夫婦で共同で購入したマイホームや、きょうだいと一緒に相続した不動産など、他の人と共有状態の不動産は、普通に売れるのだろうかと、心配な方もいらっしゃるでしょう。
共有名義の不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。
共有者のうち1人でも売却に同意しない場合は、不動産全体を売却することはできないという特徴があります。
この記事では共有名義の不動産を売却する際の注意点やよくあるトラブルへの対象方法を紹介します。
この記事を読んでわかること
- そもそも共有名義とは
- 共有名義の不動産の売却方法
- 売却方法ごとの手順
- 共有名義が原因で起こり得るトラブル
相続した不動産の売却にかかる税金を知りたい方は、あわせてこちらもご覧ください。



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート
そもそも共有名義とは?不動産の売却のための基礎知識
共有名義とは、不動産の所有権を複数人で共有している状態です。
ここでは、以下の4つのポイントを解説します。
共有名義と単独名義の違い
「共有名義」が複数人で不動産を共有しているのに対し、「単独名義」は個人で不動産の権利を全て所有している状態です。
なお、「土地の所有者が父親、建物の所有者が子ども」という場合は共有名義とは言いません。
あくまでも、1つの不動産の所有者が複数いる状態が、共有名義です。
単独名義の場合、個人の意思で自由に売却ができます。不動産の権利の全てを、1人で所有しているからです。
しかし、共有名義の場合、共有者全員の同意がなければ不動産は売却できません。
また売却以外にも、共有者1人の意思では行えず、他の共有者の同意がないとできないことがあります。
共有名義と共有持分の関係
共有名義は、前述の通り、1つの不動産を複数人で共有所有している「状態」そのものを指すのに対し、共有持分とは、共有名義の不動産に対して、各所有者が持っている「権利の割合」のことです。
例えば、3,000万円の不動産を兄弟2人で均等に出資して購入した場合、兄弟それぞれの共有持分は「2分の1」ずつとなります。この持分割合は、不動産の売却代金を分配する際や、固定資産税を負担する際の基準となります。
イメージとしては、「1つの大きなピザ(不動産)を複数人で持っている状態が『共有名義』で、各自が食べられる分け前が『共有持分』」と考えると分かりやすいでしょう。
共有持分割合とは
共有者が共有不動産について有している権利を「共有持分」といいます。
「共有持分割合」とは、複数人で共有している不動産の、権利を有している割合のことです。
持分割合は、基本的には、不動産を取得した時に出資した金額の割合に応じます。
遺言書によらない相続で取得した場合は、法定相続分の割合で持分が分割されます。
売却や補修、解体など、共有不動産についてかかる費用は、通常、持分割合に応じて負担します。
また、売却によって得た利益も、持分割合に応じて分配します。
不動産が共有名義になる主なケース
ケース1:夫婦や親子での共同購入
マイホームを購入する際に、夫婦がそれぞれ資金を出し合ったり、ペアローンを組んだりして、出資額に応じた持分で登記するケースです。親子で資金を出し合って二世帯住宅を建てる場合もこれに該当します。
ケース2:相続
最も多いのがこのケースです。親が亡くなり、遺産である実家を複数の子供(兄弟姉妹)が共同で相続する場合、遺産分割協議の結果、「兄弟で2分の1ずつ」のように共有名義で登記することがあります。
ケース3:共同での投資
親しい友人同士や投資家仲間が、共同で資金を出し合って投資用マンションやアパートを1棟購入し、共有名義で登記するケースも考えられます。
共有名義人ができること・できないこと
不動産の共有名義人は、不動産を個人の意思のみで売却することはできません。
ただし、共有持分の売却は、他の共有者の同意なしに行えます。
しかし、建物のリフォームや解体については、他の共有者の同意が必要です。
つまり、不動産の売却について合意できても、建物を取り壊してから売却するのかどうかなど、同意を得なければならないことが他にもあるのです。
共有名義人が1人でできること・できないことの例
- 1人の意思で可能
- 建物の補修(壁紙の張替えや外壁の修理など)
- 持分の売却
- 過半数(※)の同意が必要
- 賃貸に出すこと
- リフォーム・リノベーション
- 全員の同意が必要
- 売却すること
- 建物の解体・建て替え
- 増改築など
※過半数……持分割合における過半数



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート
共有名義の不動産の売却方法
共有名義の不動産の売却方法は、以下の通りです。
共有名義の不動産の売却方法
- 共有者全員の同意を得て売却する方法
- 自分の持分のみを売却する方法
- 共有物分割請求する
それぞれどのような人におすすめかをフローチャートにまとめました。ぜひご活用ください。
1つずつ詳しく見ていきましょう。
共有者全員の同意を得て売却する方法
共有者全員の同意を得て、不動産を売却する方法です。
▼全員が売主となって売却する
全員が売主となって売却する場合、売却に関する契約には共有者全員が立ち会うか、立ち会えない共有者は「委任状」を作成する必要があります。
また、買主から代金を受け取ったら、持分割合に応じて、経費を差し引いた金額を分配します。
利益(譲渡所得)が出た場合は、共有者全員がそれぞれ確定申告をする必要があります。
査定を受ける時には、複数の不動産会社に依頼するのが高値で売るコツです。
すまいステップの一括査定なら、家に居ながら最大4社に査定の依頼ができます。



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート



一括査定であなたの家の適正価格が分かる
今の価格が届く!





無料診断スタート
相続した不動産を売却する流れ | 税金・注意点まで完全解説!
▼リースバックを利用する
他の共有者が共有不動産に居住していることが原因で、売却の同意がなかなか得られない場合もあるかもしれません。
そういった時には、リースバックを利用するという方法もあります。
リースバックとは
同じ家に住み続けながら、まとまった現金を手元に得られるメリットがあります。
ただし住宅ローンの残債が残っている場合は、売却価格が残債の金額を上回らなければ、リースバックは利用できません。
自分の持分のみを売却する方法
不動産の売却について、共有者の同意が得られない場合には、持分の売却を検討することがあるかもしれません。
しかし一般の買主は、わざわざ不動産の持分を購入して、他人と共有状態になることを選びません。
そのため、一般的な不動産売買を扱う会社に持分の売却を依頼することは難しいのが実情です。
▼持分を他の共有者に売却する
他の共有者が不動産の売却を望まない場合には、自分の持分を他の共有者に売却するという手があります。
他の共有者は持分割合を高めることができるため、不動産を所有し続けたい人にとっては悪い話ではないでしょう。
持分を売却した場合は、譲渡所得税かかる可能性があるため、注意が必要です。
(贈与の場合でも、贈与税が課される可能性があります。)
▼持分割合に応じて分筆して売却する
共有名義の不動産が広い土地の場合は、共有持分に応じて土地を分筆することで、分けられた土地を単独名義で所有できます。
分筆とは、1つの土地を複数に分割して、新たな境界を設けて登記をすることです。
分割された土地には、それぞれ新たに住所と名義人を登録されます。
単独名義の土地になれば、土地を自由に売却できるようになります。他の人に許可を得る必要はありません。
分筆は、土地家屋調査士に依頼して実施します。
分筆した土地が売却に十分な広さ・形状になるかどうかは素人には判断しづらいため、売却を考えている場合は、まずは不動産会社へ相談してみましょう。
▼持分を専門業者に売却する
不動産会社の中には、「共有持分の買取」の専門業者が存在します。
持分買取の専門業者であれば、持分のみを売却できます。ただし、買取金額は本来の評価額よりも大幅に低くなりがちです。
そのため他の共有者は不動産の売却を自由にできなくなったり、業者に強引に売却を迫られたりする可能性があります。
このため、自分の持分のみを売却すると、他の共有者とトラブルになる可能性が高く、まずは他の手段での売却を検討するのをオススメします。
共有物分割請求をする
他の共有者との話し合いがうまくいかない、取り合ってもらえないという時、裁判所を通じて共有状態の解消を求めるという手段を取ることもできます。
これを「共有物分割請求」といいます。
共有不動産の場合、以下の2通りの方法での解決が図られます。
方法 | 内容 |
---|---|
全面的価格賠償 | 1人が共有物を取得し、他の共有者には金銭を支払うことで精算する |
代金分割 | 共有物を売却し、代金を共有者で分ける |
代金分割の場合、係争の状況によっては、競売を命じる判決が出されることもあります。
競売を嫌って途中で和解に至るケースもありますが、いずれにせよ売却を強制させることが可能になります。
ただし、訴訟の費用がかかります。また、解決までに半年から1年程の期間がかかります。
共有物分割請求は、持分割合に関係なく、全ての共有者が訴える権利を持っています。
訴訟を検討する場合は、まずは弁護士に相談しましょう。
共有名義の不動産を売却する手順
前章で解説した、
- 共有者全員で不動産全体を売却
- 自分の持分のみを売却
- 共有物分割請求をする
それぞれの手順について解説します。
共有者全員で不動産全体を売却する場合
1:共有者全員で売却方針の合意形成を行う
最も重要なステップです。まず、共有者全員で「売却する」という意思を固めます。その上で、売却希望価格、売却の時期、諸経費の負担割合、売却代金の分配方法(原則は持分割合に応じる)について具体的に話し合い、全員の合意を得ます。後のトラブルを防ぐため、合意内容をまとめた合意書を作成しておくと万全です。
2:不動産会社を選定し、査定を依頼する
全員が納得できる不動産会社を選ぶため、複数の会社に査定を依頼し、査定価格や販売戦略を比較検討します。どの会社に依頼するかについても、全員の合意が必要です。
3:不動産会社と媒介契約を締結する
売却を依頼する不動産会社が決まったら、媒介契約を締結します。この契約書には、共有者全員の署名・捺印が必要です。
4:売買契約を締結する
購入希望者が見つかったら、売買契約を締結します。この際も、原則として共有者全員が立ち会い、実印を捺印します。立ち会えない共有者がいる場合は、他の共有者などを代理人とする委任状が別途必要になります。
5:決済・引き渡し
買主から売買代金の残りを受け取り、不動産の所有権を移転します。この手続きにも共有者全員の協力が必要で、権利証(または登記識別情報通知)、3ヶ月以内に発行された印鑑証明書など、必要書類を全員分揃えなければなりません。
6:売却代金と諸経費の精算
売却代金から仲介手数料や印紙税などの諸経費を差し引き、残った金額をあらかじめ決めておいた持分割合に応じて各共有者に分配します。
自分の持分のみを売却する場合
この場合、「他の共有者に売却する時」と「第三者(専門の買取業者)に売却する時」で手順が変わってきます。
他の共有者に売却する手順
1:共有者間で価格や条件を交渉・合意する
まずは、あなたの持分を買い取ってほしい他の共有者と、売却価格や支払い時期について交渉し、合意を目指します。価格の目安として、不動産会社に不動産全体の査定を依頼し、その価格に自分の持分割合を掛けて算出するのが一般的です。
2:持分売買契約書を作成する
個人間の取引であっても、必ず持分売買契約書を作成します。後のトラブルを防ぐため、司法書士などの専門家に作成を依頼するのが安全です。
3:代金の決済と所有権移転登記
買主となる共有者から代金を受け取ると同時に、司法書士に依頼して法務局で所有権持分移転登記を行います。この登記が完了すると、法的にあなたの持分が相手に移転し、手続きは完了です。
第三者(専門の買取業者)に売却する手順
1:専門の買取業者に査定を依頼する
共有持分を専門に買い取っている不動産業者に連絡し、査定を依頼します。複数の業者に依頼して、買取価格や条件を比較しましょう。
2:買取業者と売買契約を締結する
提示された買取価格に納得できれば、その業者と売買契約を結びます。
3:代金の決済と所有権移転登記
代金を受け取り、業者側の指定する司法書士と共に所有権持分移転登記を行います。この方法は、他の共有者の協力が不要なため、非常にスピーディーに現金化できるのが特徴です。
共有物分割請求をする場合
1:弁護士に相談・依頼する
共有物分割請求は法的な手続きであり、個人で進めるのは困難です。まずは不動産問題に詳しい弁護士に相談し、今後の進め方や費用について説明を受け、正式に依頼します。
2:共有物分割請求訴訟を提起する
弁護士が代理人となり、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起します。
3:裁判所での審理・和解協議
裁判所では、まず当事者間での和解ができないか協議が促されます。ここで話し合いがまとまれば、その内容に従って共有状態を解消します。
4:裁判所による判決
和解が成立しない場合、裁判所が「どのように分割すべきか」を判断し、判決を下します。判決には、不動産を競売にかけてお金で分ける代金分割や、一人が不動産を取得し他の共有者にお金を支払う価格賠償などがあります。
5:判決内容の実行
下された判決に基づき、不動産の競売手続きや代金の支払いなどが行われ、共有状態が法的に解消されます。
共有名義の不動産売却にかかる費用
共有名義の不動産を売却する際には、通常の不動産売却と同様にいくつかの費用が発生します。これらの費用は、売却代金からまとめて支払い、残った金額を持分割合に応じて分配するのが一般的です。誰がどのように負担するのか、事前に共有者全員で話し合っておきましょう。
仲介手数料
不動産会社に売却の仲介を依頼し、売買契約が成立した際に支払う成功報酬です。法律で上限額が定められており、一般的には以下の速算式で計算されます。
【計算式(売買価格が400万円超の場合)】
(売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税
例えば、3,000万円で売却した場合の仲介手数料は105万6,000円(税込)が上限となります。
印紙税
不動産売買契約書に貼付する印紙代で、法律で定められた税金です。契約書に記載された売買価格によって税額が決まります。
記載金額 | 本則税率の印紙税額 | 軽減税率の印紙税額 |
---|---|---|
1,000万円を超えて5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超えて1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円を超えて5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円を超えて10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超えて50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
※上記は2027年3月31日までの軽減措置が適用された金額です。
登記費用
所有権を買主に移転する際や、住宅ローンが残っている場合に抵当権を抹消する登記に必要な費用です。司法書士に手続きを依頼するための報酬と、登記そのものにかかる登録免許税が含まれます。
- 抵当権抹消登記の登録免許税: 不動産1個につき1,000円
- 司法書士への報酬: 1万円~3万円程度が目安
譲渡所得税
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合にのみ課税される税金です。譲渡所得は以下の計算式で算出します。
- 取得費: 不動産の購入代金や購入時にかかった諸費用
- 譲渡費用: 仲介手数料や印紙税など、売却にかかった諸費用
この譲渡所得に対して、国税である所得税と地方税である住民税が課税されます。税率は不動産の所有期間によって大きく異なります。求め方は以下の通りです。
マイホームの売却であれば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例など、税負担を軽減する制度があります。これらの特例は共有者それぞれが適用を判断できるため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
共有名義の不動産売却で必要な書類
共有名義の不動産を売却するには、共有者全員の協力が不可欠です。これから紹介する書類の多くは、共有者一人ひとりが準備する必要があります。一人でも書類が欠けていると手続きを進められないため、早めに全員で確認しながら準備を始めましょう。
共有名義の不動産の売却に必要な書類は以下の通りです。
- 登記識別情報(登記済証)
- 確定測量図・境界確認書
- 固定資産税納税通知書
(または固定資産評価証明書) - 実印(共有者全員分)
- 印鑑証明書(共有者全員分)
- 住民票(共有者全員分)
- 身分証明書(共有者全員分)
印鑑証明書の有効期限は、発行から3ヶ月以内です。
登記識別情報(登記済証)
いわゆる「権利証」のことで、その不動産の所有者であることを証明する最も重要な書類です。
この書類の形態は、不動産を取得した時期によって異なります。
- 登記済証(権利証)の場合: 比較的に古い不動産の場合、共有者全員の名前が記載された1冊の冊子になっていることが一般的です。その場合は、その1冊が必要になります。
- 登記識別情報の場合: 現在の制度では、共有者一人ひとりに対してパスワードが記載された個別の通知書が発行されます。この場合は、共有者全員分の通知書が必要です。
どちらの形式であれ、再発行はできないため、大切に保管されている場所を確認しましょう。万が一紛失した場合は、司法書士に依頼して代替手続き(本人確認情報の作成など)を行いますが、追加の費用と時間がかかります。
確定測量図・境界確認書
土地や一戸建てを売却する場合に、隣地との境界を明確にするための書類です。
境界がはっきりしていないと、買主との間でトラブルになる可能性があるため、非常に重要です。
もし手元になければ、土地家屋調査士に依頼して作成する必要があります。
固定資産税納税通知書(または固定資産評価証明書)
毎年5月頃に市区町村から送られてくる書類です。売却する不動産の詳細(評価額など)を確認したり、売主と買主の間でその年の固定資産税を日割りで精算したりするために使用します。
手元にない場合は、市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を取得することで代用できます。
実印
売買契約書や登記関連書類など、重要な書類への捺印に使用する、役所に登録された印鑑です。共有者全員分の用意が必須です。
印鑑証明書
実印が本物であることを証明する書類です。
市区町村の役所で取得でき、発行後3ヶ月以内のものが有効とされています。これも共有者全員分が必要です。
住民票
登記簿に記載されている住所と、印鑑証明書の住所(現住所)が異なる場合に必要となります。
該当する共有者全員分を用意しましょう。
身分証明書
売主本人であることを確認するための書類です。
運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど、顔写真付きのものを共有者全員分準備してください。
不動産売却に必要な書類一覧!取得方法からなくした場合の対処法までまとめて紹介!
共有名義の不動産が原因で起こり得るトラブル
共有名義の不動産は、個人の意思では売却を決められません。
しかし、不動産を共有状態のまま、処分について先送りし続けていると、トラブルになってしまう可能性があります。
共有者全員が納得して「不動産をどうするか」を決められるように、リスクについての理解を深めておきましょう。
1.相続で権利関係が複雑になる
相続で不動産の共有者が増加すると、不動産の処分についての意思決定が更に難しくなります。
以下は、故人のAが所有していた不動産を、配偶者のB、子どものC、Dで共有名義で相続していた時に、Cが亡くなって更なる相続が発生した場合の権利関係の例です。
Cの配偶者Gと、子どもE、FがCの持分を相続すると、不動産の共有者は5人に増加します。
E、Fの持分割合は16分の1ですが、Dが売却を望んでも、EやFが反対すれば、不動産は売却できません。
また、相続が繰り返されると、そもそも共有者が見つからない、わからないという事態も起きてしまいます。
2.離婚後しばらくしてからトラブルが起きる
夫婦でいる間に共有名義で購入した家に、どちらかが離婚後も住み続ける場合、名義をそのままにしていたために、後々の売却時や相続時になってから不動産の所有権についてトラブルが起きることがあります。
離婚後は不動産を売却して財産分与するか、なるべく早めに住み続ける人の方に名義を変更しておくのがおすすめです。
しかし購入資金の負担割合で不動産の共有持分の割合を決めていたとしても、離婚で財産分与する時には、不動産は「共有財産」として、1:1の割合で分与します。
これを不服として、スムーズに財産分与ができないケースもあります。
3.持分が第三者の手に渡り売買を迫られる
他の共有者が、持分を第三者に売却したり、税金や借金の返済の滞納で持分を差し押さえられたりすると、不動産の持分が第三者(多くの場合、持分買取の専門業者)と共有状態になります。
持分が業者の手に渡ってしまうと、穏便に所有権の問題を解決することは難しくなります。
多くの場合、業者の持分を高値で買い取るか、業者に格安で売却するように持ちかけられます。
不動産を売却するにしても、所有し続けるにしても、大きな問題を抱えることになってしまいます。
4.共有物分割請求をされる可能性がある
「共有物分割請求」とは、裁判によって不動産の共有状態を解消するための訴訟です。
不動産をどう取り扱うか、共有者の間で意見の相違があった場合に、裁判所に裁定してもらう制度です。裁定の結果には、法的な強制力があります。
共有物分割請求は、全ての共有者がする権利を持っています。
不動産を長年放置して、知らないところで共有者が増加すると、思いがけず分割請求を受け、対応しなければならなくなる可能性があります。
共有名義の不動産売却ならではの注意点
この章では、共有者の同意を得て不動産を売却する時に、一般的な不動産売却とは異なり、気をつけなければならないポイントを解説します。
契約に立ち会えない共有者は委任状を作成する
もしも、売買契約時や決算・引渡し日に、立ち会いができない共有者がいる場合、以下の内容を記した委任状を作成する必要があります。
- 委任する人と委任される人の住所・氏名
- 委任する内容と取引する日にち
- 委任する範囲(売買契約の締結、代金の受領、不動産の引き渡しなど)
- 権利を持つ不動産の情報 など
委任状には、委任する人の実印を捺し、印鑑証明書を添付します。
持分割合を無視した分配は贈与税がかかる
1章でも触れた通り、共有名義の不動産の売却によって得られた代金は、売却にかかった諸経費を差し引いた後、共有者の持分割合で分配することになっています。
これを無視して、自由に売却代金を分配してしまうと、持分割合以上に分配された人に贈与税が課されます。
共有名義の不動産は早めに対処を決めよう
共有名義の不動産を所有していて、売却を考えている場合には、早めにどう対処するかを決めましょう。
共有者が亡くなって相続が発生すると、権利関係が複雑になり、売却が難しくなる可能性があるからです。
共有名義の不動産を売却する際には、まず共有者の間でしっかり話し合いをすることで、トラブルを回避しましょう。