不動産にかかる税金の中でも、アパートなどの賃貸経営にかかる事業用不動産においては、特に売却時にかかる税金は重要です。
何故かと言えば、事業用不動産を購入する目的は、自宅などの居住用不動産を購入する時とは違い、利益を得る為だからです。
その利益は大きく分けると賃料収入などによる「インカムゲイン」と売却時に得る転売利益「キャピタルゲイン」の2つがあります。
特にキャピタルゲインで得る利益は場合によっては数千万円から数億円と言う桁になる事もありうるものです。
せっかく、大きく利益を出せたはずなのに、手元に残った金額はわずかだった、、、なんて事にならない為にも、知識をもって戦略的な不動産運用・購入・売却を行いたいものです。
不動産の税金
まずは、不動産にかかる税金の概要について見ていきます。
大きく分けると、自宅などの居住用不動産と賃貸経営のアパートやマンションなどの事業用不動産に分けられます。そして、それぞれに取得時にかかる税金と所有時、売却時にかかる税金があります。
居住用不動産と事業用不動産、それぞれ共通しています。
取得時 | 登録免許税(登記費用)、不動産取得税、印紙税 |
所有時 | 固定資産税、不動産所得(事業用の場合) |
売却時 | 登録免許税(抵当権等抹消費用など)、印紙税、譲渡所得税 |
「なんだ、同じじゃないか」と思われますが、注意が必要です。
それは、売却時の譲渡所得税です。居住用と賃貸事業用で中身が違います。
また、アパートなどの賃貸事業用不動産は所有時の賃料収入等を不動産所得として毎年確定申告する必要があります。
次節以降、アパートなどの賃貸事業用不動産の税金の中でも特に注意が必要な譲渡所得税を中心に見ていきます。
不動産売却で消費税はかかる?個人・法人ごとに課税対象となるケースを紹介
アパートの税金
前節で不動産にかかる税金の中で、居住用不動産と違う2つの税金は不動産所得と不動産譲渡所得にかかる税金と述べました。どの様に違うのでしょうか?
個人に係る所得税の課税方法は、「総合課税」と「分離課税」の2種類の方法があります。
総合課税は「給与所得」「不動産所得」「事業所得」などのように、10種類の所得があり、賃料収入にかかる所得は「不動産所得」に分類され、他の所得と合算されて課税されます。
例えば、給与所得と不動産所得は合算されるので、会社からの給与所得が500万円で不動産所得で赤字が500万円だった場合、合計は0円となり、税金は発生しません。これを「損益通算」と言います。
そしてもう一つの課税対象が「譲渡所得」という所得になります。
不動産の譲渡所得は「分離課税」とされ、他の所得と合算されません。そのため不動産所得がマイナスでも譲渡所得がプラスであれば、損益通算されることはなく、譲渡所得に対しては税金が発生します。
次節では、譲渡所得税について詳しく中身を見ていきたいと思います。
アパートを売却した際にかかる税金
譲渡所得税の特徴と申告時期
他の所得と損益通算出来ない。
譲渡所得税は、譲渡損失が発生する場合は課税されません。
その譲渡損失は、同年中に売却した他の不動産の譲渡益と損益通算することは可能ですが、給与所得などの他の所得と損益通算することはできません。
居住用不動産の特例は利用できない。
自己が居住していた不動産の売却ではないので、譲渡益が出た場合のマイホームの3つの特例は利用できません。
・10年超所有軽減税率の特例
・特定居住用財産の買換え特例
翌年の3月15日までに確定申告を行う。
アパートを譲渡した場合において、売却益が生じた場合には、譲渡した日の属する年の翌年において、所得税の確定申告をする必要があります。
例えば、アパートを平成30年11月30日に譲渡し、売却益が100万円の場合には、平成31年2月18日~3月15日の間に確定申告をしなければなりません。
アパートを譲渡した日とは、原則として、売買など譲渡契約に基づいて資産を買主などに引渡した日をいいます。売買契約などの効力発生の日に、譲渡があったものとして確定申告することもできます。
譲渡所得税計算式
譲渡価格
アパートを売却したときの売買価格の事です。基本的には、買主から譲渡の対価として受取る金銭の額を言います。また、売買価格のほかに固定資産税の精算金が含まれますのでご注意ください。
取得費
1.売却した土地や建物の購入代金、建築代金、購入時の仲介手数料
2.アパート・賃貸マンションの設備費や改良費
他には、事業所得などの必要経費に算入されていなければ、下記のものも含まれます。
- 借主がいる土地や建物を購入するときに、借主に支払った立退料
- 土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
- 土地の取得に際して支払った土地の測量費
- 当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
※賃貸物件の場合には、購入時の登記費用や不動産取得税は、すでに必要経費とされているため取得費にはなりません。
※相続などで取得した先祖代々の土地などのように取得費がわからない場合や、取得費が売却代金の5%未満の場合には、「売却代金×5%」を取得費とすることも可能です。
※建物の取得費は購入代金または建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造 | 22年 | 0.046% |
軽量鉄骨 | 27年 | 0.038% |
鉄筋コンクリート | 47年 | 0.022% |
譲渡費用
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 売却の為に借家人に家屋を明け渡してもらう時に支払った立退料
- 土地として売却する為にその上の建物を取り壊したときの取壊し費用、測量費用
- 既に売買契約を締結している不動産を更に有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
※修繕費や固定資産税などその資産の維持や管理のためにかかった費用、売った代金の取立てのための費用などは譲渡費用の対象外となります。
税率
短期譲渡所得:譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下の場合 | 長期譲渡所得:譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超える場合 |
---|---|
1.所得税 :30% 2.復興特別所得税:0.63% 3.住民税 :9% 4.合計 :39.63% | 1.所得税 :15% 2.復興特別所得税:0.315% 3.住民税 :5% 4.合計 :20.315% |
相続や贈与で不動産を取得された場合には、相続時や贈与時から計算するのではなく、元の所有者が取得したときから計算して5年超かどうかを判定します。
不動産売却にかかる税金とは?計算方法・支払時期・節税方法を詳しく解説
特例控除
- 公共事業などのために土地建物を売った場合の5,000万円の特例控除
- 特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特例控除
- 特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特例控除
- 平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特例控除
- 農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特例控除
消費税
そして、忘れていけないのが消費税です。ついつい個人だと対象外だと思いがちですが、アパートの売買においては消費税がかかります。
ただし、2年前の消費税が課税対象の収入が、1,000万円以下の場合には、消費税の納税が免除されますので、売却代金にいくら消費税が含まれていても、納税する必要はありません。
課税対象となるのは、事業用不動産の売買取引においての建物部分です。土地は非課税です。
勘違いしやすいのは、「居住用不動産でも係る場合があるのでは?」と言う事ですが、それは、売主が事業者であった場合です。個人が売主の居住用不動産の売買においては課税対象外となります。
アパートを売却する際の消費税額の設定や売買価格の内訳は、仲介業者を通して買主や税理士に相談するか、管轄の税務署に尋ねてみても良いでしょう。
一般的には、固定資産評価証明書に記載されている土地と建物の評価額からその内訳比率を算出して、その比率を実際の取引額に適用するケースが多いようです。
特例
アパートを売却した場合に利用できる特例として、「特定事業用資産の買換え特例」があります。
国税庁のホームページでの説明によると、以下のように記載されています。
個人が、事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に特定の地域内にある土地建物等の特定の資産(買換資産)を取得し、その取得の日から1年以内に買換資産を事業用に提供したときは、一定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができます。(譲渡益が非課税となるわけではありません。)
この特例を受けると、売った金額(譲渡価額)より買い換えた金額(取得価額)の方が多いときは、売った金額に20%の割合(以下、この乗ずる割合を「課税割合」といいます。)
売った金額より買い換えた金額の方が少ないときは、その差額と買い換えた金額に課税割合を掛けた額との合計額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。
特例を受けるための条件は以下の通りです。中には個別要件をあるため、詳細は国税庁のホームページを参照にしてみてください。
- 売却する不動産と購入する不動産は、ともに事業用であること
- 売却する年の1月1日において、不動産の所有期間が10年を超えていること
- 不動産を売却した前年から翌年の間に、不動産を購入すること
- 購入した不動産は、買った日から1年以内に事業に使うこと
計算式
譲渡所得=譲渡収入金額(譲渡代金<買い替え代金の場合)
取得費・譲渡費用
譲渡所得=譲渡収入金額(譲渡代金>買い替え代金の場合)
取得費・譲渡費用
となります。
「特定事業用資産の買換え特例」は、事業用不動産を売却して、一定期間内に一定要件を満たす別の事業用不動産を購入する買い替えを行うと、譲渡所得にかかる税金の最大80%程度を将来に繰延べることができる制度と言えます。
上手な税制活用
ここまで、アパート売却にかかる税金体系や特例等について見てきました。その中で特筆すべき税制対策になりうるものについて見ていきましょう。
特例控除を利用する
アパートの売却にかかる譲渡税については、居住用不動産のような特例はないと述べましたが、利用できるものも確かにあります。それが、3.4の特例控除一覧の(4)平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特例控除です。
アパート売却で利用できる特例控除は主に収用に係るものですが、こちらの控除については、比較的該当する方もいらっしゃると思います。
下記に特例を受ける為の要件を記載致しましたので、該当する方は積極的に利用しましょう。
- 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に土地等を取得すること
- 平成21年に取得した土地等は平成27年以降に譲渡すること。また、平成22年に取得した土地等は平成28年 以降に譲渡すること
- 親子や夫婦など特別な間柄にある者から取得した土地等ではないこと。(特別な間柄には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれる)
- 相続、遺贈、贈与、交換、代物弁済及び所有権移転外リース取引により取得した土地等ではないこと
- 譲渡した土地等について、収用等の場合の特例控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど他の譲渡所得の特例を受けないこと
事業用不動産の買替特例を利用する
この制度は、前節で述べたような税額控除や税額免除ではなく、あくまでも課税の繰り延べですが、利用される方、利用する物件次第では有効な税制です。ご自身の不動産投資スタイルに合わせて取り組むと良いのではないでしょうか?
売却損になる資産と合わせて損益通算する
この制度も、他の所得とは損益通算出来ませんし、他の年へ繰り越しも出来ません。但し、今後も売却益が見込めない資産(物件)であれば、大幅な売却益が出た年に同じタイミングで売却し、損益通算する事が可能です。こちらも積極的に検討してみましょう。
法人を設立する
ここまでお話をしてきましたのは、あくまでも個人がアパートを売却した際のお話です。サラリーマン大家さんなら当然だと言う声が聞こえてきそうですが、一度振り返ってみましょう。
短期譲渡税率、結構たかいな、と思われた方も少なくないはずです。でも、税金じゃ仕方ないんじゃないかと言うと、そうとも言い切れません。下記の法人税率表をご覧ください。
資本規模 | 所得金額 | 税率 |
---|---|---|
1億円超 | 800万円超 | 23.2% |
1億円以下 | 800万円以下 | 15.0% |
赤字企業の場合 | 0円 | 0% |
個人の譲渡税率に比べ、税率が半分以下、なんて場合もありますよね。特に短期(5年以下)で売却をお考えの方には断然メリットがありそうです。
しかも、他の所得と損益通算できます。賃料収入で得た不動産所得とその年に売却して得た利益を合算して上記の税率が掛けられます。
ただし、短期間に複数回の取引を繰り返すと宅建業免許が必要になってきますので注意が必要です。それでもメリットを感じる方は、検討しても良いでしょう。
短期でも高く売って税金を払った方がよいのか、それとも、値下がりのリスクが残っても長く保有して長期譲渡になってから売却した方がよいのか、どちらの方が手取りが多く残るか判断が必要です。
法人においては、その税率の低さと他の所得や経費と損益通算できるところが大きなメリット・魅力です。
税制の枠組みを知って、上手な対策
これまでに、不動産に係る様々な税制について見てきて、最後には法人設立の話まで触れました。やはり、知っているのと知らないのでは大違いです。特に日本の法律、税金・税務関係において知っておいて損はないはずです。この不動産にかかる税金を知る事で、是非、有効な対策を行っていってください。