遺産相続を行う際には、兄弟で土地の分割を行います。土地相続は現金のように簡単に割り切れるものではないため、事前の取り決めや相続時の話し合いが重要であり、下手をすると揉めることも少なくありません。
揉めることを防止するためには、事前に必要な知識を学び、どのように分割するのかある程度決めておくことが大切です。
この記事では、これから兄弟で土地の相続方法を決めようとされている方にむけて、「そもそもなぜ兄弟間で揉めごとが発生するのか」「兄弟間で争わずに土地を相続する方法」をご紹介しています。
兄弟が土地相続で揉める理由
土地相続時に兄弟で揉めごとが発生する理由としては、主に以下6つがあげられます。
1.土地以外の財産が少ない
相続財産が土地とわずかな貯金という場合、土地を相続する人と現金を相続する人で、相続する財産の大きさに違いが生まれるため、揉めごとが発生しやすくなります。
現金は分けやすいため揉めることがほとんどありませんが、土地などの不動産は売却しない限りは均等にわけることが難しいため、揉める原因となります。
例えば、被相続人の家4,000万円と貯金600万円が相続財産だったとします。
相続する兄弟のうち、兄は被相続人の家に住んでおり、弟は実家から離れた場所に住んでいるとします。
仮に、兄が自宅を相続して、弟が現金を相続する場合、兄は4,000万円相続したのに対し弟は600万円のみとなり不公平が生じます。
均等にわけるのであれば、兄も弟も2,300万円(4,600万円÷2人)ずつ相続する権利がありますが、自宅(=不動産)が分けにくいことによって、兄弟間の相続金額に大きな不公平が生じてしまいます。
2. 想定より現金が減っていた
相続額を予め決めておいたものの、予定よりも現金が大きく減っていることが相続時にわかり、揉めることがあります。
これは相続準備をしっかり行っていた兄弟にも起こりうることですので、注意が必要です。
例えば、兄が不動産3,000万円、弟が現金3,000万円を親の遺産として相続することを親の生前に決めていたとします。
しかし、親が他界する直前に病気にかかり、医療費や介護費など現金2,000万円を使用してしまったとします。
すると、親の死後の遺産は不動産3,000万円、現金が1,000万円となり、当初均等だった兄弟間の相続額に不公平が生じることになり、揉めごとが発生しやすくなります。
このように現金は短期間に減ることもあるため、被相続人が生前に相続の準備をする場合には、現金は他界時に減っている可能性もあるということを理解しておく必要があります。
3. 寄与分を主張している
寄与分とは、「被相続人の財産維持や療養看護について特別の寄与をした相続人がいる場合、他の相続人との間の不公平を是正するために設けられている制度」です。
よくある例として、親の介護を担ってきた兄が「これまで介護を担ってきた分、弟に対して相続の取り分は優遇されるべきだ」と主張するケースがあります。
このようにどちらか一方が寄与分を主張し始めると、話がまとまらず、揉める原因となります。
原則として、寄与分を認めるかどうかは、遺産分割協議の中で決められます。
しかしもし話がまとまらない場合には、家庭裁判所で調停を行うことになります。
調停となると、寄与分の主張は時々介護した程度では認められることはありません。
基本的には「子供が親の介護をするのは当然」という考え方が前提にあるため、兄弟間で明らかに差があったとしても、家庭裁判所で介護の寄与分が認められるケースは少ないのです。
一般的な程度を超えて「特別に貢献した」といえる場合でなければでは寄与分は認められないということを理解しておく必要があります。
4. 特別受益を主張している
兄弟のどちらか一方が特別受益を主張し始めて揉めるというケースがあります。
特別受益とは「被相続人から生前に贈与等を受け、特別に受けた利益」のことをいいます。
民法上、特別受益の対象となるのは以下の3つとなります。
- 遺贈(遺言によって遺産を無償で相続人に譲渡すること)
- 結婚または養子縁組のための贈与
- 生計の資本として受けた贈与
特別受益が認められる場合は、特別受益を考慮した財産の分け方が認められています。
例えば、弟は地元の国立大学に進み、兄が東京の私立大学に進んだ場合、弟が兄に対して「学費が高い東京の私大に進学させてもらった分、自分に相続割合を譲るべきだ」と主張して揉めることがあります。
しかし、特別受益が認められるには、主張側は相手が「いつ・どれだけ・どのように」特別受益を享受していたのかを明確に証明しなければならず、どこまで認められるかはケースバイケースです。
また、個人的な私情から特別受益を主張して揉めることがあります。
例えば、「子供の頃のおやつをもらえるのは兄だけだった」や「兄の誕生日プレゼントはいつも自分より豪華だった」などで訴える例もあるほどです。
個人的なわだかまりは特別受益として認められないということを理解しておきましょう。
いずれにしても、兄弟間で揉めないようにするには、自分だけ良ければいいという考えを捨てることが重要になります。
5.遺言書がない
遺言書がない場合、財産をどのように相続するかは法定相続分に則って決めます。
しかし、土地等の財産は法定相続分でピッタリとわけられないため、遺産分割協議によって決めることになります。
遺産分割協議には相続人全員の参加と同意が必要ですが、なかなか兄弟全員から同意を得ることができずに揉めることは十分におこりえます。
仮に遺言書があれば、兄弟間で決める必要がなくなるため、こうした事態を避けることができます。
従って、被相続人が健在であれば遺言書を残しておくように頼んでおきましょう。
6.遺言書があるが遺留分を満たせない相続人がいる
一方で、遺言書があればどのような場合でもスムーズに相続が進むわけではありません。
遺留分を無視した不公平な配分で相続分が定められている場合、揉めごとが発生する可能性があります。
遺留分とは、「法定相続人がすべての相続財産のうち最低限相続することができる割合」のことをいいます。
相続分が遺留分以下の相続人は、相続から1年間は遺留分に満たない金額を他の相続人に請求する権利が法律で保証されており、請求された相続人は必ず応じなければなりません。
つまり、遺留分に満たない配分の遺言書は、相続から1年間は相続分が変更される不安定な状態にあるといえます。
こうした事態を避けるために、被相続人が生前の場合遺言書を残してもらうだけでなく、遺留分を満たしている相続分を決定するように頼んでおきましょう。
このように、土地相続で争いが起こる理由は様々ですが、適切な相続方法を選ぶことで解消できるようになります。次の章では、どのような相続方法があるのかについてみていきましょう。
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共有分割はおすすめしない
兄弟で土地を相続する際に、共有分割はおすすめしません。
共有分割とは、相続した土地を兄弟間の共有物とみなし、土地の名義を共有名義とする(兄弟全員が土地の所有者となる)相続方法です。
共有分割は全員で所有することから公平感があり、均等な分割が難しい土地相続において、兄弟間で揉めないための「とりあえず」の対策として選ばれやすいです。
しかし、共有分割で土地を相続すると、土地の活用方法をめぐってかえって揉めごとがおこりやすくなってしまうことが多いです。
共有分割がおすすめできない理由として、以下があげられます。
1.各共有者の許可が必要
共有分割の場合、全員が土地の所有者ということになります。つまり、1人が土地を利用または売却する際は、共有者の過半数または全員から許可を得なければいけません。規定された条件の人数から許可が得られない場合は利用できないということになり、その可否をめぐって兄弟間で揉めごとが発生しやすくなります。
2.固定資産税は個別に払えない
共有分割の場合、固定資産税は共有者ごとに個別で支払うことはできません。つまり、兄弟の誰かが代表者になって他の兄弟から集めて支払わなければいけません。支払いを遅れる兄弟がいたり、代替わりした際に遠い親戚間で支払いを依頼する必要がでてくる等、お金を集めるのに苦労することになり、必然的に揉めごとが発生しやすくなります。
3.二次相続、三次相続で共有者数は増え続ける
最初は兄と弟の2人で共有していたのが、二次相続では兄の子供数人と弟の子供数人の合計人数になり、三次相続ではその子供のまた数人の子供達が引き継ぐ等、世代を経て共有者はどんどん増えていきます。共有者が増えるほど土地利用に対する同意を得ることは難しくなり、トラブルが発生しやすくなります。
いかがでしたでしょうか?
このように共有分割はかえって揉めごとの基になってしまうことの方が多いです。
実際の相続方法を決めるまでの仮置き手段とするならば問題ありませんが、共有分割の状態が長く続くと上述した問題が出てきます。よって、できるだけ早く相続方法を兄弟で話し合って決めるようにしましょう。
相続方法を決める遺産分割協議
土地の相続方法は「遺産分割協議」によって決められます。
「遺産分割協議」とは、遺産の分割方法を相続人同士で決める話合いのことを指します。
相続時は、まず遺言か法定相続割合(※)のいずれかを参考に遺産の分け方を決めることになりますが、遺言がない場合や遺言内容に不服があった場合、法定相続割合で土地などの現金化されていない遺産をピッタリと分けられない場合は、遺産分割協議による話し合いで分け方を決定します。
※法定相続割合とは、民法によって定められた共同相続人が取得する相続割合のことをいいます。例えば、相続人が兄弟のみである場合は兄弟間で均等に遺産が分けられることになっています。(参考:国税庁)
遺産分割協議には相続人全員の参加が必須で、取り決めには相続人全員の合意が必要です。
遺産分割協議には、特に行わなければいけないという義務はなく、期限もありません。
しかし相続税の納税期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」であるため、納税義務のある人は遺産分割協議をできるだけ早く終わらせないと相続税の申告に間に合いません。
遺産分割協議で決められた内容は、相続人全員の実印と署名と共に「遺産分割協議書」という書類にまとめられます。
遺産分割協議書は、不動産の名義変更時等に使用される正式な書類として扱われます。
そのため、遺産分割協議書の作成は司法書士や行政書士等の専門家に依頼するのが一般的です。
遺産分割協議で話し合いを進めても、相続方法をめぐって兄弟で揉めごとが発生することはあります。
場合によっては話し合いが膠着化してしまうこともあるかもしれません。
次の章では、そもそもなぜ揉めごとがおこってしまうのか、その理由について事例を添えて解説しています。
相続した土地を分ける方法
共有分割以外の土地相続方法は、次の4つが挙げられます。
それぞれメリット・デメリットがありますので、順番に見ながらどの方法が適切か考えてみましょう。
分割方法 | 内容 |
---|---|
相続放棄 | 相続の権利を放棄し、他の兄弟に譲ること |
分筆(ぶんぴつ)による現物分割 | 土地を登記上複数の土地に分けてそれぞれを相続する方法 |
代償分割 | 1人の相続人が財産を取得して他の相続人にお金を払って清算する分け方のこと |
換価分割 | 土地や不動産などの遺産を全て換金し、換金された金額を相続人間で分配すること |
1.相続放棄
相続放棄とは、相続できる財産にたいする一切の相続権を放棄することで、相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出することにより行うことができます。
放棄の対象となるのは、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、負債などのマイナスの財産も含まれます。
相続権利が移る順番(相続順位)は法律により規定されており、父親が遺産を残した場合は、第一順位(子供)から第二順位(祖父母)へ相続権が移るようになっています。
相続放棄のメリット
①被相続人の借金が明らかに大きい場合や、②兄弟間での相続の揉め事に関わりたくない場合、相続放棄をすることで負債や争い等の相続による負担を回避することができます。
相続放棄のデメリット
一度相続を放棄すると原則として撤回や取り消しはできません。また、遺産がマイナスの財産であった場合、相続放棄をすることで親族に債務を押し付けてしまうこともありえます。例えば父親が負債を残し子供全員が相続放棄した場合、祖父母が代わって全ての債務を負わなくてはいけなくなります。相続放棄の際には、次に相続権を持つ人に「負債も含め相続権が移ること」を予め伝えておくべきでしょう。
2.分筆による現物分割
現物とは「金銭以外の実際の品物」を指し、ここでは土地を含む不動産を意味します。
現物分割とは、現金化せずに財産をそのまま(現物として)相続する分け方です。
現物分割には大きく以下の2つの種類があります。
種類 | 内容 |
---|---|
土地を分筆(ぶんぴつ)してわける | 土地を相続する場合、その土地を複数の土地として登記する |
財産を(現物として)個別で相続 | 不動産は兄、車は弟、現金は妹が相続する等 |
分筆(ぶんぴつ)とは、「一筆」(いっぴつ)として登記されている土地を複数にわけて土地台帳に登記し直すことです。※「筆」(ひつ)とは登記簿における土地の個数を示す単位のことで、土地一個であれば「一筆」(いっぴつ)と示します。
ここでは土地相続の話をしているため、「分筆してわける方法」について詳しく見ていきましょう。
分筆のメリット
相続人それぞれが分筆した土地を自由に使うことができます。例えば、100坪の土地を兄弟2人で分筆した場合、一人あたり50坪の土地を、各人は自由に使うことができます。
分筆のデメリット
狭い土地の場合、分筆によって土地の利用価値が小さくなってしまうことがあります。例えば30坪程度の狭い土地を2人で分筆する場合、一人あたり15坪となってしまい、ほとんど利用用途がなくなってしまいます。また、面積(㎡)は同じでも切り分け方によって土地の価値は変わってきてしまうため、価値を下げないように切り分けることが必要です。
※分筆における具体的な注意点は、分筆による現物分割の注意点をご参照下さい。
3.代償分割
代償分割とは、取り分を均等にするために不足分を現金で補填する方法です。
例えば、父親が分割できない1,000万円の土地と現金800万円を遺産として子供である兄と弟に残したとします。
兄が土地を、弟が現金を相続する場合、兄と弟との間に差額200万円が発生するため、兄は弟に100万円を現金で支払う(=代償分割をする)ことで相続分を均等にすることができます。
代償分割のメリット
現金によって差額を補われるため均等さがわかりやすく、兄弟間で不満が発生しにくくなります。
代償分割のデメリット
現金を差額として支払うことになるので、代償者の負担が大きくなります。また、まとまった資金を持っている兄弟がいないと代償分割自体ができないこともあり、そもそも選択肢として選べないということもあります。
4.換価分割
換価分割とは、土地を売却して現金化することで分割しやすくする方法のことを指します。換価分割では売却価格をそれぞれの取り分に応じて分けるため、1円単位での計算も可能であり、最も不満が出づらい分け方でしょう。
換価分割のメリット
兄弟それぞれが土地利用を考えていない場合は現金化したほうが、不要な不動産を抱えるリスクはなく、むしろ多少でも現金の取り分があるためシーンによっては有効な方法です。
換価分割のデメリット
ただし、土地の売却先がすぐに見つかるとは限らず、売却できても納得のいく金額が手元に残らない可能性もあります。土地としての価値が高くても、売却先を見誤ってしまうと得られる金額は減ってしまい、全員が不満を抱えてしまう危険性もあります。
※換価分割の注意点については、換価分割の注意点をご参照下さい。
土地売却の全体を分かりやすく解説!流れ・費用・高く売るコツなど
相続した土地の売却にかかる税金はいくら?特別控除や基本的な節税対策を解説!
土地を相続する時の注意点
①現物分割時は適切に境界の確定をおこなう
1.境界確定を行う
境界確定とは、分業のために以下2種類の土地の境界線を確定させる作業のことをいいます。
種類 | 概要 | 決定の条件 |
---|---|---|
民々(みんみん)境界 | 隣地との境界線 | 隣地の所有者からの同意 |
官民(かんみん)境界 | 公道との境界線 | 土地所有者と道路管理者(都道府県・市町村等)の合意 |
【赤線部分:官民境界・青線部分:民々境界】
境界が確定していない場合、周辺の土地所有者全員から、境界線をどこにするかについて合意を得る必要があります。
また、確定には50万円の費用がかかったり半年以上の時間がかかる場合があるため、注意が必要です。
以下の記事内の「確定測量にかかる費用」では、境界確定にかかる費用がどのように決まるのか、なぜ高額になってしまうのかについて詳しく解説しています。境界確定について詳しく知りたい方は参照してみましょう。
確定測量ってなに?確定測量が必要なケースや費用感についても解説!
2.接道義務を満たす
接道義務とは「土地に建物を建てる場合は4m以上の幅のある公道に敷地が2m以上接地していなければならない」という法律の規定です。
例えば下のように土地を切ってしまうと、土地Aは接道義務を満たせなくなり、建物が建てられない土地となってしまいます。
建物が建てられないと土地の利用価値は大きく損なわれてしまい、兄弟間で土地を分け合う際に争いの元になります。
よって、分筆時は適切に切り口を設定して利用価値を損ねないようにすることが大切です。
3.価値が下がる場合は無理に切り分けない
分筆によって土地の価値が大きく損なわれる可能性があります。
例えば、以下のように土地をAとBに分けた場合、Bは間口(土地の正面の幅)が長く面積も広いことから十分価値がありますが、Aは間口が短く面積が狭いため、利用価値が低くなってしまいます。
また、もともと間口が狭い土地をCとDのように分割した場合、いずれも更に間口が狭い利用しづらい土地となってしまいます。
このようなことから、利用できないほど土地の価値が下がってしまう場合は、無理に分筆せずに他の相続方法を検討することをおすすめします。
②換価分割時は売却についての意見をまとめておく
換価分割は現金での分配になるため比較的分けやすいですが、スムーズに行うためにやるべきことがいくつかあります。
1.売却について相続人全員の同意を得る
土地を売却して現金で再分配を行う換価分割は、相続人全員の同意を得なければなりません。名義変更をしていない限り、相続した土地は全員の同意なしに売却、活用ができないため、必ず全員の意思を確認しておく必要があります。
2.窓口役の謝礼を用意する
売却時には不動産会社や司法書士など、複数の業者とコンタクトを取らなければいけません。窓口役となる代表者が決まっていないと担い手が明確にならず、売却活動が滞ってしまいます。
担当者を複数にわけるとかえって業者間の調整がややこしくなってしまうため、代表者は1名のみにすることをおすすめします。代表者は窓口活動のすべてを担い、買い主や他の兄弟との調整を行ったり、時には手続きのために会社を休んだりするなど大きな労力を負担することになります。
兄弟のために尽力してくれている代償として、窓口役に金銭や食事などの何らかの謝礼をすることを決めておくことも争いを起こさないためのポイントになります。
手間を引き受けてくれる窓口役に対し、「売却が終わったらみんなでごちそうするからね。いつもありがとう。」と伝えておくだけでも、窓口役は随分と気が楽になるはずです。
引き受けてくれることを当たり前と思わずに、感謝と労いの気持ちを忘れないようにしましょう。
以下の記事では「家相続手続きの流れ」について詳細を解説しています。家の相続手続きについて詳しく知りたい方は、参照してみましょう。
3.売却の最低価格を決めておく
それぞれが納得した取り分を得るために、相続する土地の価値を正しく把握し、どこで妥協をするか、最低売却価格を兄弟間で決めておきましょう。
例えば、兄は3,000万で売れれば十分としているのに対し、弟は3,500万で必ず売りたいと考えているという場合に、兄が知らずに3,500万以下で売却してしまい、揉めごとが発生しないようにするためです。
最低売却価格を決めるには、一括査定サイトを利用して複数の不動産に査定依頼を行い、土地価格の相場を把握することが大切になります。
一括査定では複数社からの査定を比較できるため、
- 平均を見て相場価格を判断しやすい
- 好条件で売却できる不動産会社も見つけられる
- 信頼できる業者に任せることで買主もつきやすくなる
等のメリットがあります。
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参考:すまいステップ
不動産一括査定サイトランキングTOP10!比較するポイントも詳しく解説
③親と同居していた人が相続した場合は相続税が異なる
親と同居していた人がその土地を取得し、相続税の申告まで住み続けた場合は、「小規模宅地等の特例」によって減税対象となります。土地の種類によって減税率は異なります。
- 特定事業用宅地等:限度面積400平方メートルまで80%減税
- 特定居住用宅地等:限度面積330平方メートルまで80%減税
- 特定同族会社事業用宅地等:限度面積400平方メートルまで80%減税
- 貸付事業用宅地等:限度面積200平方メートルまで50%減税
通常の住宅地で同居していたなら、特定居住用宅地等に該当するため、限度面積330平方メートルまで80%減税の特例が適用可能です。
④相続税は相続が発生してから10カ月以内に納める必要がある
相続は開始した日から10カ月以内に税務署に申告し、納税をしなければなりません。申告と納税は、どちらも1日でも過ぎるとペナルティが科せられるため注意が必要です。例えば申告が遅れると、税務署から言われる前の申告で追加納付した税額の5%、税務調査後の申告で15%の追徴課税となります。
また、納税期限の超過は2カ月以内は年利3~4%程度、2カ月以降は年利9~10%程度の延滞税がかかるため、両方とも期限内に行いましょう。
土地相続や土地分割で発生する費用
土地相続や土地分割時において、手続きのための費用や税金が発生することがあります。
特に、換価分割で遺産をわける際は土地の売却益に対し所得税や住民税などの税金が発生することがあります。
相続や分割時に発生する費用を把握しておかないと「想定よりも相続できる金額が少なかった」と後から揉めごとが発生しかねません。よって、円滑に相続を行うためには予め予算を把握し、兄弟間で負担方法を取り決めておきましょう。
土地相続で発生する費用
以下に、土地を相続する際に発生する費用と税金をまとめています。
土地相続に必要な費用 | 費用 |
---|---|
遺産分割協議書作成の代行費用 | 約10万円~20万円 |
遺産分割協議書に必要な書類の手配 | 約1万円 |
相続登記の代行費用 | 約5~8万円 |
法務局への相続登記(登録免許税) | 土地評価額×税率0.4% |
一人あたりの相続税 | (土地評価額-基礎控除額)×法定相続分×税率-控除額 |
遺産分割協議書作成の代行費用
遺産分割協議書の作成は相続人自身で行うこともできますが、作成には専門的な知識が必要になるため、司法書士などの専門家に代行を依頼することも可能です。
その際、司法書士に対して作成報酬を支払います。作成費用は遺産総額の0.5%~1%が目安となり、相場としては約10万円~20万円程度となります。
遺産分割協議書に必要な書類の手配
遺産分割協議書作成のためには、被相続人と相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書などが必要になります。各書類の実費は相続人数によって異なりますが、総額としては約1万円かかります。
相続登記の代行費用
相続登記(被相続人の所有権を相続人へ移転する手続き)は個人で行うこともできますが、兄弟で土地を分割して登記する場合は相続手続きが煩雑になるため、司法書士へ依頼することがおすすめです。司法書士に対する報酬額は約5~8万円となります。
登録免許税
法務局に対する登録免許税(相続の際に国に支払う国税)が必要です。登録免許税は以下の式で算出します。
「登録免許税=土地評価額×税率0.4%」
※土地評価額は固定資産評価額証明書に記載されています。0.4%は土地や中古住宅の相続時にかかる税率になります。
例えば、土地評価額が2,000万円の登録免許税の場合、
2,000万円×0.4%=8万円
つまり、8万円の登録免許税がかかることになります。
相続税
兄弟間で土地を相続する場合、相続税は「相続税の課税対象額」に、「法定相続分」と「相続税率」をかけ合わせた額が各相続人が支払う相続税になります。法定相続分と異なる割合で遺産分割した場合には、法定相続分で分けたものとして計算した相続税の総額を実際の財産の取得割合で按分します。
▼相続税=相続税の課税対象額×法定相続分×相続税率
「相続税の課税対象額」とは
土地評価額(相続する財産の価値を、国税庁が決めたルールに従って評価した際の金額)から基礎控除額(相続人全員が適用できる控除制度)を差し引いた金額を指します。基礎控除は「基礎控除金額=3,000万円+(相続人数×600万円)」で求めることができます。
「法定相続分」とは
法定相続分とは、民法で規定された各相続人による取り分の割合を指しています。兄弟間の法定相続分は、原則均等とされています。
「相続税率」とは
相続税評価額の金額によって異なり、相続税評価額の金額が大きいほど高い税率と控除額が規定されています。
▼相続税の計算例
例えば、1億円の評価額の土地を売却して、兄と弟で均等に相続する場合は以下の通りです。
相続税の課税対象額=1億円ー基礎控除額(3,000万円+2人×600万円)=5,800万円
兄の相続税:5,800万円×1/2×税率15%-控除額50万円=1,300万円
弟の相続税:5,800万円×1/2×税率15%-控除額50万円=1,300万円
つまり、相続税の総額は2,600万円となり、兄弟1人あたり1,300万円が課税されることになります。
換価分割時にかかる費用
換価分割時は売却額を最低いくらにするか兄弟間で合意をとっておくことはもちろんですが、売却費用がいくら発生し、実際に兄弟間で分割できる売却益がいくらになるのかを見積り配分しておくことは大切です。
相続した土地を換価分割する場合、以下の費用がかかります。
▼換価分割時にかかる費用
費用の種類 | 概要 | 金額 |
---|---|---|
仲介手数料 | 土地売却先を仲介する不動産会社に対して支払う仲介手数料 | 不動産の売却価格が400万円以上の場合、不動産の売却価格×3%+6万円+消費税 |
売却契約書印紙 | 売却を契約する際に必要な書類 | 不動産売却価格に応じて値段が変わります |
残置物撤去 | 建物内に残された不要な家具・生活用品などの廃棄物を撤去する際に残置物撤去業者に支払う費用 | 残置物の量で費用が決まり、トラック台数分で計算します |
遺品整理・特殊清掃費用 | 遺品整理業者に支払う、遺品整理や特殊清掃のための費用 | 建物内の状況によって異なります |
測量費用 | 土地家屋調査士に対して支払う土地の大きさや隣接地の数によって決まる報酬 | 一般的な住宅用地の場合、約40万~50万円が確定測量の費用となります |
建物解体費用 | 建物解体業者に支払う建物を解体するための費用。床面積で算出され、建物の大きさや作業状況で費用が決まる | 解体する建物の構造と広さによって決まります。木造なら3万~5万/坪、鉄骨建なら4万~6万/坪、鉄筋コンクリート造なら6万~8万/坪が目安になります |
建物滅失登記 | 建物を解体した場合、建物がなくなった(滅失した)旨を登記簿に登録するための手続き費用。 | 約1,000円~2,000円程度 |
所得税 | 土地売却時に発生した利益に対して課される国税 | (譲渡価格-取得費-譲渡費用)×所得税率15% |
住民税 | 土地売却時に発生した利益に対して課される地方税 | (譲渡価格-取得費-譲渡費用)×住民税率5% |
所得税と住民税について
「取得費」は土地の購入価格です。なくなった日地が土地を購入した価格を使って計算しますが、購入価格がわからないときは、概算取得費(譲渡価格の5%)で置き換えて計算します。
「所得税率」は、所有期間が5年超なら15%、5年以下なら30%で、所有期間は亡くなった人が土地を取得した日から数えます。
予めかかる費用を把握しておくことで、「想定以上の費用がかかってしまったので相続額が思ったよりも少なかった」という事態を防ぐことができます。
双方が納得するかたちで相続を行うためにも、相続にかかる費用を見積もり、兄弟間で共有しておくことは大切です。