空き家となった実家を、相続後に売却しようとすると、家の片付け費用や解体費用、売却時の税金などで、支出が大きくかさんでしまうことがあります。
そこで助けとなるのが、「相続空き家の3,000万円特別控除の特例」です。
譲渡所得に最大3,000万円まで控除を受けられるため、特例を適用できれば支払う税金を大きく節減できます。
本記事では、控除の特例を適用できる要件と、適用の申請時に必要になる書類について、詳しく解説しています。
空き家の3,000万円特別控除とは
「相続空き家の3,000万円特別控除」とは、相続や遺贈によって取得した空き家の譲渡所得(売却益)から最大3,000万円まで差し引ける特例です。
- 売却価格:不動産を売却して得た代金
- 取得費:不動産の購入・取得時にかかった費用
- 譲渡費用:不動産の売却時にかかった費用
相続した不動産の取得費は、被相続人の支払った金額を引き継いで計算します。
しかし、被相続人も相続で家を取得していたりなどして、購入時の費用がわからないケースが多いです。
購入時の費用がわからないと、代わりに「売却価格の5%」を取得費として、譲渡所得を計算します。これを「概算取得費」といいます。
概算取得費で計算すると、譲渡所得が高額になりやすくなります。
不動産売却の税金は、譲渡所得に税率をかけ合わせて計算します。
そのため、相続した不動産の売却による税金を抑えるには、譲渡所得を小さくできる「相続空き家の3,000万円特別控除」を利用できるかどうかがカギになってくるのです。
空き家の3,000万円特別控除の適用要件
相続した空き家の売却時に特例の適用を受けられるかどうかは、国税庁が公開しているチェックシートで確認することができます。
>>相続した空き家を売却した場合の特例 チェックシート(令和4年分用)(pdf)
チェック項目は複雑で、読んでみてもわかりにくいところがあるかもしれません。
そこでこの章では、多岐に渡る適用要件を以下の4種類に分類して、内容をわかりやすく解説していきます。
空き家に関する適用要件
特例の適用を受けるには、相続した(または遺贈された)空き家が以下の6つを全て満たしている必要があります。
①亡くなった方が1人暮らしをしていた家屋である
相続開始前に、亡くなった方の他に家に住んでいた人がいる場合、特例の適用はできません。
たとえば実家で暮らしているご両親のどちらかが亡くなり、遺贈によって子が相続して売却する場合には、特例を適用できません。
また、別荘やセカンドハウスの売却にも、特例の適用は受けられません。
亡くなった方が老人ホームに入居していた場合については、「老人ホームに入居していた場合の適用要件」をあわせてご確認ください。
②区分所有建物ではない
分譲マンションを相続して売却する場合には、特例を適用できません。
また、二世帯住宅として建築し、区分所有登記をしていた場合なども、特例の適用を受けられません。
③家屋と敷地をセットで相続している
兄が土地、弟が家屋というように、家屋と敷地を別々の名義で相続している場合には、特例の適用を受けられません。
家屋と敷地をごきょうだいの共有名義で相続している場合には、それぞれ家屋と敷地をセットで相続していると見なされるため、特例の適用を受けられます。
④昭和56年5月31日以前に建築された家である
特例が適用できるのは、相続した家屋が昭和56年(1981年)5月31日以前に建築されている場合です。
昭和56年(1981年)6月1日以降に建築されている場合は、特例の適用を受けられません。
⑤売却時点で耐震リフォームされているか取り壊されている
売却する空き家は、耐震リフォームをするなどして、売却時点で「新耐震基準」を満たしていなければなりません。
リフォームは故人の存命中に行ったものでも構いませんが、売却前から2年以内に発行された「耐震基準適合証明書」または「建設住宅性能評価書の写し」による証明が必要です。
家屋を解体して、更地にして売却する場合は、買主への引き渡しの前に解体工事が完了している必要があります。
取り壊す家屋は、新耐震基準に適合していなくても構いません。
⑥相続開始から誰も住んでいない・利用していない
相続開始から売却までの間に、相続人が居住したり、貸家や貸倉庫にしていた場合は、特例を適用できません。
更地にした土地を、たとえば駐車場や資材置き場として貸し出している場合も、特例の適用を受けられません。
売却時期に関する適用要件
空き家を売却する時期について、以下の2つの要件を満たす必要があります。
①令和5年12月31日までに売却している
特例を施行している法律の期限が令和5年(2023年)12月31日までなので、適用を受けるためには、期日までに売却されている必要があります。
(ただし、法改正によって期限が延長される可能性があります。)
②相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却している
たとえば、2020年10月1日に被相続人が亡くなって相続が開始したケースを考えてみましょう。
相続開始のあった日から3年を経過する日は、2023年9月30日です。
この日が属する年の12月31日までが売却の期限なので、2023年12月31日までに相続した空き家を売却すると、特例の適用を受けられます。
売却条件に関する適用要件
更に、以下の2つの要件を満たしている必要があります。
①親子や夫婦、特別な関係がある人への売却ではない
親子や夫婦、内縁関係にある人、同じ生計で暮らしている人など、特別な関係がある人への売却は、特例の適用を受けられません。
また上記の親族・関係者の保有する法人への売却も、特例の適用を認められません。
②売却代金が1億円以下である
空き家と敷地、または更地にした敷地を売却して得た代金が1億円以下の場合に、特例の適用を受けられます。
売却代金には、固定資産税の精算金や、買主負担の場合の解体費用も含まれることに注意しましょう。
- 敷地を分割して売却する場合は?(ここをクリック)
- 空き家を取り壊した敷地を分割して売却する場合、特例の適用を受けた売却から3年を経過する日の属する年の12月31日までに残りの土地を売却すると、残りの土地の売却代金も合算して1億円以下であるかを判断されます。
たとえば9,900万円で土地の一部を売却して控除を受けて、翌年に1,000万円で残りの土地を売却した場合、合計の売却代金は1億900万円となり、特例の適用範囲を超えます。
売却代金の総額が1億円を超えてしまった場合、9,900万円で売却した土地について修正申告をして、追加で納税しなければなりません。
なお、分割した土地の売主が、自分以外の共有者の場合でも、売却代金を合算して1億円以下であるかどうかの判断が行われます。
老人ホームに入居していた場合の適用要件
亡くなった被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、以下の要件を満たせば、控除の適用を受けられます。
- 亡くなった方が各種法律に規定する老人ホーム等に入居していた
- 介護保険法に規定する要介護認定によって老人ホーム等に入居した
- 老人ホーム等への入居前まで1人で家屋に居住していた
- 老人ホーム等への入居から相続開始まで家屋が亡くなった方の所有物品の保管や一時滞在に使われていた
- 老人ホーム等への入居中に家屋が貸家などに使われていない
参考:国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」
適用の可否について、詳しくは税務署職員などにご相談ください。
空き家の3,000万円特別控除の適用に必要な書類
相続空き家の3,000万円特別控除の特例の適用申請は、確定申告時に行います。
確定申告書に加えて、各種証明書類を提出して、特例の適用を申請します。
個々の条件に応じて提出が必要な書類が変わるため、当てはまるケースを確認しましょう。
必ず提出する書類
控除を受けるために、いかなる場合でも確定申告で提出する書類は、以下の通りです。
譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
相続した空き家・敷地の売却で出た譲渡所得について、申告するための書類です。
書類の用紙は、税務署で配布されているものを貰うか、国税庁のHPからダウンロードして印刷することができます。
「確定申告書等作成コーナー」を利用して、PCで書類を作成することもできます。
売却した空き家・敷地の登記事項証明書
空き家と敷地が相続による取得であること、家屋の建築が昭和56年5月31日以前であること、区分所有登記されていないことを証明するために必要な書類です。
相続した空き家のある地域の管轄の法務局で取得申請するか、オンラインでも請求が可能です。
売買契約書のコピー
被相続人居住用家屋等確認書
家屋が相続開始から空き家であったことを証明するために必要な書類です。
相続空き家のある自治体の役場に申請して取得します。
- 被相続人居住用家屋等確認書の申請書
(自治体HPでダウンロード可能) - 亡くなった方の除票住民票の写し
- 相続人全員の住民票(売却日以降に取得したもの)
- 売買契約書
- 電気・ガス閉栓証明書や水道の使用廃止届出書
- 取り壊した家屋の閉鎖事項証明書の写し など
自治体によって、提出するべき証明書類や、取得方法が異なる場合があります。
詳しくは、各自治体のHPをご覧になるか、窓口にてお問い合わせください。
家屋を残して売却する場合
家屋を残して売却する場合には、家屋が新耐震基準に適合していることを証明する書類の提出が必要です。
以下のいずれかを提出しましょう。
- 耐震基準適応証明書
- 建設住宅性能評価書の写し
(耐震等級が1~3のもの)
なお、いずれも売却した日前2年以内に行われた調査・評価の証明書でなければなりません。
被相続人が老人ホームに入居していた場合
亡くなった被相続人が老人ホーム等に入居していた場合は、被相続人居住用家屋等確認書の取得時に、追加で提出が必要な書類があります。
提出が必要な書類 | 具体的な例 |
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被相続人が要介護・要支援認定を受けていたことの証明書類 |
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入居していた施設の名称・所在地がわかる書類 |
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相続開始まで被相続人がいつでも家屋を利用できる状態であったことがわかる書類 |
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用意できる書類が証明書類として認められるかどうかについては、個別に自治体にお問い合わせください。
空き家の3,000万円特別控除に関するよくある質問
この章では、相続空き家の3,000万円特別控除に関するよくある質問について、解説します。
共有名義で相続した家の場合の控除はどうなる?
家屋と敷地をそれぞれ共有名義で相続していれば、相続人1人ずつが3,000万円控除を申請できます。
つまり、2人で相続した家・敷地は最大6,000万円、3人で相続した家・敷地は最大9,000万円の控除を受けられます。
ただし、相続人が2人以上いる場合でも、売却代金に関する要件は、変わらず総額1億円以下である点に気をつけましょう。
その他の特例と併用はできる?
以下の特例は、それぞれの適用要件を満たせば、併用できます。
空き家3,000万円控除と併用可能
- 小規模宅地等の特例
- 居住用財産の3,000万円特別控除
(同年にマイホームも売却する場合)
なお、「取得費加算の特例」は併用することができません。
支払う相続税が多額だった場合には、相続空き家の3,000万円控除とどちらを適用する方が税金が安くなるか、確認をしましょう。
相続した不動産の売却にはどんな税金がいくらかかる?節税できる控除・特例も解説!
敷地に複数の建物が建っている場合はどうなる?
相続した実家の敷地に複数の建物が建っている場合は、母屋の部分のみが控除の特例の対象になります。
控除の適用範囲は、建っている建物の床面積の比で全体の敷地を分けることで求めます。
母屋と離れを取り壊し済みの土地を売った場合、上記の例では1,000㎡の土地うち、800㎡部分のみ控除を受けられます。
全体(1,000㎡)の売却代金が3,000万円だったとすると、以下の計算式より、2,400万円のみが控除の適用対象となります。