転勤や相続など特別な事情で空き家を所有した場合、持ち家を貸すことで家賃収入を得ようとする方も少なくないでしょう。
しかし、家を貸すことで税金がかかるので賃料がそのまま収入になるわけではありません。
この記事では、家を賃貸に出した場合にかかる税金、税金の節約にも使える確定申告について解説していきます。
家賃収入を得ると所得税などがかかる
個人が家を貸すことで得た家賃収入は「所得」として課税の対象となり所得税(復興特別所得税含む)と住民税が発生します。
一般的な給与所得者は、毎月の給与から所得税や住民税が天引きされる形で納税を既に行っています。
そのため、個人が家を貸すことで特別な税金が新たに発生するわけではなく、家を貸すことによって既に支払っている所得税や住民税が増額されることになります。
尚、固定資産税や都市計画税という不動産を所有していることで発生する税金は、家を貸し出していたとしても引き続き支払うことになります。
所得税・・・家賃収入など個人の所得に対して課税される税金
住民税・・・地方自治体による行政サービスの資金となる税金で前年の所得に課税される
固定資産税・・所有する固定資産に対して課せられる税金
都市計画税・・市街化区域における不動産に対して課税される税金
賃貸で課税対象となる不動産所得とは
一般的に「所得」とは、収入から必要経費を差し引いたもののことです。所得税や住民税はあくまでも収入ではなく所得に対して課税されます。
収入と所得は同じ意味のように考えられますが、収入と所得はまったく違います。例えば会社員の場合、会社からもらう「支払金額」が収入金額で「給与所得控除後の金額」が所得金額です。つまり、税法上の所得とは「利益」を意味します。
先ほどご紹介した所得税と住民税は収入ではなく所得にかかります。また、所得税法では所得を10種類に分類しており、不動産賃貸で出る所得を「不動産所得」と言います。不動産所得とは、不動産を貸し付けることで得た地代、家賃、礼金などの収入から必要経費を差し引いた金額を指し、次のような式で計算されます。
不動産所得 = 収入金額 – 必要経費
では、収入金額と必要経費とはどのようなものを含まれるか説明していきます。
収入金額に含まれるもの
収入にあたるものとしては、家を貸した際の地代や家賃といった賃貸料が挙げられます。また、礼金や更新料なども収入にあたります。
マンションの場合は街灯など共用部分の維持を目的とした共有費も収入にあたります。
一方で、敷金や保証金など、退去時などに返還されるものは収入には当たりません。
以下収入金額に含まれるものです。
必要経費に含まれるもの
必要経費として計上できる金額が増えれば納税額を減らせるので詳しく紹介します。
不動産所得にかかる必要経費には、買い付けた土地や建物などの不動産取得税、登録免許税、固定資産税、修繕費、損害保険料、減価償却費、借入金の利息、不動産会社に対して支払う業務委託費などが含まれます。
賃貸用の土地・建物にかかる固定資産税・都市計画税
固定資産税はや都市計画税は、経費に含めることができます。
不動産取得税、登録免許税
不動産取得の際に一度だけ発生する税金で、その年の経費に含めることができます。
建物にかける火災保険料などの損害保険料
火災保険料や地震保険料も経費に含めることができます。
減価償却費
建物は年を経つと資産価値が下がります。資産価値が下がっていくとみなされる額は減価償却費として毎年経費に計上します。
修繕費
畳やふすまの取り換え、壁の塗り替えなど修繕費用も経費に算入できます。
不動産管理会社に支払う管理委託手数料
賃貸用建物の管理を不動産管理会社に委託している場合はその手数料、入居者募集でかかった広告宣伝費も経費に含められます。
借入金の利息
利息を経費に参集できます。ただし、元本部分の返済額は経費とは認めれません。
以上が必要経費に含まれるものです。
必要経費に含まれる費用
- 不動産所有に対しての税金(不動産取得税、登録免許税、固定資産税)
- 維持管理費(修繕費、損害保険料)
- 業務委託費
- 減価償却費
- ローンの利息
賃料がそのまま税金がかかるわけではなく、必要経費によっては納税額を大幅に抑えることもできるので十分に理解しておきましょう。
年間の所得は収入から経費を差し引いて計算するため節税を図るには経費をきちんと計上しなければなりません。
賃貸経営のためにかかった各種費用は経費計上ができ、部屋のクリーニング代やリフォーム代金、修繕費用などは全て経費にできます。
実際にかかった費用があっても、申告時に計上していないと経費とは認められず、申告上の所得が大きくなって課税対象も増えてしまうため注意が必要です。
【税金はいくら?】家を貸して発生する税金の税率
まずは所得税について理解を深めていきましょう。
所得税は年収(給与所得)の額に対してかけられる税金であり、所得が大きいほど税額も高く累進課税が採用されています。よって次のように税率が異なります。
所得税の税率
課税金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1,8000万円以下 | 33% | 1536,000円 |
1,800万円以上4,000万円以下 | 40% | 2796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4796,000円 |
※所得税に付随する復興特別所得税は所得金額に関係なく一律2.1%の課税です。所得税額の2.1%が復興特別所得税として上乗せされまとめて納税します。
一方、住民税は所得の大きさに関係なく一律10%の税率がかかります。
住民税の税率
区分 | 税率 |
---|---|
市区町村住民税 | 6% |
都道府県民税 | 4% |
合計 | 10% |
不動産所得は総合課税方式で算出
税金の計算には「総合課税方式」と「分離課税方式」という2つの方法があり、家を貸した場合に発生する不動産所得は総合課税方式で計算されます。
総合課税方式とは各所得を合計して全体の所得に累進課税率をかけて税額を出す方法です。
一方、分離課税方式とは他の所得とは合計せず、分離してそれぞれの所得金額を計算し累進課税率をかけて税額を出す方式です。
例えば、退職金や不動産売却など一時的に得た所得が大きい場合、その年だけ非常に大きな税金がかかってしまうため、例外的に分離課税方式が利用されます。
総合課税方式で計算するとどうなる?
一般的なサラリーマンなら次のような計算になります。
例えば、サラリーマンが家を貸すことで年間の不動産所得を100万円を得たとします。この場合、不動産所得が195万円以下なので、税率は5%となるのかというとそうではありません。
給与所得が700万円の人であれば給与所得に不動産所得の100万円が加算されるため、所得の合計は800万円です。
つまり。所得税の税率は23%(所得が695万円超900万円以下)です。この場合、80万円の不動産所得に対して23%の税率がかかっていることになります。
税率の変わり目に注意!
合計の所得が900万円を超えると税率が23%から33%に増加するので注意が必要です。
例えば、給与所得が850万円の方が年間の不動産所得を100万円得たとすると、合計所得が950万円となり税率が33%になります。
同じ不動産所得額でも給与額によって税率がかわってきます。不動産賃貸専業ではない人は不動産所得以外の所得金額も気にしておきましょう。
特に、給与所得が800万円前後の方は要注意です。所得合計が900万円以下では税率が23%ですが、900万円を超えると税率が33%と一気に上がります。
家の賃貸で得られる収益はそれほど大きくはないので、税率の変わり目程度の所得がある方は家を貸すことを見送り、家の売却など他の選択肢を検討するのもありです。
家を売るか貸すか判断したい方はこちらもご覧ください。
家を賃貸にして発生する税金を計算してみよう
では、実際に持ち家を貸すことで発生する税金はどのように計算されるのでしょうか?具体的な事例をもとにシミュレーションしてみましょう。
収入金額(年間)
家賃 | 120万円 |
---|---|
共益費、管理費 | 20万円 |
礼金 | 10万円 |
給与所得 | 700万円 |
合計:850万円
固定資産税、都市計画税 | 5万円 |
---|---|
修繕費 | 10万円 |
減価償却費 | 10万円 |
管理費用 | 5万円 |
住宅ローンの利息 | 10万円 |
損害保険料 | 2万円 |
合計:42万円
収入 | 850万円 |
---|---|
必要経費 | -42万円 |
所得金額 | 808万円 |
合計:808万円
計算すると不動産所得は708万円になりました。最後に所得税の税率(23%)と住民税の税率(10%)を不動産所得にかけることで税金額が分かります。
不動産所得が出たら確定申告を忘れずに!
サラリーマンであれば会社側が所得を確定し源泉徴収という形で納税を完了するため、確定申告は必要ありませんでした。
一方、不動産所得は、会社からもらう給与所得以外の所得のため税務署への申告を自分で行わなければいけません。そのため、不動産所得が年20万円を超えると確定申告する必要があります。
確定申告をしなければ、無申告加算税と呼ばれるペナルティーが発生します。
確定申告は、所得があった翌年の2月16日から3月15日の間までに行います。e-taxというWebサービスを使って申告をする場合は1月4日から3月15日までとスタートが早いため申告期間が長くなります。
税務署などで申告する場合は申告書類を入手する必要がありので国税庁のホームページでダウンロードするか申告会場で直接入手しましょう。
期限内に申告をしないと追徴課税などのペナルティがあるため、注意しなければなりません。
参考:所得税の確定申告
参考:国税庁 確定申告書等作成コーナー
確定申告に必要な書類
確定申告時に税務署へ提出する書類には、決算書と確定申告書があります。
決算書とは、1年間の不動産収入から経費などを際引いて、所得税計算の対象となる所得金額を算出した書類です。
申告書とは、所得金額などから納付すべき所得税額を計算する書類です。確定申告書と決算書、保険料等の控除証明書を添付して税務署に提出します。
不動産所得以外に給与所得がある場合は、給与所得の源泉徴収票も提出が必要です。
節税には青色申告がオススメ
確定申告には大きく分けて手続きがシンプルな白色申告と、手続き複雑な代わりに控除が受けられる青色申告があります。
青色申告を利用すれば、持ち家を1件だけ貸す場合は10万円の控除を使うことができるので、なるべく青色申告をオススメします。
手順としては、まず青色申告承認申請書を3月15日までに税務署に提出する必要があります。提出する書類は「確定申告書B」「不動産収支内訳書」「所得税青色申告決算書」が必要です。また、必要経費に関する領収書や納税証明書も用意しておきましょう。
申告額の計算など手間はかかりますが、10万円まで節税できるので手間を惜しまず青色申告をやりましょう。
家を貸す場合は日頃から会計管理をしっかりと行う
持ち家を貸すことで家賃収入が得られますが、得た収入はきちんと管理しておき、経費とともに計算して確定申告をしなければなりません。
円満な経営を続けるには、日頃からこまめに会計管理をすることが大切です。期限間際で焦らないように、日々会計の情報を記録し、データで収支を見ながら賃貸経営に取り組みましょう。
また、賃貸経営は難しく、思った以上に税金がかかったり、空室ができて金銭的なデメリットが増えたりすることも少なくありません。そのため、金銭的な負担が大きいようなら売却も視野に入れておくことが大切です。売却するかどうかで迷うなら、一度一括査定サイトを利用し、どれくらいの査定額がつくかチェックしてみることもおすすめです。
すまいステップなら一度に最大4社の査定結果を比較できるため、手持ちの家がどれくらいの資産価値を持っているのか、判断しやすいでしょう。査定額である程度の価値を知り、そこから売却するか、それとも賃貸経営を続行するのか考えることも大切です。