土地や建物に関する図面は多く、隣接する土地との境界を示した「境界画定図」や土地の形状を示した「地積測量図」などがあります。
また、このような図面は土地や建物の売買で必要となり、取得するには法務局などに申請する必要があります。ここでは、土地や建物に関する図面の種類や特徴ついて解説していきます。
1. 土地や建物に関する図面の種類と特徴
土地や建物に関する図面は種類が多く、日常では目にする機会がほとんどないため、どのような内容であるかを詳しく知る人は多くないのではないでしょうか。ここでは、土地や建物に関する図面の種類と特徴を順に解説していきます。
1.1 境界画定図
境界画定図とは、隣接する土地との境界を正確に示した図面のことを言います。古い土地の場合、隣接する土地との境界が曖昧であるケースもあり、土地の売却や新たに建物を建てる際に隣接する土地との境界を巡ってトラブルに発展するケースもあります。
そのため、所有している土地の境界画定図があると、土地活用の際にもトラブルに発展しにくく安心だと言えるでしょう。
1.2 地積測量図
地積測量図とは、一筆や数筆の土地の面積を法律に基づいて確定した図面のことをいいます。一筆というのは、土地の区画のことで一筆の土地の範囲を示す境界のことは「筆界」と呼ばれています。
土地の登記申請する際には、土地や建物などの不動産の登記手続きに関する法律である「不動産登記令」に基づいて、地積測量図の添付が義務づけられています。
1.3 建物図面
建物図面とは、一棟や数棟に及ぶ建物の位置や形状を示した図面のことをいいます。この建物図面は、土地や建物などの不動産の登記手続きに関する法律である「不動産登記令」に基づいて、建物を新たに建てたり増改築した際には建物図面の添付が義務づけられています。
なお、土地と異なり建物の場合は、それぞれの建物ごとに各フロアがあるため、「各階平面図」と同時に作成されるのが一般的です。
1.4 各階平面図
各階平面図とは、建物自体の位置や形状を示した建物図面とは異なり、一棟や数棟に及ぶ建物の各フロアごとの形状や床面積などを示した図面のことを言います。
この各階平面図は、土地や建物などの不動産の登記手続きに関する法律である「不動産登記令」に基づいて、建物を新たに建てたり増改築した際には建物図面と共に添付することが義務づけられています。
1.5 その他の図面
土地や建物に関するその他の図面は、隣接する土地との境界や建物の位置を示した「公図」や水路やブロック塀などの構造物を示した「現況測定図」などがあります。
また、不動産登記法に規定する地図である「法14条地図」があり、一筆や数筆以上の土地ごとに作成することが義務づけられています。なお、不動産登記法は、不動産登記令の上位にあたる法律のことです。
・不動産登記法
・不動産登記令
2. 土地や建物の図面が必要な時とは
土地や建物に関する図面は、境界画定図や地積測量図など種類が多く、不動産登記法や不動産登記令で登記申請の際に貼付することが義務づけられている図面もあります。ここでは、土地や建物の図面が必要な時を順に解説していきます。
2.1 登記申請の時
土地や建物を新たに取得した際には、法務局に土地や建物に関する図面を添付して登記申請する必要があります。
また、土地や建物などの不動産を取得した時以外に登記申請が必要な場合は、転勤や引越しなどで登録名義人の住所の変更があった時、住宅ローンを完済して抵当権を抹消する時、不動産を相続する時が挙げられます。
なお、登記申請をしていないと、土地や建物の売却や相続の際に手続きがスムーズに進まない可能性があることや、土地や建物を相続した場合には、不動産の名義変更を速やかに行わないことで、固定資産税や都市計画税の支払いを巡って相続人同士でトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
2.2 土地や建物を売却する時
土地や建物を売買する場合には、登記申請がされていることが前提ですが、土地や建物に関する図面が必要になるケースがあります。例えば、土地を売却する場合、買い手は土地を購入後に新たに建物を建てることを前提としているケースがほとんどです。
そのため、境界画定図がなく隣接する土地との境界が曖昧なまま売却してしまった場合、買い手が新たに建物を建てる際に隣接する土地の所有者と境界を巡ってトラブルに発展するリスクがあります。
このような場合、売り手が都合の悪い事象を隠していたとして「瑕疵(かし)担保責任」に問われ、損害賠償を請求される可能性があります。従って、特に土地を売却する際には、事前に境界画定図を準備して買い手に示すことで、お互いが安心して売買できるように努めることが大切です。
2.3 土地や建物を相続する時
土地を相続する場合、相続税の申告の際に公図または地積測量図の写しを添付する必要があります。土地は不動産にあたるので相続税の対象となっており、他の財産と合わせた金額に応じた税金が課せられることになっています。
また、相続した土地や建物などの不動産を売却する時にも境界画定図などの図面があると安心で、不動産を売却して現金化した場合にも、相続税の対象となっています。
2.4 新たな建物を建てる時
土地や建物などの不動産を購入したり相続した場合には、登記申請が必要になり、土地や建物に関する図面の添付が必要です。また、土地に新たな建物を建てたり、建て替えする際にも土地や建物に関する図面が必要です。
きちんと測量が行われておらず境界画定図などの図面がない場合は、建築基準法に触れて工事が行えない可能性があるので注意が必要です。
・売却や相続の時
・新たに建築する時
3. 土地や建物の図面を取得する方法
土地や建物に関する図面は、法務局で手続きすることで取得できます。ここでは、土地や建物に関する図面の取得方法について詳しく解説していきます。
3.1 法務局で手続き
土地や建物に関する図面を取得する場合、対象となる不動産の所在地にある法務局や最寄りの法務局で手続きします。なお、図面を取得しなくても閲覧することもできます。
ただし、土地や建物に関する図面を取得する際には、「地図・図面証明書」の発行に450円、「閲覧用図面」の発行に450円の手数料が掛かります。
3.2 オンラインで取得
土地や建物に関する図面を取得する場合、対象となる不動産の所在地にある法務局や最寄りの法務局に出向いて手続きしなくても、オンラインで取得することができます。
オンラインで取得する方法は「登記情報提供サービス」と呼ばれており、事前に一般財団法人民事法務協会と契約した上でIDとパスワードを発行してもらう必要があります。
ただし、オンラインで土地や建物に関する図面を取得する際には、地図や土地所在図などの情報提供に対する手数料として365円が掛かります。なお、オンラインで土地や建物に関する図面を取得する場合は、法務局に出向く閲覧と同等と見なされているため、法的効力はないので注意が必要です。
3.3 郵送で取得
土地や建物に関する図面を取得する場合、郵送で取り寄せることもできます。郵送サービスを利用する際には、法務局の公式ホームページ上の各種証明書請求手続きから書類をダウンロードし、必要事項を記入した上で法務局に郵送します。
ただし、郵送で土地や建物に関する図面を取得する際には、「地図・図面証明書」の発行手数料として450円が掛かります。なお、郵送の際には、切手を貼りつけた返信用封筒の同封を忘れないようにしましょう。
・オンラインで取得
・郵送で取得
4. 土地や建物の図面を作成するための測量について
土地や建物に関する図面がない場合は、新たに作成しておくと安心です。ここでは、土地や建物に関する図面を作成するための測量について解説していきます。
4.1 測量の依頼
土地や建物に関する図面を作成するためには、測量法に基づいた測量を行う必要があります。測量は、専門の業者に依頼して行うのが一般的です。測量の依頼は、不動産の表示についての登記の専門家である土地家屋調査士や、測量法に基づいて必要な測量を行う測量士に依頼します。
このような専門化に依頼する場合は、最寄りの土地家屋調査士事務所や最寄りの不動産業者から紹介を受けて依頼します。なお、一般的な測量の場合は、100平米以下の土地で35~45万円の費用が必要となります。
4.2 現地測量
土地家屋調査士や測量士に測量を依頼すると、登記簿謄本や対象となる土地周辺の図面を参考にして、土地の境界などに関するトラブルなどを調査します。その後、隣接する土地の住人などに対して測量を行うことを伝え、必要であれば協力を要請します。
そして、ようやく実際の測量がスタートします。測量は、土地だけでなくブロック塀や杭などの設置についても確認します。測量が終わると、必要に応じて隣接する土地の住人などと境界の確認をし、当事者全員から承諾を受けます。
なお、境界に関する承諾が得られない場合は、隣接する土地との境界を確定できないため、境界画定図などの図面が作成できないことになります。当事者全員の承諾が得られると、隣接する土地との境界を示す境界標を設置します。このような測量が全て終了した後に、必要な図面を作成することになります。
4.3 測量に要する期間
測量に要する期間は、土地と建物のどちらの場合も測量自体は1日で終わることがほとんどです。また、建物図面や各階平面図、境界画定図などの図面も数日程度で出来上がる場合がほとんどです。
ただし、一筆の土地を複数に分筆する場合に行われる確定測量については、3~4カ月の期間を要するため、図面の作成を急いでいる場合は早めに依頼するようにしましょう。
・測量士に依頼
・測量自体は1日で終了
5. 公図と現況測量図が矛盾している理由とは
公図は、隣接する土地との境界や建物の位置を示していますが、その多くが古い時代に作成されており、現在の土地の状況を示した現況と矛盾している場合があります。ここでは、公図と現況測量図が矛盾している理由について解説していきます。
5.1 公図と現況測量図が矛盾している理由
公図は、隣接する土地との境界を明確にすることや建物の正確な位置を確認するための地図に準ずる図面として登記所に備え付けられているケースがあります。
しかし、公図は、測量の技術が現在のように発展していなかった明治時代の技術で作成されているため、現在の高度な技術で測量されて作成される現況測量図とは矛盾が生じている場合があるのが現状です。
また、現在でも公図から現在の測量技術に準じた正確な地図へ移行する作業は行われていますが、2013年時点では正確な地図が作成されているエリアは23%と低くなっています。
5.2 土地の所有権への影響
公図と現況測量図に矛盾がある場合、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。万が一、このような矛盾があった場合でも、直接私たちの生活に影響はなく、土地の所有権への影響もないので安心です。
その理由としては、公図と現況測量図に矛盾があることが建設業界や不動産業界などに広く浸透しており、公図はだいたいの土地の位置や形状を知るために必要な資料の一部であることにすぎません。
5.3 トラブルの懸念
公図と現況測量図に矛盾がある場合、土地の所有権への影響もなく、曖昧な境界が原因で土地を他人に奪われるという心配はありません。しかし、これは正確な土地の位置や形状を示した地図があることが前提となっており、エリアによっては公図しか置かれていない場合があるので注意が必要です。
このようなエリアの場合、土地の範囲を示す筆界についての整備が不十分であることが原因となり、法務局に登記申請した土地の面積などに矛盾が生じる可能性があるため、土地に関する今後のトラブルが懸念されています。
5.4 トラブルを防ぐため
公図と現況測量図に矛盾があることが原因となり、今後のトラブルが懸念される場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
境界画定図の作成
今後のトラブルを防ぐためには、隣接する土地との境界を示す境界画定図を作成することをおすすめします。
その理由としては、隣接する土地の住人の立ち会いの下で境界画定図を作成することによって、今後の土地活用や新たに建物を建てる際のトラブルが未然に防げるということが挙げられます。
筆界特定制度の活用
公図と現況測量図に矛盾があるという状況を受け、法務省は一筆ごとの土地の境界を確定するために「筆界特定制度」を設けています。この制度は、不動産登記法に準じた制度で、測量に関する費用は自分たちで捻出する必要があるものの、土地家屋調査士や弁護士などの専門化から構成された調査委員が意見を出し合って迅速に境界が決定されるというメリットがあります。
なお、筆界が特定されるまでの期間は約半年を要し、申請時に提出する土地に関する資料が少ない場合が、1年以上を要する可能性があります。
・所有権への影響なし
・筆界特定制度の活用
6. 土地や建物に関する図面を作成して未然にトラブルを防ごう
土地や建物に関する図面の種類は多く、実際に土地や建物を売買したり相続していない場合は、図面の所在すら確認する機会も少ないかもしれません。しかし、相続の場合では、速やかに相続登記することが今後のトラブルを未然に防ぐポイントとなります。
また、土地や建物に関する図面を作成するためには測量を行う必要があり、数十万円の費用が必要となります。しかし、依頼する業者によって料金は異なるため、複数の業者に見積もりを依頼してできるだけ費用を抑えて測量を行うと良いでしょう。