離婚前には「土地や家屋を夫婦どちらのものとする?」「住宅ローンの支払いは誰がする?」「家には誰が住む?」など、夫婦で話し合うことがたくさんあります。
婚姻後に夫婦2人で築き上げてきた財産を、離婚するときには半分に分けます。これを財産分与といいます。現金なら簡単に2分の1に分けられますが、土地や家屋といった不動産は簡単に2つには分けられません。
持ち家がたとえ夫の名義でも結婚後に購入した家ならば、名義に関わらず共有財産として分与することが可能です。トラブルなく財産分与をするためにも、持ち家分与の方法について知っておきましょう。
この記事では、離婚時に持ち家を分与する際のポイント、持ち家を売却もしくは売却しない場合のメリットデメリット、離婚して持ち家を売却する際の流れ、売却時の注意点などを解説します。
持ち家がある夫婦が離婚する際に重要となるポイント
基本的に財産分与は夫婦で、2分の1に分けます。必ず半分にしなければならないわけではなく、お互い合意するならば自由に決められます。ここでは持ち家の分与方法において、重要となるポイントを解説します。
どのように財産を分与するか
財産分与の方法はいくつかあります。それぞれメリット・デメリットがあるので、夫婦で話し合って分与方法を決めましょう。また「家は夫の名義で建てた」という方がいるかもしれませんが、名義が誰になっているかは関係ありません。婚姻後の夫婦の共有財産として、持ち家は財産分与できます。
以下に4つの方法を紹介します。
「1人が家を所有する方法」では、家を所有しない側は現金で不動産の価値の半分を得ます。例えば家が3,000万円の価値なら、所有しない側が代償金として1,500万円得られます。
代償金を用意できない場合は家を「共有名義」にして、離婚後も2人で家を保有することができます。しかしこの場合「家を人に貸したい」「更地にしたい」「建て直したい」など、管理や処分をしたいときに相手の同意を得ないとできません。
「分筆」という方法もあります。分筆というのは、土地を2つに分けて所有することです。土地が小さくなるので「家を建てるには小さい」「形が悪い」などの問題が発生し、土地の価値が下がることがあります。
「家を売却して得た現金を2人で分ける方法」は夫婦2人とも現金を得られるので、わかりやすくトラブルも発生しにくい方法です。
夫婦で話し合い、いずれかの方法に決めましょう。
住宅ローンを誰が払うか
住宅ローンの返済義務があるのは、基本的に住宅ローンの名義人です。また住宅ローンは財産分与の対象にはならないので、夫が住宅ローンの名義人ならば妻は支払う必要がありません。
しかし負債ばかりを片方が背負うのはもめる原因となりますし、財産を2分の1にわけられていないともいえるでしょう。離婚前に夫婦で話し合い、支払額を決めるのが一般的です。通常は婚姻後に夫婦で築き上げた財産総額から、負債額を差し引いた残額を2人で折半します。
また家の名義人の変更は住宅ローンが完済していれば比較的容易ですが、住宅ローンの名義人や連帯保証人を変えることは難しい場合があります。
誰がその家に住むか
離婚の際に家を売却しないのならば、どちらが家に住み続けるのか決めなければなりません。住宅ローンの問題もあるので、いくつかのパターンが考えられます。
例を取り上げてみましょう。
1つは住宅ローン名義人が、ローンを払い続けながら住むというものです。夫が名義人で住み続けて妻が家を出て行くパターンでは、夫が持ち家を財産分与としてもらい受けた形になります。
しかし住宅ローンの連帯保証人として妻もローンの負担をしていた場合、金融機関に対する責任を免れないので注意が必要です。
また夫が住宅ローンを支払って、妻子が家に住み続けることも考えられます。これは妻が持ち家を財産分与として受け取り、夫が住宅ローンを養育費の代わりに支払うケースです。この場合、夫の住宅ローンの支払いが滞り、いつ家が差し押さえられるかわからない不安がつきまといます。
持ち家に誰が住むかという問題は、家庭によってさまざまなケースが考えられます。住宅ローンの名義人と家に住む人が異なる場合、住宅ローンが返済できなくなったときに問題が発生する場合があります。夫婦でしっかりと話し合いましょう。
誰の名義にするか
家を建てたときに共有名義にしているのならば、離婚時に名義を変更することがあります。なぜなら共有名義のままにしていた場合、家の売却、建て直し、人に貸したい場合などにもう1人の承諾が必要になるからです。可能ならば、財産分与のタイミングで名義変更をするとよいでしょう。
住宅ローンが完済している場合、手続きは比較的簡単に済みます。しかし住宅ローンが残っている場合、金融機関が家の名義変更を認めてくれないことがあります。持ち家の名義変更に金融機関の承諾書が必要なわけではありませんが、金融機関の承諾を得ずに名義変更をした場合、住宅ローンの一括返済を迫られる危険性があるので注意してください。
離婚で持ち家を売却するメリットとデメリット?
持ち家を売却した際に、どのような問題点が起きるのか知っておくことは重要です。ここではメリットとデメリットについて解説します。
財産分与がしやすい
多くの場合、不動産は夫婦の共同財産の中で最も高額な資産です。どちらが所有するか、住宅ローンを誰が支払うのか、悩みは尽きずトラブルの元にもなりかねません。
最も簡単な方法は、売却して得た現金を住宅ローン完済に充て、残ったものを2人で分けるというものです。マイホームを手放すことで、住宅ローン残債を完済できるだけではなく、「家をどちらの名義にするか」「ローンの返済はどちらが担当するか」といった問題や、それに関わる手続きや手間をなくすことができます。
家の売却は、財産分与しやすい簡単な方法だといえるでしょう。
住宅ローンの残高を支払わなくて済む
例えば妻子が家に住み続け、夫に住宅ローンの支払い義務がある場合、いつ夫が住宅ローンを滞納して家が差し押さえられるかわからない不安が妻子にはつきまといます。また住宅ローンを支払う側も、自分が住んでいない家のローンを支払い続けることを、負担に感じるかもしれません。
もしも持ち家を売却して現金を分けるならば、住宅ローンに関して将来起こりうる不安を解消できます。また住宅ローン残債を完済しても手元に現金が残るようならば、新生活準備のための資金として使えるでしょう。
それぞれが新しい住まいを見つけなくてはいけない
家を売却する大きなデメリットは、住む家がなくなることです。それぞれが新しい家を探すところから始めなければなりません。
また引越しには、下記のようなさまざまな費用がかかります。
- 不動産会社に支払う敷金、礼金、仲介手数料など
- 引越しの費用(引越し業者やレンタカー代など)
- 家具や家電などの生活必需品購入代
賃貸物件の初期費用の相場は、敷金や礼金でそれぞれ家賃の1カ月分、仲介手数料は家賃0.5カ月から1カ月分+消費税です。それだけでも数十万円の負担になるかもしれません。
主婦(夫)のように仕事をしてこなかった人にとっては、離婚後の引越しに関わる費用はかなりの負担になるでしょう。
資金が少ないと二人で分ける財産が減る
家を売却しようと思ったら、住宅ローンの完済が必須です。売却して得た現金を住宅ローン完済に充てられればよいですが、オーバーローンといって売却費よりも住宅ローンの返済費用が上回ってしまう場合は、足りない分を自己資金で補わなければなりません。
財産分与をする財産が減るだけではなく、場合によっては他の金融機関からお金を借りて住宅ローン完済をする必要があります。
売却を決める前に、オーバーローンにならないか確認しておきましょう。
離婚で持ち家を売却しないメリットとデメリット
家を保持することで、人に家を貸し出して収入を得ることも可能です。また逆に維持費がかかったり、児童手当を得られない場合もあります。ここでは家を売却しないメリット・デメリットをみていきます。
妻子が安心して生活できる
夫婦に子どもがいる場合、家を売却してしまうと子育て環境が大きく変わります。引越しで家が変わるだけではなく、もしかしたら学区が変わり転校することもあるでしょう。
家を売却せずその家に住んでいれば、離婚をしてもほぼ今までと変わらない生活を送れます。しかし家に住む人と住宅ローンの名義人が異なる場合、住宅ローン滞納の不安が尽きません。家が競売にかけられる可能性もあります。
一番よいのは住宅ローンを離婚前に一括返済して、家の名義人も変更してしまうことです。それが難しいのならば、養育費の代わりに住宅ローンの支払いをする、住宅ローン完済後には家の名義変更も行う、などあらかじめ詳細を決めておくとよいでしょう。
貸し出して収入が得られる
不動産はうまく運用できれば、利益を得られます。繰り上げ返済によるローン完済が可能ならば、家を貸し出して収入を得られるかもしれません。住宅ローンの残高が少ないならば、一度不動産運用を考えてみてもよいでしょう。
また住宅ローンが残っていても、貸し出せる方法があります。一つは金融機関の承諾を得ることで、もう一つは不動産担保ローンに変更することです。
しかし不動産運用は、容易ではありません。一度人に貸し出したら立ち退きを頼みづらいですし、経年劣化による修繕を行う必要もあります。入居者が見つからず維持費ばかりかかるかもしれませんし、入居者が賃料を滞納する可能性もあります。
家を貸し出す予定ならば、それに付随する手間や時間、赤字になる可能性も考慮しましょう。
維持費がかかる
戸建てかマンションかに関わらず、持ち家は維持費がかかります。毎年かかる固定資産税の他に、保険料、建物の経年劣化によって生じるメンテナンスや修繕費用などがあります。
毎年かかる税金は気にかけていても、10年後、30年後の修繕費の積み立てまで気にかけていない方が多くいます。しかし屋根の漆喰工事や壁の塗り直しなど、足場を組むような大がかりな修繕工事をした場合、一度に数十万円の費用がかかります。
また住宅ローン控除の規定には、住宅ローンを受ける住居に住んでいなければならない旨が記されています。妻子が離婚後も引き続き家に住み、ローンの名義が夫の場合、住宅ローン控除が受けられないので注意しましょう。
児童扶養手当がもらえない
離婚して一人親世帯になると、要件に当てはまれば「児童扶養手当」が国から支給されます。子どもが1人の場合の支給額は全額支給された場合43,160円で、子どもが増えるごとに1人10,190円ずつ加算されます。
子どもが高校を卒業する(障害がある場合は20歳)まで支給されるので、大変助かる制度です。また混同されやすい「児童手当」とは別の制度なので、児童手当をもらっていても受け取ることが可能です。
しかし離婚後も持ち家に住む場合は、注意しなければなりません。児童扶養手当には所得制限があります。これは所得であって収入ではないので、離婚した夫から住宅ローンや家賃の支払いといったすまいに関する援助を受けているとそれも所得として計算されます。
例えば月々9万円のすまいに関する援助を受けていた場合は年間108万円になるので、児童扶養手当の所得制限を超えてしまう可能性があります。
参考資料:厚生労働省
持ち家を売却して離婚する時の流れ
持ち家を売却すると決めたら、売却の準備を始めましょう。ここでは離婚するときの持ち家の売却方法について解説します。
持ち家の名義を確認する
不動産を所得するときに、夫婦どちらかもしくは共同の名前で名義を登録しています。結婚前にどちらかが所有していた不動産ならば財産分与の対象にはなりませんが、婚姻後協力して取得した不動産ならば名義にかかわらず財産分与の対象になります。
名義は法務局で取得可能な、登記簿謄本(登記事項証明書)で確認できます。特に必要な持ち物はありません。しかし土地の地番や建物なら家屋番号がわかるような不動産情報があると、手続きがスムーズでしょう。
また登記簿謄本を取得する際に、1通600円の手数料がかかります。
住宅ローンの名義を確認する
住宅ローンが残っている場合は、離婚後に誰がローンを支払い続けるか問題になります。家も住宅ローンも夫名義で夫が住み続ける場合はよいですが、住み続けるのが名義人と異なる場合は「ローンの返済をどうするか」「名義をどうするか」といった話し合いをする必要があります。
住宅ローンの名義は、ローン契約書で確認できます。まずは現状を確認するところから始めてください。
財産分与の仕方を選ぶ
持ち家をどのように夫婦でわけるのか、離婚前に決めなければなりません。主な選択肢には以下の4つの方法があります。
- 1人が家を所得し、もう1人に代償金を支払う
- 家を共有名義にする
- 分筆する
- 家を売却して、売却額を分ける
もしも家を売却することに決めたら、少しでも高く売るために複数の不動産会社に査定依頼をしてください。不動産会社に足を運ぶのが面倒ならば、インターネットの無料一括査定サイトで依頼をするとよいです。
すまいステップは、厳選した100社以上の不動産会社と提携しています。2分から3分の簡単な情報入力だけで、その中から最大4社の査定結果を得られます。興味があるのならば、気軽に依頼してみましょう。
公正証書を作成する
口約束をした場合、後で「言った」「言わなかった」でもめることがあります。後々のトラブルを避けるためにも、財産分与について協議した内容は公正証書に残しましょう。
公正証書というのは、法務大臣が任命する公証人が作成した公式な証書で、国内約300カ所にある公証役場で作成できます。この公正証書を作成しておけば、裁判になった際もトラブルなく立証可能です。
また原本は公証役場で保存してくれるため、紛失や盗難などでなくす心配もありません。
持ち家を売却する
離婚が原因かどうかに関わらず、持ち家の売却は一般的な流れです。売却までのステップは以下の通りです。
- 不動産会社に査定を依頼する
- 不動産会社を決定
- 媒介契約を結ぶ
- 販売活動開始
- 売買契約を締結
- 契約後の引き渡しと決済
- 確定申告
時間がかかっても少しでも高く売却したい場合には、複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。不動産業者選びは、無料一括査定サイトが便利です。大手企業のサイトの方が安心できるのなら、上場企業の株式会社Speeeが提供しているすまいステップがおすすめです。
また売却額が少なくても早く財産分与をしたい場合は、不動産仲介ではなく直接不動産会社が物件を買い取る不動産買取を検討してもよいかもしれません。
財産分与をおこなう
家の売却額が手元に入ったら、夫婦で現金を分けます。これを財産分与といいます。財産分与は基本的に夫婦で2分の1ずつ分けるので、持ち家を売却して1,000万円の現金が手に入れば、夫婦で500万円ずつ分けます。しかし合意があればその比率を変えられるので、話し合いで全額得ることも可能です。
口約束だけだとトラブルがおきやすいので、財産分与の比率を変える場合には公正証書に記録しておくとよいでしょう。
また財産分与の時期は、共有名義の家ではないなら離婚後がおすすめです。離婚前に財産分与をしてしまうと、財産分与ではなく「贈与」とみなされ贈与税の課税対象となるので注意が必要です。
持ち家離婚をするときの注意点
持ち家を売却する際には、いくつかの注意点があります。住宅ローンや名義変更などについて解説します。
売却する場合はローン残高がキーポイントになる
アンダーローンの場合は、不動産の売却額を住宅ローンの完済のためにあてることが可能です。しかし問題は、売却額をあててもローンが完済できないオーバーローンです。
住宅ローンが残っていると、そもそも不動産を売却できません。他の金融機関でお金を借りて住宅ローンの完済にあてるか、自己資金を使うことになります。
財産分与の取り分も減ってしまうので、オーバーローンの場合は本当に持ち家を売却した方がよいのかもう一度検討してみましょう。
住宅ローンが残っている間は名義変更ができない
住宅ローンが残っていると、家の名義変更ができません。そのため妻や子が持ち家に住み続ける場合、離婚後も住宅ローンと家の名義が元夫という状況になります。
安心して住むために名義変更をしたいならば、妻が新たに住宅ローンを借り入れて、夫名義の住宅ローンを完済する「住宅ローンの借り換え」がよいです。夫のローンを返済後に、妻の名義に変更して妻がローンを支払えるようになります。
または持ち家を不動産に売却するものの、その後は賃貸として住み続けるというリースバックを検討してもよいかもしれません。
有利な条件で離婚するためには弁護士に相談する
財産分与がうまく進めばよいですが、協議がうまくいかずに諍いになることがあります。持ち家に住み続ける代わりに、養育費の減額を提案されることもあるでしょう。
夫婦間の話しあいがうまく進んでいないと感じたら、条件よく離婚するためにも弁護士に相談した方がよい場合があります。
弁護士にも得意な分野があるため、相談するならば財産分与に強い弁護士に相談しましょう。
持ち家を売却すれば財産分与がしやすい
持ち家を財産分与する際、「住宅ローンは誰が支払うか」「名義はどうするか」「誰が住み続けるのか」など話し合わなければならないことがたくさんあります。協議をしているうちに話が進まず、弁護士が介入することもあるかもしれません。
持ち家を財産分与する簡単な方法の1つが、持ち家の売却です。現金化することで夫婦で半分ずつにしやすいからです。もしも少しでも高い売却額を目指すなら仲介で、早く処分してしまいたいのなら買取で売却するとよいです。
売却額には不動産会社の選択も大きく関わります。優良な不動産会社を選択するために、無料一括査定サイトを活用して、複数の不動産会社に査定してもらいましょう。