相続した不動産の売却を検討しているものの、売却した時の税金が高くなりすぎないか、心配な方は少なくないのではないでしょうか。
不動産売却時にかかる可能性のある税金は「所得税」「住民税」「印紙税」「登録免許税」の4種類です。
このうち、譲渡所得があった場合に課税される「所得税」と「住民税」が、特に高額になりやすい税金です。
しかし、相続不動産の売却時には、所得税と住民税の負担を軽減できる税制上の特例があります。
この記事では、売却時にかかる税金についてや、税制上の特例について詳しく解説しています。ぜひ最後まで読んで、大事な不動産の売却に役立ててください。
相続した不動産の売却については、以下の記事でも解説しています。
相続した不動産の売却にかかる税金
相続した不動産を売却する時にかかる税金は、以下の4種類です。
この章ではそれぞれ、「どんな税金」が「いくらぐらいかかるのか」を解説していきます。
譲渡所得に課される所得税と住民税
不動産を売却して譲渡所得が出た場合、譲渡所得の金額に応じて所得税と住民税がかかります。
譲渡所得に課される所得税と住民税を、合わせて「譲渡所得税」とも呼びます。
▼譲渡所得の計算方法
譲渡所得とは、不動産の売却による収入金額から、不動産の取得時にかかった費用(取得費)と売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いた黒字の金額のことです。
▼譲渡所得税の計算方法
所有期間が5年超 | 所有期間が5年以下 | |
---|---|---|
所得税率(※) | 15.315% | 30.63% |
住民税率 | 5% | 9% |
合計(譲渡所得税率) | 20.315% | 39.63% |
(※)所得税の税率は、2037年までの復興特別所得税(所得税額2.1%分)を含めて表記しています。
たとえば、譲渡所得が1,000万円だった場合の税額は、以下のようになります。
所得税=1,000万円×15.315%=153万1,500円
住民税=1,000万円×5%=50万円
合計=203万1,500円
所得税=1,000万円×30.63%=306万3,000円
住民税=1,000万円×9%=90万円
合計=396万3,000円
なお、不動産の所有期間は、被相続人の所有期間を引き継ぎます。
たとえば、被相続人が10年間所有していた不動産は、相続人が売却した場合も「所有期間を10年」として税額を計算します。
- ▼不動産の所有期間の計算方法(クリック)
- 不動産の所有期間は、取得した年月日から売却した年の1月1日までを基準に計算します。例えば、被相続人が2010年4月1日に購入した不動産を、相続人が2020年3月1日に相続し、2020年12月1日に売却した場合、所有期間は2020年1月1日を基準に計算します。所有期間:2010年4月1日~2020年1月1日
⇒9年9ヶ月
印紙税
印紙税とは、課税文書(金銭取引をする契約書や領収書、有価証券など)に課される税金です。
不動産売却においては、売主と買主の間で売買契約書を交わす際に、契約書に記載された売却価格に応じた金額の収入印紙を書面に貼り付けて納付します。
印紙税の金額は一般的に、数千円から数万円に収まることがほとんどです。
- 税額を詳しく見たい方はこちらをクリック
- 令和6年3月31日までの間に作成される売買契約書に関しては、軽減税率が適用されて、以下の税額となります。
売買契約書に記載された契約金額 印紙税額 1万円未満 非課税 1万円以上50万円以下 200円 50万円を超え100万円以下 500円 100万円を超え500万円以下 1,000円 500万円を超え1,000万円以下 5,000円 1,000万円を超え5,000万円以下 1万円 5,000万円を超え1億円以下 3万円 1億円を超え5億円以下 6万円 5億円を超え10億円以下 16万円 国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」(2023.2.20閲覧)を参考にすまいステップ編集部が表を作成
登録免許税
登録免許税とは、法務局で登記申請をする時にかかる税金です。
相続した不動産を売却する場合、売却前に被相続人から相続人への名義変更登記(相続登記)と、不動産に抵当権が残っている場合は抵当権抹消登記をする必要があります。
登録免許税=不動産の固定資産税評価額×0.4%
登録免許税=不動産1件につき1,000円
(例)家の抵当権を抹消する場合、土地と建物(戸建て)の2件で2,000円
なお、売主から買主への名義変更の登記にかかる登録免許税は、買主が負担することが一般的です。売主は支払いません。
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費用総額シミュレーターで売却にかかる費用を算出してみよう
以下の費用シミュレーターを使って、あなたの不動産を売ったときにかかる費用を算出してみましょう!
「売却価格」「購入価格」「物件の所有期間」「現在住宅として住んでいるか」をそれぞれ入力し、「費用を算出する」ボタンを押すと、売却時にかかる費用が自動で算出されます。
※購入価格が分からない場合は空欄で大丈夫です。
費用の内訳も表示されますので、まずはどんな費用がいくらかかるのかを把握しておきましょう。
相続不動産の売却にかかる税金を節税できる特例
せっかく相続した不動産を売却しても、多額の税金を支払わなければならないことが気がかりな方も多いでしょう。
以下のケースに当てはまる場合、確定申告時に申請して、節税に繋がる特例を適用できる可能性があります。
なお、①と②のどちらにも当てはまる場合は、どちらか片方の特例しか利用できません。
また、②と③に関しては、②のケースで申請できる特例の申請期限内であれば、併用可能です。
相続した不動産が土地である場合に使える可能性のある特例については以下の記事をご参照ください。
①相続税を支払った不動産を売却した場合
相続税を支払った不動産を、相続から3年10ヶ月以内に売却すると、「取得費加算の特例」を適用できます。
「取得費加算の特例」は、相続した不動産について支払った相続税の金額を取得費に加算できる特例です。
取得費に計上できる金額が増えると、その分、譲渡所得の金額が減ります。
譲渡所得が減ると、譲渡所得税として支払わなければならない金額も減少するので、節税に繋がります。
②親から相続した空き家を売却した場合
親から相続した空き家や敷地を売却して一定の適用要件を満たすと、「相続した空き家の3000万円特別控所の特例」を適用できます。
特例を適用すると、譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。
特例を適用するための要件は、やや複雑です。たとえば、以下の条件を満たしている必要があります。
- 相続した空き家と敷地をセットで売却するか
- または相続した空き家を取り壊した土地を売却する
- 相続開始があったから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する
- 売却価格が1億円以下である
- 昭和56年5月31日以前に建築された家である
- 空き家が売却時に一定の耐震基準を満たしているか、取り壊されている。
戸建ての空き家を対象とした特例であるため、相続した不動産がマンションの場合は適用できません。
また「①相続税を支払った不動産を売却した場合」で紹介した「取得費加算の特例」とは併用不可です。
したがって、両方を申請できる場合には、税金がより安くなる方を選択しましょう。
なお、相続した空き家に母屋と離れがある場合、控除の対象となるのは母屋と母屋の敷地のみです。
【母屋と離れがある場合の特例適用面積の計算方法】
以下の記事で、相続空き家の3,000万円特別控除の特例について更に詳しく解説しています。
③親と同居していた家または相続して住んでいた家を売却した場合
相続以前から親と同居していた家を売却したか、あるいは親から相続した家に居住した後、住み替えのために売却した場合、以下の特例を適用できる可能性があります。
▼3,000万円特別控除の特例
「3,000万円特別控除の特例」とは、居住している自宅を売却した時に、譲渡所得を最大3,000万円まで控除できる特例です。
戸建て、マンション、住んでいた戸建てを取り壊した土地の、いずれにも適用可能です。
また、所有期間の長短にかかわらず適用を申請できます。
詳しくは、国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」をご参照ください。
3,000万円特別控除とは?控除を受けるための適用条件【チャート付】
▼マイホームを売った時の軽減税率の特例
「マイホームを売った時の軽減税率の特例」とは、1月1日時点で所有期間が10年を超える自宅を売却した場合に、税率を更に軽減できる特例です。
通常、所有期間が5年を超える不動産には、長期譲渡所得税率(所得税:15.315%、住民税:5%)が適用されます。
これに対して、軽減税率の特例を適用すると、課税対象となる譲渡所得6,000万円以下まで、更に安い軽減税率を適用できます。
譲渡所得の金額 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円を超える部分 | 15.315% | 5% |
※所得税率に復興特別所得税として所得税額の2.1%相当が上乗せされています
なお、この特例は先述の「3,000万円特別控除の特例」と併用可能です。
つまり、10年を超えて所有している自宅を売却すると、譲渡所得から3,000万円を控除した後に、残った譲渡所得についても6,000万円分までは軽減税率を適用できるため、かかる税金を大幅に節減できます。
詳しくは、国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」をご参照ください。
▼マイホームの買い換え特例
「マイホームの買い換え特例」とは、1月1日時点で10年を超えて所有している自宅を売却した時に、さらに一定の要件を満たすことで、譲渡所得税の課税を繰り延べられるという特例です。
- 売却価格が1億円以下
- 買い替える住宅の床面積が50㎡以上かつ土地の面積が500㎡以下
- 買い替える住宅が一定の耐震基準・耐火基準を満たしている
なお、「3,000万円特別控除の特例」や「マイホームを売った時の軽減税率の特例」とは、併用できません。
特例について更に詳しくは、国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」をご参照ください。
相続不動産を売却したときの税金シミュレーション
この章では、相続不動産を売却した場合にかかる税金を実際に計算してみましょう。
シミュレーションには以下の事例を用います。
- 親から相続した戸建て住宅(親の死後は空き家)
- 築40年
- 所有期間40年
- 2000万円で売却
- 取得にかかった費用は不明
- 譲渡にかかった費用は100万円
- 土地・建物の合計固定資産税評価額は1500万円
step1:相続登記にかかる登録免許税を計算する
まずはじめに、相続登記にかかる登録免許税を計算します。
相続登記にかかる登録免許税の税率は0.4%なので、以下のような計算になります。
step2:不動産売買にかかる印紙税を計算する
次に、不動産の売買契約時に必要な印紙税を計算しましょう。
印紙税は売買契約書に記載された契約金額によって税額が変わりますが、売却価格が2000万円の場合は1万円です。
よって今回のケースでは1万円の印紙税がかかります。
step3:不動産売却で得た利益(譲渡所得)を計算する
不動産の売却後に、不動産売却で得た利益(譲渡所得)を計算します。
譲渡所得は、「売却価格 – (取得費+譲渡費用)」という計算式で算出できます。
また、今回は取得費用が不明なので、売却価格の5%を概算取得費として計算に用います。
step4:譲渡所得税を計算する
譲渡所得がわかったら、譲渡所得から特別控除額を差し引いてから譲渡所得税を計算します。
譲渡所得税の計算式は「(譲渡所得-特別控除額) × 税率」です。
税率は所有期間で変わりますが、今回は40年なので長期譲渡所得にあたり、税率は20.315%で計算されます。(復興特別所得税含む)
また、今回の不動産は「相続した空き家の3000万円特別控除」にあてはまるため、3000万円を特別控除額として差し引きます。
不動産を売却した翌年には確定申告が必要
相続した不動産かどうかに関わらず、不動産を売却した翌年には確定申告が必要になることがあります。
具体的には、以下の2つのケースでは不動産売却の翌年の確定申告が必須です。
【不動産売却で確定申告が必要になるケース】
- 譲渡所得が発生するケース
- 控除の特例を用いるケース
この確定申告は、不動産売却の譲渡所得税に関する申告になります。
不動産売却の譲渡所得は分離課税といって、給与所得とは分けて税金の計算をします。
そのため、普段は源泉徴収で納税しているサラリーマンでも、上記のケースに当てはまる場合は確定申告をしなければなりません。
また、2章で紹介した特例を用いるためには確定申告が必要です。
控除の特例を適用して譲渡所得税の課税がなくなる場合でも、特例の適用を申請するために確定申告をしなければなりません。
確定申告をする時期
確定申告をするタイミングは、不動産を売却した年の翌年の2月16日~3月15日です。
例えば、2022年8月に不動産の売却を完了した場合、2023年の2月16日~3月15日の間に確定申告をする必要があります。
確定申告に必要な書類
確定申告に際に必要な書類は、利用する控除の特例によって変わります。
そのため、国税庁のホームページで利用する控除の特例のページを事前に確認しておきましょう。
なお、多くのケースで必要になる書類としては以下のようなものがあります。
以下の書類は、なるべく早めに手元に揃えておきましょう。
- 確定申告書
- 本人確認書類
- 譲渡所得の内訳書
- 不動産の売買契約書の写し
- 譲渡費用の分かる資料(領収書など)
- 取得費用の分かる資料(領収書など)
- 譲渡した不動産の全部事項証明書
- 印鑑
まとめ
この記事では、相続した不動産を売却する際の税金、控除の特例、確定申告などについて詳しく解説しました。
相続の前後はなにかと慌ただしく、知識を十分につける時間をとるのが難しいこともあるでしょう。
そんなとき、この記事で相続不動産を売却する際の税の知識を確認していただけると幸いです。
また、税金や確定申告の手続きは、自分だけで行うのが不安という方も少なくないかと思います。
そういった方は、不動産会社に相談してみるのがおすすめです。
不動産会社は不動産の取引についてだけでなく、そこで発生する税金や売却後の確定申告についても知識を持っている不動産関連のプロです。
自分で調べて失敗するよりも、頼れるプロにどんどん質問しましょう。
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