不動産売却を進めている人の中には、
「契約直前だけど、今からキャンセルできるのかな?」
「不動産売買契約をキャンセルしたらどのくらいの違約金がかかるのか?」
など、不動産会社との媒介契約を解除しようと考える人から買主との売買契約のキャンセルを考えている人まで、悩みは尽きないと思います。
そこで今回は、スムーズに契約をキャンセルするにはどうしたらよいか、また金銭的な負担を抑えつつキャンセルするポイントについて徹底解説していこうと思います!
売却活動中のキャンセルはできる?
不動産売却の途中でキャンセルは可能で、売買契約締結後でも売主・買主にやむを得ない事情がある場合はキャンセルをすることができます。売買契約時に買主は手付金を支払いますが、買主都合の場合はその手付金を放棄することで、売主都合の場合は受け取った手付金の倍額を支払うことで違約金とし、契約がキャンセルされます。
では具体的には、どんなケースであれば違約金なしでキャンセル可能なのでしょうか。ケース別に分析していこうと思います。
違約金なしでキャンセルできるケース
①訪問査定後のキャンセル
不動産売却における「一括査定→媒介契約→売買契約の締結→決済・引き渡し」の流れにおいては、不動産会社から訪問査定をしてもらう人がほとんどだと思います。
その中でも、条件が見合わないなどの理由でキャンセルを検討する方も多いと思いますが、訪問査定後のキャンセルには一切違約金はかかりませんのでご安心ください。
また、ごくたまに悪徳業者がキャンセル料を請求してくることがあるかもしれませんが、支払いに応じる必要は一切ありませんのでご安心ください。
②一般媒介契約のキャンセル
訪問査定後の次のステップとして、実際に売却活動を行ってくれる不動産会社との「媒介契約」を結ぶと思います。
媒介契約には同時に複数の不動産会社との契約が可能か否か、また契約期間は何か月かといった点で一般媒介契約、専属専任媒介契約、専任媒介契約の三種類に分けられます。
その中でも一般媒介契約とは、最も制約の少ない契約形態で複数の不動産会社と契約可能であることが一番の特徴で、また期間も三か月以内といった取り決めがなされています。
一般媒介契約においては、たとえ売却活動途中で契約の最中であっても、違約金を払うことなくキャンセルすることが可能です。
というのも、宅地建物取引業法によって買主との売買契約が締結されない限り成約手数料が発生しないと定められているからです。
③購入申し込み時点でのキャンセル
売却活動が進み内覧も増えていくと、「購入申し込み(購入予約)」という形で買付証明書をもらうこともあると思います。
買付証明書とは、購入価格や手付金の額、引き渡し時期などについて「この条件で買います(買いたい)」という買主の意思を反映した書類のこと。
買付証明書をもらったことで契約が進んだと考える方も多いと思いますが、実は買付証明書には法的拘束力はありません。
そのため、購入申し込みをキャンセルしたとしても違約金などを支払う必要性はないのです。
不動産売買の「買付証明書」ってどんなもの?効果的な書き方と活用方法
違約金等が発生するケース
①専属専任媒介契約・専任媒介契約のキャンセル
専属専任媒介契約・専任媒介契約とは、大まかにいうと1社の不動産会社と契約を結び専属で売却活動を進めてもらう契約形態です。
契約期間は多くの場合で3か月とされていることが多く、3か月以内での契約解除では違約金などが発生することがあります。また、媒介契約書の中には「不動産会社の責めに帰すことができない事由によって媒介契約が解除された場合は、それまでに媒介契約の履行のために要した費用(広告費や交通費)の償還を請求できる」という規定があることも多く、それまでにかかった広告費や宣伝費の支払いを求められることもあります。
そのため、ペナルティを払わずに契約解除するポイントは、三か月後の契約更新の際に更新しないことをお勧めしています。見直しの際に解約を申し出れば、違約金を求められることなくスムーズにキャンセルができるでしょう。
ただし、不動産会社に問題がある場合は違約金なくキャンセルできる場合もあります。
具体的には、不動産会社が
- 不動産売却サイトに広告を掲載しておらず、積極的に売却活動をしていない場合
- レインズへの登録がされていない場合
- 報告対応が遅い
などの場合に、業務改善を促しても変化がない場合は違約金なくキャンセルすることも可能です。
ただし、トラブルを避けつつキャンセルしたい場合はやはり契約満了まで待つのが一番でしょう。
媒介契約とは?契約の種類や手数料、注意点までわかりやすく解説
②売買契約後のキャンセル
不動産売買契約締結後は、「売主買主ともに契約内容を遵守し、手続きを進める」という意味合いで法的な拘束力が発生します。
何らかの理由でキャンセルをしなくてはならなくなった場合は基本的には違約金等のペナルティが発生することを覚えておきましょう。
逆に言えば、
- 買主から買い付け申込書を受け取った段階
- 買主による買い付け申込書に対して、受渡承諾書を出した段階※1
- 売買契約の日程段取りが終わっている状態
のような書面での売買契約をまだ結んでいない段階では違約金が発生することはない※2を頭に入れておきましょう。
※1 受渡承諾書や買付証明書の交付によって売買契約が成立したか否かについて裁判で争われる例がありますが、裁判所は受渡証明書や買付証明書の交付段階では売買契約は成立していないとする判例が通例です。
※2 上記の例で仮に契約成立したとみなされても、信頼利益程度の損害しか認定されないことが多いのが通常です。信頼利益とは、契約が有効に成立すると信じたことによって受けた損害のことであり、そのために無駄になった諸費用のことです。詳しくはこちら
そして、売買契約締結後であっても、「契約の履行」に着手しているか否かで請求される金額が変わってくることに注意しましょう。
契約の履行とは
売主様 | 所有権移転の手続き 分筆登記手続き |
買主様 | 中間金の支払い 残代金の支払い |
を意味していることが多く、どの段階まで進んでいるかによって違約金額等が変わってくるのです。
請求される金額と相場は?
①専属専任媒介契約・専任媒介契約を解約した場合
契約期間を待たずどうしても解約をしたい場合には、それまでに売却活動にかかったチラシなどの広告宣伝費や営業費が請求されます。
とはいえ、それまでにかかった諸費用を無制限に請求するわけではなく、標準媒介契約約款では、ペナルティの上限額は約定報酬額とすることが定められています。
約定報酬額とは、売買が成立した際に支払う仲介手数料のことで「売却価格×3%+消費税」が平均的な額となりますので、例えば1000万円で売却活動中であれば33万円が約定報酬額となります。
②売買契約後にキャンセルした場合
契約の履行に着手していない場合は「手付倍返し」でキャンセル可能
買主がまだ手付金しか支払っていない状態であれば、「解約手付」として支払われている手付金の倍の金額を支払うことが契約解除することが可能です。
例えば、手付金が100万円すでに支払われている場合であれば、200万円の手付金を支払うことによってキャンセルが可能です。
ただし、手付倍返しによって契約解除ができたとしても不動産仲介会社から仲介手数料が請求されるケースがあります。
「仲介手数料は、契約が成立した際の成功報酬なんだから、解除された場合はかからないんじゃないの?」
と考える方も多いと思いますが、手付倍返しによる契約解除は「一度契約した後に、売主にの都合によって解除されたもの」と解釈することも可能であるため、過去の裁判例からも不動産仲介会社に報酬の請求権が認められています。
とはいえ、請求権の有無は不動産会社によっても解釈が分かれることが多いので、請求されるか否かは場合によって異なると考えると良いでしょう。
契約の履行に着手している場合は「違約金または損害賠償金」が請求される
契約締結後、契約の履行に着手している場合は上記のように手付金倍返しによって自由にキャンセルすることはできません。
契約違反があった場合は、「契約の履行(義務を果たすこと)」、「契約を解除して違約金を請求する」のどちらかを選択することとなります。
例えば、売主側が何らかの理由によって所有権移転に協力しない場合は、買主から契約の履行や違約金が請求されることがありますし、買主側が残代金を支払わない場合は、残代金の支払い請求や違約金の請求が可能になります。
ポイントとしては、売主側が売却を断念しキャンセルを申し出る場合は単に違約金を払えばよいということではなく、買主側が選択権を持っているということです。
違約金の相場はいくら?
違約金に関しては不動産売買契約書にある違約金に関する取り決めを参照しましょう。
取り決めには二種類あり、損害賠償額の予定である場合と違約罰の場合があります。
前者の場合(損害賠償額の予定)は契約書に定められている金額を、実際の損害額がその額を上回っても下回っても支払うものとします。契約書の中で特に定めがない場合は、損害賠償額の予定であることがほとんどです。
次に違約罰の場合は、実際に発生した損害賠償責任が発生するのに加えて、約束した金額を罰として払います。
なお、ほとんどの契約が損害賠償の予定とされており、損害賠償額は売却価格の一割程度が相場といわれています。
キャンセルの流れと方法
一般媒介契約の場合
一般媒介契約の場合は、いつでも電話一本入れるだけでキャンセルが可能です。
不動産会社によっては、キャンセルを引き留められることもありますが、違約金等請求されることはありませんので容赦なくキャンセルしてもらって問題ありません。
専属専任媒介契約・専任媒介契約の場合
専属専任媒介契約・専任媒介契約の場合では、必ず書面をもってキャンセルの意思を提示しましょう。
というのも、法的には電話口でのキャンセルにも拘束力はありますが、不動産会社によっては「電話での解約は受け付けていない」といった対応をされたり、のちのち仲介手数料を請求されたりと、トラブルの元となることもあるので、書面での証拠を残しておきましょう。
基本的には書式は自由ですが、
- 書面を作成した日付
- 宛先(取引先の不動産会社)
- 自身の名前・住所
- 題名(「専属専任媒介契約・専任媒介契約 解除通知書」)
- 契約解除を通知する文面(「私は本書面をもって、貴社との下記の専属専任媒介契約・専任媒介契約を解除致します。」など)
- 解除理由
などを記載しておけば問題ないでしょう。
【専任媒介契約とは】メリット・デメリットや契約のルールをわかりやすく解説
売買契約後の場合
基本的には契約は買主・売主双方で契約することなので、契約違反などの不義理がなくとも双方から解除を申し出ることが可能です。
とはいえ、契約解除となると売主買主双方に大変な負担がかかりますし、契約の履行に着手する前であればなるべく早く解約を申し出ないといけないため、やはり不動産仲介会社にいち早く連絡することが重要です。
当事者間で解決することも可能ですが、やはり信頼できる不動産会社に間に立ってもらうことでスムーズにキャンセル手続きを進めることができるでしょう。
よくある質問
信義則違反により損害賠償請求されるケースがあります。
信義則とは、権利の行使、義務の履行にあたっては、誠実に対応しなければならないとするものです。簡単に言うと、「相手の信頼を裏切ることなく、社会通念上の常識の範囲内で物事を進めようね」といった原則で、明らかにこれに反すると判断された場合は、損害賠償請求されるケースがあります。
例えば、購入申込書に対して受渡承諾書を提出している場合などにおいて、信義則違反が問われる可能性があります。
ただし過去の裁判例からもここでいう信義則違反は、信頼利益(契約するだろうと信じた際に生じる損害)にとどまるといわれており、履行利益(契約が成立した際に得られたであろう利益)ではないことに注意しましょう。
記事のおさらい
売却活動中のキャンセルはできる?
不動産売却のキャンセルは、たとえ売買契約締結後であってもキャンセル可能です。ただし、不動産売却のキャンセルはタイミングによっては違約金が発生することもあります。詳しく知りたい方は売却活動中のキャンセルはできる?をご覧ください。
請求される金額と相場は?
専属専任媒介契約・専任媒介契約を解約した場合は、それまでに売却活動にかかったチラシなどの広告宣伝費や営業費が請求されます。売買契約後にキャンセルした場合は契約の履行に着手していない場合は「手付倍返し」でキャンセル可能です。詳しくは請求される金額と相場は?をご覧ください。
キャンセルの流れと方法は?
一般媒介契約の場合、専属専任媒介契約・専任媒介契約の場合、売買契約後の場合で異なりますので、詳しく知りたい方はキャンセルの流れと方法をご覧下さい。
決まりかけた売買契約を途中でキャンセルするのは道徳的にどうなの?
信義則違反により損害賠償請求されるケースがあります。詳しくはよくある質問をご覧ください。