古い家屋を売却したいと思っていても、『高い費用をかけて解体工事を行ったのに、売れ残ってしまったらどうしよう…』と不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「更地渡し」で古家付き土地を売りに出すと、買主が見つかるまで家屋を残したまま売却活動ができます。
この記事では、不動産の売却方法の1つである「更地渡し」について、わかりやすく解説します。
古い家を売るにはどうすればいい?売却時の税金や節税の特例についても解説
更地渡しとは
更地渡しとは、不動産売買において「売買契約を締結した後に、売主側の負担で更地にしてから引き渡す」という約束で、土地に建物を残した状態で売りに出す売却方法のことです。
更地渡しと現況渡しの違い
市場価値のない古い家屋の残った土地のことを「古家付き土地」といいます。
古家付き土地の売却方法として「現況渡し」と「更地渡し」の2つの方法があります。
現況渡しは、古家の解体費用を買主側が負担する売却方法です。古家を残したまま売りに出し、売買契約後、解体せずに引き渡します。
一方、更地渡しは、解体費用を売主が負担する売却方法です。売買契約後に売主側で古家を解体し、更地にした状態で引き渡します。
更地渡し | 現況渡し | |
---|---|---|
売却活動中 | 古家が残っている | 古家が残っている |
引き渡し時 | 更地 | 古家が残っている |
古家の解体費用 | 売主側が負担 | 買主側が負担 |
更地渡しに法的な定義はない
更地渡しという売却方法には、法的な定義がある訳ではありません。
更地渡しは、売主と買主が交わす売買契約に「引き渡し前に売主側で建物を解体し、更地にすること」を特約として盛り込むことで成立する取引です。
そのため、売主と買主の間のトラブルを未然に防ぐためには、工事の対象や範囲を書面で明らかにしておくことが不可欠です。
- ブロック塀や庭木を撤去するかどうか
- 整地までするかどうか
- 地中埋設物があった場合の処理費用の負担割合
更地渡しのメリットとデメリット
この章では、更地渡しのメリットとデメリットについて、解説していきます。
更地渡しのメリット | 更地渡しのデメリット |
---|---|
更地渡しのメリット
更地渡しのメリットとして、以下の3つが挙げられます。
買主が見つかりやすくなる
更地渡しで売却するメリットとして、まず「土地の買主が見つかりやすくなる」ことが挙げられます。
更地渡しの約束で売りに出されている古家付き土地は、買主にとって以下のメリットがあります
- 買主が解体費用を負担しなくてよい
- 引き渡し前に土地の状態が分かる
現況渡しの場合、買主は解体費用を負担する必要があるだけでなく、解体して更地にしてみるまで土地の状態が分かりづらいというリスクがあります。
更地渡しの場合は、建物を解体して更地に整地する過程である程度土地の状態が分かるため、リスクが軽減されます。
以上の理由から、更地渡しは現況渡しと比べて、土地の流通性が高くなる可能性がある売却方法であると言えます。
売却中に固定資産税が上がらない
古家を更地渡しの約束で売却することは、売主にとっても「売却活動中に固定資産税や都市計画税が値上がりしない」というメリットがあります。
家屋が建っている土地には、かかる固定資産税や都市計画税が減額される特例措置が適用されています。
固定資産税 | 都市計画税 | |
---|---|---|
小規模住宅用地 (~200㎡までの部分) | 課税標準×1/6×税率 | 課税標準×1/3×税率 |
一般住宅用地 (200㎡を超える部分) | 課税標準×1/3×税率 | 課税標準×2/3×税率 |
(※課税標準:固定資産税評価額を元に決まる課税のベース)
逆に言うと、土地に建っている家屋を取り壊すと、この特例措置が適用されなくなり、支払う固定資産税・都市計画税の税額が高くなります。
固定資産税の課税対象は毎年1月1日時点に決まるため、建物を解体して更地にした状態で年を跨ぐと、固定資産税の税額は最大6倍になります。
しかし、更地渡しの約束で売却活動をすれば、土地を売りに出してから年を跨ぐことになってしまっても、家屋が残ったままなので、支払う固定資産税額を抑えたまま売却を続けられます。
工事費用を売却時の経費にできる
売却後に支払う税金を計算する時に、解体工事にかかった費用を経費に計上できるというメリットもあります。
売却後に支払う税金は、以下の計算式で求められる「譲渡所得」に、税率をかけ合わせて計算します。
更地渡しのデメリット
更地渡しのデメリットとして、以下の2点が挙げられます。
解体費用の負担がある
売却する家の解体費用を負担しなければならないのは、デメリットと言えるでしょう。
解体費用は、敷地内の建物の構造や材質、大きさによって変動します。
一般的な家屋で、建物を取り壊して廃材を処理するために、おおよそ100~300万円かかります。
更地にするためにかかる費用について、詳しくは次の章をご覧ください。
トラブルが起きる可能性がある
売主と買主の更地渡しに対する認識の齟齬によって、トラブルが起きるリスクがあるのもデメリットとして挙げられます。
前章で説明した通り、更地渡しには法的な定義がありません。売主と買主の間の取り決めに基づいて契約が交わされます。
そのため、事前の取り決めに曖昧な部分があると、思いがけないトラブルが発生する恐れがあります。
たとえば、更地にする際に地中埋設物の存在が明らかになった場合、事前に処理費用についての取り決めがないと、売主と買主の間でどちらが負担するか揉める可能性があります。最悪の場合は、契約が取消になってしまうことも起こり得ます。
更地渡しにかかる費用
更地渡しにかかる費用は、大きく4つに分けられます。
家屋の解体費用
家屋の解体費用は、主に建物の広さと構造(建材)によって変動します。
坪数 | 木造 | 鉄骨造 | 鉄筋コンクリート造 |
---|---|---|---|
20坪 | 62~130万円 | 68~140万円 | 70~160万円 |
30坪 | 93~195万円 | 102~210万円 | 105~240万円 |
40坪 | 124~260万円 | 136~280万円 | 140〜320万円 |
60坪 | 186~390万円 | 204~420万円 | 210~480万円 |
80坪 | 248~520万円 | 272~560万円 | 280~640万円 |
間取りや、家の階数によっても費用は変動します。特に、地下階がある場合は高額になりやすいです。
ご自身の家の解体費用を詳しく知りたい場合は、解体業者に問い合わせて見積もりを取っておくのがオススメです。
家屋以外の撤去費用(付帯工事費用)
敷地に、家屋以外の付帯物がある場合には、その撤去工事費用がかかります。
付帯物とは、たとえば以下のような物です。
- 門
- ブロック塀
- 車庫、カーポート
- 古井戸
- 庭木
- 納屋、物置
- 浄化槽
解体工事見積もりを受ける際には、費用に含まれている項目をしっかり確認しておきましょう。
廃材の処理費用
家屋や付帯物の解体工事によって出た廃材(木くず、金属くず、瓦礫など)の処理にも費用がかかります。
また、家屋に不用品を残した状態で解体した場合には、ゴミの撤去費用もかかります。
廃材やゴミの分別作業にも人件費がかかるため、家屋に使われている建材の種類が多かったり、家屋に残した不用品の量が多いと、高額になりやすいです。
建物滅失登記費用
土地に建っている建物を取り壊すと「建物滅失登記」を法務局に申請して行わなければなりません。
建物滅失登記の申請手続きを自分で行う場合は、登記事項証明書を取得する費用(1,000円程度)の負担が必要です。
登記の手続きを土地家屋調査士や司法書士に委任する場合は、報酬と実費を合わせて約4~5万円かかります。
更地渡しの流れ
実際に更地渡しをする流れは、以下の通りです。
- 更地渡しの約束で売り出す
- 買主と売買契約を結ぶ
- 解体工事を実施する
- 決済・引き渡し
- 建物滅失登記
注意点として、更地渡しの場合、土地の引き渡し後も売主が「建物滅失登記申請」をする必要があります。
解体後に建物滅失登記を行わないと、買主が新しい建物を建設できません。
更地渡しが向いているケース
古家の解体費用は高額であるため、
建物がボロボロになってしまっている場合
たとえば古い建物の基礎に不具合が生じてしまっていたり、築年数は浅くてもシロアリ被害に遭っていたりして、建物の状態が悪い場合には、更地渡しの約束で売却するのがオススメです。
建物の基礎部分や柱がボロボロになってしまっていると、修繕して利用するには高額な費用がかかります。
古家付きで売り出しても、「古家をリフォームして住みたい・貸家にしたい」という買主に、あまり魅力的に映らないため、土地を利用したい買主に向けて売り出す方が、売却しやすくなる可能性があります。
解体によって控除が受けられる場合
残っている古家を取り壊すことで「相続空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」を適用できる場合は、支払う譲渡所得税を大きく節税できるため、引き渡し前に解体工事をした方が収支が良くなる可能性があります。
相続空き家の3,000万円控除の特例は、適用要件が細かく決められていますが、昭和56年5月31日以前に建築されている(旧耐震基準である)、被相続人が一人暮らしをしていた家である場合、適用できる可能性があるため、詳しく要件を確認してみましょう。
相続した空き家の3,000万円控除の適用要件をわかりやすく解説
土地の固定資産税が高い場合
予め更地にした状態で売り出すか、売買契約後に引き渡す約束で売り出すか、どちらにするか迷う場合には、土地の固定資産税を見直してみましょう。
建物を取り壊すと、建物について支払っていた固定資産税の支払いはなくなりますが、土地にかかる固定資産税が最大6倍に増額します。
そのため、立地や敷地面積によっては、思いがけず税金が高額になる可能性があります。
家屋の取り壊し後すぐに売却できなかった場合に、負担になる金額ではないか、固定資産税を確認しておきましょう。
古家付き土地を売却する場合、更地にすべき?そのまま売った方がよい?
更地渡しで売却する時の注意点
更地渡しの約束で売却する場合には、以下の3つのポイントに気をつけることで、トラブルを未然に回避しましょう。
売買の条件を明確にする
1章でもお伝えしましたが、更地渡しの条件をしっかり話し合い、買主との間に齟齬のないように、きちんと契約書に記載しておきましょう。
特に、以下のポイントについては、よくよく話をすり合わせておくのがオススメです。
- どこまで解体・撤去を行うか
- どのタイミングで解体工事を始めるか
- 整地まで行うかどうか
- 地中埋設物があった場合にどうするか
再建築不可物件でないか確認する
売却する土地に建っている建物が、再建築不可物件でないかどうかには気をつけましょう。
建物が再建築不可物件の場合は、建物を取り壊してしまうと、その土地に再び建物を建てられなくなってしまいます。
近隣住民とのトラブルに気をつける
解体工事によって発生する騒音や振動によって、土地の近隣住民とトラブルになる恐れがあります。
事前に解体業者と近隣住民に挨拶回りをするなどして、解体工事を行うことや、工事の期間を伝えておくとよいでしょう。
売主にとっては、売却後は関わり合いのなくなる人たちかもしれませんが、買主は今後もその土地で暮らしていくことになるため、十分に配慮した上で、解体工事を実施しましょう。