個人事業主で普段帳簿をつけている人でも、初めて土地を売却した際に帳簿のつけかたがわからず困ることがあります。土地の売却は大きな金額が動き影響が大きいため、適切な仕訳をするように注意しなければなりません。
使用する勘定項目や簿価、仕訳の日付、手付金の取り扱いなどの基本的な知識を身につけてから、帳簿をつけるようにしましょう。
また簿価よりも高く売っているか低く売っているかなどの売却状況によっても、仕訳が異なります。パターン例をみながら、自分の売却ケースがどれにあたるのか知ることも重要です。
土地売却の方法について確定申告でミスをしたくない人のために、この記事は書かれています。土地売却における仕訳の基本的な知識や、仕訳の5つのパターン例、仕訳で悩んだ際の相談先、仕訳の注意点などを知り、確定申告で税金を多く取られないようにしましょう。
土地の売却で仕訳をするための基本
個人事業主が土地の売却を行った場合、会計帳簿に計上しなければなりません。仕訳だけではなく、簿価や帳簿の日付などについても解説します。
仕訳は固定資産売却損益勘定
土地を売却して利益が出た場合、税金が発生するので帳簿をつけて確定申告で税務署に提出します。帳簿はさまざまな勘定項目に分かれていて、取引の原因や結果を勘定項目ごとに分類します。これが仕訳です。
個人事業主が土地を売却した場合は、「固定資産売却損益勘定」に仕訳します。これは会社が所有している土地や建物、車などを売った際の利益や損益を記載する勘定科目です。
土地の売却によって得た現金、土地の価値、仲介手数料、固定資産売却損益の4つのお金の流れを、仕訳をしながら整理しましょう。
「売却によって利益が出たなら、売上勘定でもよいのでは」と思うかもしれませんが、不動産の売却によって得た利益は、事業利益(売上)ではありません。また売却代金には、税金や控除も含まれてしまいます。
土地売却の利益の基準は簿価
土地を売却したときに、利益が出ているかどうかの計算の基準となるのは「簿価」です。会計処理で使われる言葉なので、聞き慣れない人もいるかもしれません。
簿価とは土地や建物などの不動産を、所得したときの金額です。実際に購入時に支払った金額のことであり、その後土地が値上がりしても値下がりしても簿価は変わりません。
また金額が変わらない簿価と異なり、購入後の不動産価格の変動を簿価から差し引いたものを「時価」といいます。
例えば5,000万円で土地を購入したとします。実際に支払った金額が5,000万円なので、これが簿価であり、帳簿では貸方に記載します。その後土地が値上がりして6,000万円で売却できた場合、この6,000万円が時価です。売却した際の金額や支払手数料は、借方に記載しましょう。
固定資産売却益(損)は、簿価から支払手数料を含む実際に支払った金額を差し引いた額です。売却時の金額が簿価よりも高ければ利益が出ているので貸方に、簿価よりも低く損が出ているのなら借方に、ケースバイケースで記載しましょう。
帳簿の日付は2パターンから選択
会計処理をするタイミング、つまり帳簿の日付は以下の2つのパターンから選択できます。
- 売買契約を締結した日
- 実際の不動産引き渡し日
「日付を気にする必要があるの?」と思う人もいるかもしれません。同じ年度内ならば大きな違いはありませんが、選択できる日付が年度をまたぐ場合には、土地売却による税金の発生年度が変わるので注意が必要です。
所得税の計算は、1月1日から12月31日までの暦年で計算します。例えば売買契約を締結した日が12月25日で、不動産を引き渡したのが翌年の1月10日だとしたら、日付を1月10日にした方が税金のキャッシュアウトを遅らせることができます。
しかしほかの不動産の売却状況や、不動産売買に関する特例の有無で、「売買契約を締結した日」にしたほうが有利なこともあります。利用できる制度などを勘案した上で、日付を申告しましょう。
消費税が課税される土地売却にかかる費用
土地売却に関わるお金には、不動産売却の仲介手数料や司法書士に書類作成を依頼した際の手数料、融資の手続きでの手数料、土地代などがあります。
消費税課税対象は次の通りです。
- 不動産売却の仲介手数料
- 司法書士への手数料
- 融資の手続きでの手数料
土地代は、建物のように消費されるものではないと考えられています。そのため土地代には、消費税がかかりません。
また消費税に関する注意点ですが、不動産広告は「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」という自主規制の観点から、一般的に消費税を含んだ税込み価格で表されます。もしも建物を含んだ土地を売却するのなら、土地は非課税ですが建物部分は税込みの価格で提示する必要があるので覚えておきましょう。
また不動産の価格が税込なのに対し、仲介手数料の計算は不動産の税抜き価格に対して支払われるので注意が必要です。これは手数料が、物件そのものに対する報酬として支払われるためです。
売却したのが土地だけの場合、土地は非課税なので売却金額そのものから手数料代を算出します。しかし建物を含んだ土地を売却した場合は、建物代に含まれている消費税を差し引いた金額から手数料代を算出しなければなりません。間違えて多く支払うことがないように、注意してください。
土地を売却するときの手付金の取り扱い
不動産を売買する際、物件価格の5%から20%程度を「手付金」として、買主から売主に支払われます。これは売買代金の先取りのようなものですが、法的拘束力を持たない代金の一部を支払うだけの内金と異なり、手付金は特別な効力を持っています。
手付金にはいくつかの種類があります。手付金の会計処理の仕方ですが、売主の場合は手付金を負債勘定で仕訳します。「前受け金」という負債勘定に記載しましょう。
また買主の場合は売主と異なり、資産勘定の「前払い金」に仕訳します。
不動産会社への仲介手数料は情報提供料扱い
不動産会社に土地の売却を依頼して制約した場合、不動産会社に仲介手数料を支払います。法律上の仲介手数料の取り扱いは、「情報提供料」です。
仲介手数料の仕分けは、土地購入時と売却時で勘定項目が異なります。購入時に支払った仲介手数料は「土地」の勘定項目に記載し、資産扱いになります。
しかし売却の際の仲介手数料は「支払手数料」に記載することができ、経費として扱えます。会計帳簿をつける際には、支払手数料という勘定項目の借方へ記載しましょう。
また会計帳簿上の注意点は、消費税の取り扱いです。土地は無課税ですが、仲介手数料は課税仕入れです。記載してある仲介手数料が、税込みかどうか確認してから仕分けするようにしてください。
固定資産税精算金の取り扱い
土地や建物などの不動産を所有している場合、固定資産税を毎年国に納めます。固定資産税はその年の1月1日に不動産を所有していた人に対して、課税されます。
そのため土地を年度の途中で売却した場合、買主と売主の間で分担しておかないと、その年度の固定資産税が全額売主負担となってしまいます。年度の途中で売却した場合、土地にかかる固定資産税を、買主と売主で分担しましょう。
分担の割合ですが、土地の引き渡し日前日までを売主が、引き渡しの当日以降は買主が負担します。一般的には買主が、自分の負担分の固定資産税を売主に渡します。これが固定資産税精算金です。
固定資産税精算金の納税義務は売主です。勘定項目は売買代金で仕訳します。
土地を売却したときの5パターンの仕訳
土地の売却額が、簿価よりも高いか低いかなどで仕訳が異なります。ここでは5つのパターンについてそれぞれ解説します。
土地を簿価より安く売却
土地の売却の損益は、土地が簿価より高く売却できたかどうかで決まり、仕訳も変わります。ここでは土地を簿価より安く売却したケースを、実際に数字を当てはめてみていきましょう。
<土地を簿価より安く売却したケース>
簿価が500万円の土地が、購入当時より時価が下がり400万円で手放したとします。土地にかかる仲介手数料の計算式は売却額×3%+6万円なので、売却額が400万円だと仲介手数料は18万円(税込19万8,000円)です。またこのケースでは、手付金として売却額の10%である40万円を受け取ったこととします。
- 簿価500万円
- 売却額400万円
- 手付金40万円
- 仲介手数料18万円
上記の事例の仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定項目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 342万円 | 土地 | 500万円 |
前受金 | 40万円 | ||
支払手数料 | 18万円 | ||
固定資産税売却損 | 100万円 |
土地を簿価より高く売却
ここでは土地を簿価より高く売却したケースを、実際に数字を当てはめてみていきます。
土地を簿価より高く売却したケース
- 簿価500万円
- 売却額600万円
- 手付金60万円
- 仲介手数料24万円
上記の事例の仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定項目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 516万円 | 土地 | 500万円 |
前受金 | 60万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
支払手数料 | 24万円 |
建物ありの土地を簿価より安く売却
ここでは建物ありの土地を簿価より安く売却したケースを、実際に数字を当てはめてみていきます。
建物ありの土地を簿価より安く売却したケース
建物ありの土地があり、土地の簿価が500万円、建物の簿価が300万円だったとします。売却時は両方とも簿価よりも安くなり、土地の売却額が400万円、建物の売却額が100万円でした。また手付金は40万円、仲介手数料は21万円だったとします。
- 土地の簿価500万円
- 建物の簿価300万円
- 土地の売却額400万円
- 建物の売却額100万円
- 手付金40万円
- 仲介手数料21万円
- 建物部分の消費税10万円
上記の事例の仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 439万円 | 土地 | 500万円 |
支払手数料 | 21万円 | 建物 | 300万円 |
前受金 | 40万円 | 仮受消費税 | 10万円 |
固定資産売却損 | 100万円 | ||
固定資産売却損 | 200万円 |
建物ありの土地を簿価より高く売却
ここでは建物ありの土地を簿価より高く売却したケースを、実際に数字を当てはめてみていきます。
建物ありの土地を簿価より高く売却したケース
建物ありの土地があり、土地の簿価が500万円、建物の簿価が300万円だったとします。売却時は両方とも簿価よりも高くなり、土地の売却額が600万円、建物の売却額が400万円でした。また手付金は40万円、仲介手数料は21万円だったとします。
- 土地の簿価500万円
- 建物の簿価300万円
- 土地の売却額600万円
- 建物の売却額400万円
- 手付金100万円
- 仲介手数料36万円
- 建物部分の消費税40万円
上記の事例の仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 864万円 | 土地 | 500万円 |
支払手数料 | 36万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
前受金 | 100万円 | 建物 | 300万円 |
固定資産売却益 | 100万円 | ||
仮受消費税 | 40万円 |
土地の建物だけ簿価より安い売却
ここでは土地の建物だけ簿価より高く安く売却したケースを、実際に数字を当てはめてみていきます。
土地の建物だけ簿価より高く安く売却したケース
- 土地の簿価500万円
- 建物の簿価300万円
- 土地の売却額600万円
- 建物の売却額100万円
- 手付金70万円
- 仲介手数料27万円
- 建物部分の消費税10万円
上記の事例の仕訳をみてみましょう。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 603万円 | 土地 | 500万円 |
支払手数料 | 27万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
前受金 | 70万円 | 建物 | 300万円 |
固定資産売却損 | 200万円 | 仮受消費税 | 10万円 |
土地の売却の仕訳で困った時の相談先
土地の売却は一生のうちに何度もないでしょう。そのためわからないことも多く、誰かに相談したいと思うかもしれません。ここでは土地の売却に関する相談先について解説します。
住んでいる地域の最寄りの税務署
毎年確定申告をしている事業主でも、土地の売却は何度も行うものではありません。仕訳方法について相談したいこともあるでしょう。そのような場合は、税務署の個人課税部門(記帳指導担当)に相談するとよいです。無料で帳簿の付け方を指導してくれます。
しかし仕訳のような答えが決まっている形式的な質問なら税務署職員が答えられますが、経費として落とせるかなど判断が必要なことには対応しきれません。最終的な判断は、個人事業主が責任を持って行ってください。
また個人事業主になったばかりで会計処理自体が不慣れだという人は、税務署が開いている記帳説明会に参加するのもよいでしょう。記帳説明会では税務署作成の記帳に関する資料が配られるので、勉強になります。
しかし大々的に店舗を構えている人や、フリーランスを始めたばかりの人など確定申告のベテランから初心者まで集まっているため、講義の内容が直接自分とは関係ないことに及ぶことも多いようです。
土地の売却に詳しい税理士
税理士というと、多額のコンサルティング費用を支払って税に関して相談する専門家というイメージがあるかもしれません。確かに会社経営者や、多額の相続税を支払わなければならない人が利用することが多いでしょう。
しかし個人の確定申告や、経理・記帳業務においても税理士を頼ることができます。生活する上でさまざまな税金が関わっています。専門家によるアドバイスで、大きく節税できるかもしれません。
税理士をどのように見つけたらよいのかわからない場合は、土地の売却を依頼した不動産会社に、土地の売却に詳しい税理士を紹介してもらってもよいでしょう。
売却を依頼した不動産会社
税理士に依頼するのは費用的にも精神的にもハードルが高いというならば、土地の売却を依頼した不動産会社に尋ねてみてもよいかもしれません。知識があるエース級の担当者ならば、質問に答えてくれる可能性があります。
優良な不動産会社や知識のあるエース級の担当者と出会うためには、不動産会社選びが重要です。売却時に「家の近くだから」というような安易な選び方をせず、一括査定サービスサイトを使用するか複数の不動産会社に自ら足を運び、比較してから決定しましょう。
おすすめは、一括査定サービスサイトです。一度の情報入力で複数の不動産会社にアプローチできるため、手間と時間を節約できます。
例えばすまいステップは、イエウールを運営する上場企業の株式会社Speeeが運営しています。エース級の担当者が対応することを売りにしているだけでなく、厳選に審査された優良な不動産会社からのアプローチを受けられます。
やりとりをする中で不動産会社の対応力もみられるので、不動産選びの失敗を減らすことができるでしょう。
土地の売却で仕訳をする注意点
土地の売却の仕訳で、失敗しやすいポイントを押さえておくことは重要です。ここでは2つの注意点について解説します。
個人と法人で仕訳が変わる
不動産を売却した際の仕訳方法は、個人と法人で異なります。
個人が土地を売却した際には、目的が事業のためなら「固定資産売却損益勘定」で処理します。また個人事業主がプライベートな目的で売却した際には、「譲渡所得」扱いになるので仕訳の必要はありません。
これが法人になると、土地の売却金額は商売による売上の一部と考えられ、「売り上げ」や「減価の計算」で処理されます。また個人とは異なり、居住用の物件でも売却の際は課税対象となるので注意しましょう。
各種経費の領収書は紛失しない
土地の売却を確定申告する際、必要な書類が複数あります。またそれらの書類に添付する資料も多いので、土地売却に関わる書類や領収書は紛失しないようにまとめておきましょう。
土地の売却を確定申告する際に必要な書類は以下の通りです。
- 個人事業主用の確定申告書B様式
- 分離課税用の申告書
- 譲渡所得の内訳書
- 登記簿謄本
- 不動産取得時、売却時の資料(売買契約書など)
- 経費の領収書
個人事業主用の確定申告書B様式、分離課税用の申告書、譲渡所得の内訳書の3つは税務署、登記簿謄本は法務局で入手します。
また不動産取得時、売却時の資料に関しては、土地の売却時に受け取っているはずです。売買契約書は必須ではありませんが、添付していない場合問い合わせがくるかもしれません。あらかじめ添付しておいた方が無難でしょう。
経費の領収書とは、仲介手数料や登記費用、売却時の測量などにかかった費用の領収書です。紛失しがちであり、また再発行が難しいので、きちんと保管しておくことが重要です。
土地の売却価格に応じて仕訳をして、正確な帳簿で確定申告をしよう
土地の売却には、大きな金額が動きます。そのため仕訳を誤ったために、多額の税金を取られてしまうこともあります。土地の売却はそう何度もないかもしれませんが、仕訳に関する理解を深め、正確な帳簿で確定申告をしましょう。
例えば帳簿の日付を例に挙げれば、「売買契約を締結した日」を選択するか「実際の不動産引き渡し日」を選択するかで、税金の発生年度が異なることがあります。
もしも仕訳について疑問点や不安な点があるのなら、そのままにせず税務署や税理士、信頼置ける不動産会社の担当者などに相談してみてください。