所得でも税率は変わりません。
一方、個人は短期譲渡所得だと39.63%と高い税率となります。
なお短期譲渡所得とは、売却年の1月1日時点で土地の所有期間が5年以下の場合の譲渡所得のことです。
5年超の場合は長期譲渡所得として税率は20.315%となります。
メリット2. 事業の黒字や赤字と通算できる
法人は、事業の黒字や赤字と土地の譲渡損益を通算できます。
仮に土地を売却すると損失が出るとわかっている場合、営業利益が黒字のときに売却して法人税等の負担を抑えることが可能です。
また、土地を売却すると利益が出るとわかっている場合は、営業利益が赤字のときに売却することによって相殺できます。
一方、個人の場合は売却年の1月1日時点で所有期間が5年超で住宅ローンが残っている土地をマイホームと共に売却した場合に限り、給与所得や事業所得などほかの所得と通算が可能です。
メリット3. 青色申告なら損失を10年間繰り越せる
法人は、青色申告を提出した事業年度の損失(欠損金)を、10年間にわたって繰り越して将来の黒字所得から差し引けます。
そのため、10年以内であれば法人役員向け生命保険の解約や含み益のある不動産・有価証券の売却のタイミングで相殺が可能です。
法人名義で土地を売却したいときには贈与(無償譲渡)や低廉譲渡に注意しよう
法人名義で土地を売却したいときには、贈与(無償譲渡)や低廉譲渡に注意が必要です。
具体的にどういうことか解説していきます。
個人から法人の場合
個人名義の土地を法人名義で売却するには、まず個人が法人に土地を贈与するか売却、あるいは現物出資して土地を法人名義にしなければなりません。
しかし、どの方法でも法人名義にするタイミングで個人か法人が税金を課されてしまいます。
個人が法人に土地を時価で売却すると、法人は土地の時価が受贈益として法人税等の課税対象となってしまい、個人も譲渡収入として所得税・住民税の課税対象となってしまいます。
なお土地の時価とは、通常の市場で売った場合の価格つまり商品として見た場合の価格のことです。
贈与を含み、時価の50%未満で個人が法人に売却する場合も次のように処理しなければなりません。
- 売り手となる個人:時価が譲渡価額(譲渡収入)として所得税・住民税の課税対象となる
- 買い手となる法人:支払った金額と時価との差額が受贈益として法人税等の課税対象となる
会社設立時の現物出資において土地を出資する場合でも同様です。
マイホーム売却時の最高3,000万円特別控除も適用対象外となってしまいます。
法人から個人の場合
参考として、法人から個人に土地の名義を移転する場合も解説します。
法人が個人に土地を時価で売却した場合、前述のとおり法人は譲渡益が生じると法人税等の課税対象です。
個人も通常どおり時価を譲渡価額(譲渡収入)として所得税・住民税の課税対象となります。
さらに、贈与を含む時価の50%未満で取引した場合は次のような取り扱いです。
- 買い手となる個人:時価との差額が給与所得の収入金額(現物給与)として所得税・住民税の課税対象となる
※会社と関係のない個人の場合は、給与所得ではなく一時所得として取り扱います。
- 売り手となる法人:支払った金額と時価との差額が給与となり、役員なら損金不算入、従業員なら損金算入
※会社と関係のない個人の場合は寄附金となり、資本金等の額の0.25%と所得の2.5%を合計した額の4分の1までしか損金にできません。
法人が土地売却したときの税金について知っておこう!
法人が土地を売却すると、買ったときよりも高く売れると(固定資産)譲渡益として法人税等の課税対象となります。
事業の利益も黒字なら、東京都に事業所を置く資本金1億円以下の法人の場合、実効税率33.58%ほどの税率で法人税等の負担が生じます。
もし個人が法人名義で土地を売却したいと考えた場合、土地の名義を法人名義にするタイミングと売却のタイミングで二重の税金が発生する可能性があることにも注意しましょう。
土地を売って少しでも多くの金額を手元に残すためには、税金を考えることも重要ですが、少しでも高く売ることも考えましょう。
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