こんにちは。すまいステップ編集部です。
不動産売却を成功させるには、不動産会社が重要です。
とは言っても、どの不動産会社なら信頼できるのか分からないという人も多いのではないでしょうか。
ドラマ化された漫画『正直不動産』の原案者である夏原武氏は、「不動産会社を『看板』だけで判断してはいけない」と警鐘を鳴らします。
『正直不動産』は噓がつけなくなった不動産会社の営業マン永瀬の活躍を通して、不動産業界の闇を暴く痛快なストーリーで多くの読者を魅了しています。
不動産業界のリアルな現状を描くため、夏原氏は不動産業界の多数の関係者に取材したとのことです。
夏原氏が見つけた、良い不動産会社や営業マンの見極め方をたっぷりお伝えします。
夏原さん
作家、ルポライター。NHKにてドラマ化されたマンガ『正直不動産』原案者。漫画原作担当作品に、『クロサギ』、『逃亡弁護士成田誠』、『任侠転生-異世界のヤクザ姫-』、『カモのネギには毒がある-加茂教授の〝人間〟経済学講義-』など多数。
前編:住み替えで失敗しないために、『正直不動産』原案者が「売り先行」を進める理由とは?
良い不動産会社は「周囲の評判」で探せ
―夏原さん、本日は宜しくお願いします。早速ですが不動産売却の仲介を依頼する不動産会社を選ぶにあたってのポイントは何ですか?
夏原さん:それはね、すごい難しいです(笑)。結局、看板で選ばない方がいいと僕は思ってます。
理想としては、家を売ったことのある経験者に「どこの会社に頼んだの?」「売却してみてどうだった?」と話を聞いてみることがいいのではないでしょうか。
良い不動産会社には口コミでお客様が来るんですよ。 知人などに聞いて「あの不動産会社が良かったよ」と勧められるからでしょうか。
あるいは、売却時に「こういうことがあって困った」という話でもいいと思います。
不動産売却は大きなお金が動くので、もしトラブルがあれば相当な不満になるはずです。
ハズレの不動産会社を選ばないためには、やはり身の回りの人が家を売ったり買ったりした際の生の声を聞くなど地道なところが非常に重要ではないでしょうか。
不動産売却の成否は「営業マン」で決まる
夏原さん:不動産売却は結局人なんですよね。その営業マンがどういう人かによって結果が大きく変わってくる。
お客様に寄り添ってくれる営業マンは実際にいます。
そんな何人かに話を聞くと、明らかに「ユーザーファースト」なんですよ。
例えば、良い営業マンは売却後のお客様の相談にもきちんと対応しています。売ったマンションの管理会社が別の不動産会社だったとしてもお客様に相談されたらできる限りのフォローをする。
だから、その不動産会社には口コミでお客様が集まってくるんですよ。
でも、いい営業マンを見分けることも実際はすごく難しい。
僕が考える不動産会社の営業マンで避けたほうがいい人の特徴は、下記の3点です。
- 質問に真摯に答えてくれない
- 自分や会社の実績をやたらと強調する
- 非常識な時間に電話をかけてくる
質問に真摯に答えてくれない
夏原さん:不動産会社に分からないことを聞いた時に「そんなことも知らないんですか」という態度の営業マンは避けるべきです。
まず一番の条件としては、不動産売却について分からないことを相談したときに面倒くさがらない人であることです。
これだけの高額な取引で、疑問に対してきちんと答えてくれないという対応は好ましくありません。
まずは質問を色々してみる。それでちゃんと教えてくれるかどうか。
不安な点は家族と話し合っておく
―不動産会社にはどんな質問をしたらいいのでしょうか?
夏原さん:自分が不安に思っていることを全部聞いたほうがいいですね。
例えば、住み替えで次に住む家が決まっているようなケース。
夏原さん:買った先のローンが始まるタイミングで今住んでいる家が売れないと、新居と今の家の「ダブルローン」状態で支払いがきつくなる可能性があります。
もしそうなった場合の対応を含めて、細かいことでも不安なことはきちんと聞いておくとよいでしょう。
一人で決めずに、家族に相談することも非常に重要です。
家族の中でも不安に思う事は全員違います。ですから、不動産会社に相談する前に家族と話し合って不安な事を全部書き出しておく。
ネットに載っている情報のみを鵜呑みにせず、そういうアナログなことを面倒がらずにちゃんとやることが重要です。
自分や会社の実績をやたらと強調する
夏原さん:不動産会社の営業マンの中には、自分や会社の実績をやたらと強調してくる人もいます。
「私は昨年、何十億円分の売り上げを出しました。だからお任せください。」と過去の実績をひけらかし、お客様からの疑問を丸め込む。
しかし目の前のお客様にとって、過去の話は基本的には関係ありません。
今相談を受けている人にとって、関係のない実績で自分を大きく見せようとする人は信用できません。
非常識な時間に電話をかけてくる
夏原さん:また、非常識な時間に電話してくる営業マンも避けたほうが良いと思います。
例えば、こちらからの電話にはなかなか出ないのに、自分勝手なタイミングで電話してくるとか。
そういう営業マンは自分のことしか考えてないのです。ごく当たり前の人間関係から考えておかしいですよね。
不動産が絡むと「特殊な業界だからそういうものか」と思ってしまう方もいるかもしれません。
しかしあくまでも社会常識で考えた方がいい。特殊な業界だからと言って遠慮する必要はありません。
不動産会社を選ぶ際の注意点
―不動産会社を選ぶ際の注意点はありますか?
夏原さん:いくつかありますが、例えば下記のようなものでしょうか。
- 信頼できる会社であれば専任媒介契約を結ぶ
- 「値こなし」からの「買取再販」に注意する
- 査定額だけで不動産会社を選ばない
信頼できる会社であれば専任媒介契約を結ぶ
夏原さん:『正直不動産』の中で僕が一般媒介契約をおすすめするのは、前章で述べた通り不動産会社や営業マンを見極めることが難しいからです。
しかし、理想は信頼できる不動産会社と専属専任媒介契約を結ぶことです。
編集部補足:媒介契約とその種類
媒介契約とは、不動産会社に売却活動をサポートしてもらう代わりに、不動産が売却できた際には売主が不動産会社に仲介手数料を支払う契約。
媒介契約には3つの種類がある。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任売却契約 | |
---|---|---|---|
複数の不動産会社との媒介契約 | 可 | 不可 | 不可 |
自分で知人などの買主を見つける | 可 | 可 | 不可 |
不動産会社からの報告義務 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
レインズへの掲載義務 | なし | あり | あり |
契約期間 | 最長3カ月 | 最長3カ月 | 一般的に3カ月 |
夏原さん:一般媒介契約の顧客は、不動産会社から見ればメリットが少ない。
売主と一般媒介契約を結んだ不動産会社が購入希望者を見つけたとします。
ところが、売主に連絡すると「もう他の会社が見つけた買主に決まりました」と言われ、仲介手数料が貰えないことがあり得る。
反対に専属専任媒介契約は、不動産会社が買主を見つけさえすれば仲介手数料を得られます。だから不動産会社は物件を一生懸命売り出してくれるのです。
また、専属専任媒介契約ではレインズへの登録と売主への報告が義務づけられています。そうしたところからきちんと情報を得られれば売主も安心でしょう。
編集部補足:レインズとは
レインズとは、国土交通大臣の指定を受けた「指定流通機構」が運営する不動産物件情報を掲載するネットワークサービスのこと。
※近畿レインズ「レインズとは」を参考に編集部作成
専任媒介契約もしくは専属専任媒介契約を結んだ不動産会社には、レインズへの物件情報の掲載が義務づけられる。
レインズに物件を登録することにより、他社に来訪した購入希望者も物件情報を閲覧・購入できる。
「値こなし」からの「買取再販」に注意する
夏原さん:しかし、安易に専属専任媒介契約を結ぶことがおすすめできないのが不動産業界の現状です。
専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んだあと、売却活動を何も行わない不動産会社があります。
最近多い手口では、「値こなし」を行って買取に囲い込むものです。
レインズの掲載を見た他の不動産会社から連絡が来ても、「ちょうど購入の申し込みが入りました。」と売主に取り次ぎません。
不動産がなかなか売れない様子に売主が焦って来たら、値下げを提案します。
夏原さん:あえて売却活動をせずに売主に売り出し価格を下げさせる行為を、業界用語で「値こなし」と言います。
値こなしを行った後、最終的には不動産会社が「どうしても売れませんね。仕方ない、弊社で買い取りますよ!」と相場より安い価格での買取に持ち込みます。
―知らないうちに売主が損してしまうのですね。
夏原さん:ただ、それを1度で見抜けなくても仕方がないことです。不動産会社と一般のユーザーの間には知識の差がありますから。
このような場合に安易に不動産会社からの買取の提案にのらずに、別の会社と媒介契約を結びなおせる余裕を持って不動産を売却することが重要です。
査定額だけで不動産会社を選ばない
夏原さん:それから、あまりたくさんの不動産会社から査定を受けることもおすすめできません。
不動産の査定は、水道工事等などで相見積もりを取るのとはちょっと違います。
編集部補足:不動産査定と一般的な買取査定の違い
水道工事や中古車買取など一般的な査定では、査定額と実際の売却価格はほぼ等しくなります。
しかし、不動産仲介においては物件を購入するのは不動産会社ではなく一般消費者であるため、査定額通りに売却できるとは限りません。
不動産の査定額は、不動産会社が直近の事例などから「このくらいで売れるだろう」と算出した価格なのです。
夏原さん:そもそも不動産の相場はよくわからないものです。
路線価などを元にして決まってはいるのですが、不動産価格は時価であるため必ずしも路線価通りに売却できるとは限らない。
結局はその地域に詳しい不動産会社でいくらが相場なのか聞くしかない。
きちんとした不動産会社で売れば、結局売却できる相場は大きく違わないと僕は思います。
そこで査定額ばかりにこだわると良くない不動産会社を掴む可能性も高くなります。
本当は相見積もりなんてしなくても、「あなたにはこの不動産会社がぴったりです」とおすすめしてもらえる仕組みがあるのが一番いい。
でも現状は、このような不動産業界の「穴」を埋めるものがないため、いろいろな会社から話を聞くために査定サイトを使う気持ちはもっともだと思います。
―本日はお忙しい中、ありがとうございました。
『正直不動産』を読んで不動産売買の正しい知識を
今回、お話を伺った夏原さんが原案者を務める『正直不動産』はNHKで放送中の大ヒット作です。
かくいう私もファンの一人。
不動産について詳しく知らなくても、楽しんで不動産取引の知識を学べます。
不動産会社やWebメディアが教えてくれない業界の裏側を教えてくれることも、この作品の魅力の一つ。
多くの不動産業界の関係者に取材をしたからこそ描かれるリアルな人間模様にドキドキさせられます。
不動産売却での失敗の中には知識を身につけておくことで回避できるものもあります。『正直不動産』を読んで、後悔のないよう不動産を売却しましょう。
最新刊『正直不動産 14』は絶賛発売中
連続TVドラマ化決定、大ヒット最新刊。
「大多数を占める善良な不動産屋に詫びろ」
―悪徳不動産屋・ミネルヴァ不動産の鵤社長に
永瀬が放った強烈な言葉の続きは、こうだ。
「おまえらのような一部の悪徳不動産屋のせいで、世の中の不動産屋のイメージまでもが悪くなってんだよ」
そして、ついに、永瀬は鵤に宣戦を布告する。
「必ずおまえらをぶっ潰してやるからな。首洗って待ってろ」
原野商法、住宅ローン事務手数料、物上げ、家賃滞納――
不動産業界の行く末をも左右する
「登坂不動産VSミネルヴァ不動産」の闘いが、さらに激化する。
不動産営業の本音を曝け出す痛快皮肉喜劇、待望最新刊!!
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テーマは、「売買」「建築」「賃貸」「ブローカー・業者取引」それぞれに6テーマずつ、計24テーマを収録。これを読めば、漫画『正直不動産』をより深く理解できる!!
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全宅ツイ幹部と『正直不動産』の主人公・永瀬財地との架空座談会も特別収録。
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登坂不動産の営業マン・永瀬財地(山下智久)は、“嘘もいとわない”セールストークで成績No.1を維持し続ける、やり手の営業マン。
ある日、アパートの建設予定地にあったほこらを壊したことから、たたりで嘘がつけない体になってしまう・・・。言わなくてもいいことまでペラペラとしゃべる永瀬に、当然お客は激怒。
契約寸前の案件まで次々と台なしに――。果たして、正直すぎる不動産屋となった永瀬は生き残れるのか!?家を売る人、そして求める人の痛快な人間ドラマが、今始まる!
【放送予定】
毎週火曜 NHK総合 よる10時~10時45分
【原作】
大谷アキラ(漫画) 夏原武(原案) 水野光博(脚本)