近年、エコカーの普及にともなうガソリン消費量の減少や、若者の車離れなどの影響などで、閉店するガソリンスタンドが増えてきています。ガソリンスタンドの跡地は、土壌汚染対策や油の臭いの問題などから、そのままでは活用することが難しく、一見すると、資産には向いていない物件だと思われるでしょう。しかし、ポイントを押さえて上手に活用すれば、そのメリットを最大限に発揮することも可能です。
ガソリンスタンドの跡地のメリットと活用例、そして売却を考える場合の手順について、取り上げていきます。すでに、ガソリンスタンド跡地の物件を所有している方も、これから土地の取得を考えている方も必見です。
- ガソリンスタンドの跡地は安全性が高く、店舗利用なら立地は抜群
- ガソリンスタンドの跡地は「セルフガソリンスタンド」「洗車スポット」「ロードサイド経営」「駐車場」「トランクルーム経営」での活用がおすすめ
扱いにくい?ガソリンスタンド跡地のデメリット
一般的な土地と比較して、ガソリンスタンド跡地は特殊性が高く、活用や売却を考える際には、いくつかの問題点があります。まずは、ガソリンスタンド跡地の問題点について、知っておきましょう。
ガソリン中の特定有害物質による土壌汚染の可能性
環境省が定める土壌汚染対策法では、土壌汚染による人体への健康被害が懸念されるものを、「特定有害物質」として指定しています。そして、これを製造、使用、または処理している「特定施設」に対して、土壌汚染調査と都道府県知事への報告を、義務化しています。土壌汚染調査が行われた結果、特定有害物質の濃度が基準値内であれば、問題はありません。
ガソリンには、特定有害物質のうち「ベンゼン」が含まれています。現在のガソリンには含まれていませんが、1975年以前のレギュラー・ハイオクガソリンには、鉛も含有されていたので、それによる土壌汚染があれば鉛も調査対象になるでしょう。
ガソリンスタンド自体は、土壌汚染対策法で定められた特定施設には該当しないため、土壌汚染調査の義務は課されていません。ただし東京都のように、ガソリンスタンドの廃止時に、土壌汚染調査の義務化を条例で定めている自治体もあります。またガソリンスタンド跡地の買い手が、契約の条件として土壌汚染調査を求めるケースも。
このような背景から、土壌汚染調査はガソリンスタンド売却時に、売り手が自主的に実施していることが多いことが現状です。調査の結果、特定有害物質が基準範囲外であった場合は、さらなる詳細な調査を経て、汚染された土壌の浄化対策を講じ、健康被害の心配がない安全な土地にする必要があります。
土壌汚染調査の費用や、もし汚染していた場合の浄化費用を考えると、ガソリンスタンド跡地の売買は、大きな出費をともなうこともあると言えます。
ガソリンスタンド特有の油の臭い
ガソリンスタンドにつきものなのが、特有の油臭さ。不快な臭いは、土地の売買時には大きく評価を下げることになってしまいます。上記の土壌汚染対策法とは別に、環境省から油汚染対策ガイドラインが制定されています。
油による土壌汚染は、油の状態や地形の状況によっても対処法が異なるため、このガイドライン自体に法的拘束力はありません。しかし臭いというのは土地の契約時には重要なポイントであるため、法律や条例でないからといってこのガイドラインを軽視することはできないのです。
油対策汚染ガイドラインにおいては、油の臭いがしないかのチェック、目視での油膜の確認などを調査員が行い、問題ないかを判断することになっています。問題があれば、特定有害物質と同様に浄化対策を講じる必要があります。
地下タンクの掘り出しにともなう地盤の安定性
ガソリンスタンドの地下にはタンクが埋没してあり、廃止時にはタンクを掘りだして無害化されます。その後タンクの浄化処置をして砂などを詰めて再び地中に埋め戻すか、完全に撤去して土で固めるという作業をします。そうなってくると懸念されるのが地盤の安定性。しっかりと強固な地盤を固めてくれる施工業者を見極め、信頼のおける業者に依頼する必要があります。
タンク自体の強度については、2010年6月の消防法改正により大幅に見直されました。設置後40年以上が経過しているタンクについては、腐食のリスク分類に応じて対策をすることが義務付けられました。
ガソリンスタンド跡地の売買の際には、地盤の改修作業に問題はなかったか、ガソリンスタンドの開業はいつだったのか、といったことも確認するポイントとなります。
意外に使える?ガソリンスタンド跡地のメリット
多くの懸念事項があり、活用が難しそうなガソリンスタンド跡地ですが、ガソリンスタンドならではのメリットもあります。
安全性が高い
ガソリンスタンドが扱うのは、ガソリンや灯油といった危険物。そのため、消防法によってその構造については厳しい規制があり、安全性が高い造りになっています。震災のときに、危険物がたくさん置いてあるガソリンスタンドは危ないのではと思われる方もいますが、実はガソリンスタンドはとても安全で、震災時のキースポットになるほど。実際、多くのガソリンスタンドが、災害時支援避難場所として指定されています。
またガソリンスタンドは、雨風がしのげる構造になっているところがほとんどなので、自然災害の多い日本においては、とくに安全面において、魅力的な物件だと言えるでしょう。
店舗利用なら立地は抜群
ガソリンスタンドは、給油のしやすさが集客の要になるので、交通量の多い幹線道路沿いにある店舗が多いです。このような店舗であれば、幹線道路沿いで小売業をする、ロードサイドビジネスにはうってつけ。
車での入りやすさが重要なコンビニ、家族連れを狙うファミリーレストラン、駐車スペースが必要なレンタカーショップや車の展示場など、活用法は無限大にあります。好立地なので、マイカー客をターゲットにしたビジネスには、向いていると言えるでしょう。
ガソリンスタンド跡地の活用例
安全性や立地に関しては、メリットがあるガソリンスタンド跡地。ガソリンスタンド跡地に向いている、土地の活用術を挙げていきます。
セルフガソリンスタンド
ガソリンスタンドの跡地で、セルフガソリンスタンドを経営することも一つです。「経営不振でガソリンスタンドが閉業したのに、またガソリンスタンドを経営するの?」と思われる方もいるでしょう。これは立地や条件にもよりますが、例えば、周辺で相次いでガソリンスタンドが閉店している場合、その地域では競合がいないため、効率的に集客できる可能性があります。
このとき、コストを抑える方法として推奨されるのが、セルフガソリンスタンド。人件費を抑えつつ、24時間営業も可能で、セルフガソリンスタンドは増えてきています。もとの設備は生かして使えるので、初期費用を少なくすることができますが、地下のタンクが処理済みの場合は、別途費用がかかります。
ガソリンが今後、代替エネルギーに取って変わられるという見方がありますが、代替エネルギーが台頭しても、その充電スポットとしてガソリンスタンドは、活躍する可能性もあります。
洗車スポット
ガソリンスタンドは、給油するだけの場所ではありません。洗車場がついているところも多いのではないでしょうか。この造りをいかし、「車の美容室」と称して、洗車をはじめとした、カーディテイリングサービスを提供している店舗も存在します。
洗車場はそのまま活用し、洗車からコーティング、ラッピングまで効率よくできる造りになっています。シックな待合室はカフェのように落ち着いた雰囲気で、ゆったりとした時間を過ごしながら、愛車がきれいになって返ってくるのを待つことができる、魅力的なサービスを行っています。
ガソリンスタンドは元々車が入れやすいので、マイカー客をターゲットに既存の設備をいかしつつ、このような新たなビジネスモデルも生まれてきています。
ロードサイド店舗
とくに、幹線道路沿いのガソリンスタンド跡地なら、その立地の良さをいかして、ロードサイド店舗への改修や貸し出しも有効です。車の乗り入れがしやすく、駐車スペースも確保できるので、携帯ショップやコンビニなど、幅広い店舗に応用できます。
また、「居抜き物件」として借り手を探す方法もあります。居抜き物件とは、過去のお店の設備や内装等はそのままに、貸し出されている物件のことです。借り手側は初期費用を抑えつつ、早期に営業を開始できるというメリットが。実際に、ガソリンスタンドの頑丈な造りはそのままに、ラーメン店や中古車販売店とし、てリニューアルしている例もあります。
駐車場
設備の解体費用はかかりますが、安定した収入を得られる駐車場という選択肢も。ガソリンスタンドは、元々車の乗り入れが容易な造りのため、駐車場にも適しています。
駐車場は月極とコインパーキングがありますが、どちらにするかは立地条件によって異なります。周辺が住宅地で、マイカー利用者が多ければ月極、近くに商業施設や駅があるならコインパーキングのほうが、集客が見込めます。
トランクルーム
駐車場のほかに、長期的かつ安定な収入を見込めるものの一つに、トランクルームとしての活用が挙げられます。敷地面積が小さくても、トランクルームなら利用面積に応じて料金設定が可能です。管理も最低限でよいので、人件費を安く抑えられるといったメリットもあります。
実際にガソリンスタンド跡地で、トランクルームを経営している例もあるので、企業向けに借り手を探すことも一つの方法です。
売却を検討している方は
「良い活用法が思いつかない、それならいっそのこと売却したい」という方は、ガソリンスタンド跡地ならではの、注意すべきポイントがあります。ガソリンスタンド跡地の売却の手順や、知っておくべき基礎知識について理解しておきましょう。
ガソリンスタンド跡地の売却方法
ガソリンスタンドを閉業し、特定有害物質が含まれるガソリンの使用をやめた場合、土壌汚染対策法第3条に基づき、廃止後30日以内に、有害物質特定使用施設の廃止届を各自治体に提出します。その後、土壌汚染調査を行い、廃止から120日以内に、都道府県知事へ報告書を提出しなければなりません。
土壌汚染調査は、環境大臣が指定する指定調査機関に依頼します。調査費用は地域や広さ、タンクの撤去の有無などで異なりますが、表層を調査して汚染がなければ数十万円、深度も調べる必要があれば、追加で20~70万円ほどの費用がかさんでいきます。
土壌汚染が確認された場合は、専門業者に依頼して、土壌汚染対策をする必要があります。土壌浄化費用は、汚染場所の広さや深さ、浄化方法によりますが、数百万~数億円かかります。売却価格と比較して、土壌浄化費用があまりにも高額になる場合は、残念ながら売却を断念するケースも。
しかし実際は、土壌汚染がニュースで取り上げられて、問題視されることはあっても、ガソリンスタンドの跡地が汚染されているといった事例はほとんどありません。土地汚染調査をすることで、かえって土地の価値をあげることもできますし、調査を済ませたということで、買い手に安心感を与えて印象もよくなります。したがって、あまりネガティブに捉えずに、土地汚染調査は積極的に行ったほうがよいでしょう。
売却時の注意点
土壌汚染対策法に基づき、土壌汚染された状態で分譲するときには、重要事項説明書にその旨を明記しなければなりません。「この土地は汚染されています」ということを、不動産の掲載時に、買い手に伝える義務があるのです。これは、これから土地の購入を考えている人にとっては、大きなマイナスポイントになります。
これに従わずに、買い手が土壌汚染はないものとして契約を結んでしまった場合、契約があとから無効になったり、詐欺だとして訴訟を起こされたりする可能性もあります。
不安があれば不動産に相談しよう
売却時には、土壌が汚染されているか、もし汚染されていた場合は、どれくらいの費用がかかるのかということが、ネックにはなりますが、ガソリンスタンド跡地が活用できる例は多々あります。しかし、不動産業界では、やはり「ガソリンスタンド跡地は扱いにくい」といった風潮があることも事実。
そんなときは、ガソリンスタンド跡地の売買に強い不動産業者に、相談するとよいでしょう。これまでのノウハウをいかし、最適な土地活用の方法を提案してもらえます。
売却せずにそのままにしておく方法も
今すぐには、活用あるいは売却ができないという場合は、売却せずにそのままの状態で、ひとまず手元に残しておくという選択肢もあります。
ここで注意しておくべきなことは、土地にかかる税金です。長らく使用していない土地を「遊休地」と言いますが、遊休地であっても、土地には固定資産税と都市計画税の二つの税金が課せられます。固定資産税は、評価額の1.4%、都市計画税は評価額の0.3%です。仮に、評価額1,000万円で固定資産税と都市計画税の両方が課せられている土地の場合、かかる税金は年間で17万円。これが10年続けば、170万円の出費となってしまいます。
また、遊休地といっても、最低限の管理は必要です。雑草や害虫の対策などの管理を怠れば、周辺地域からのクレームがくることもあります。手元に残しておく場合は、土地にかかる税金と管理費や管理するための労力を総合的に判断して、期間限定にしたほうが得策です。
ガソリンスタンド跡地ならではの活用方法を考えよう
一見扱いにくそうなガソリンスタンド跡地ですが、土壌汚染調査をクリアすれば、メリットが大きい物件です。他の商業施設に転用するか、売却するか、そのまま手元に残すか、運用方法も多種多様です。ガソリンスタンド跡地の売買に強い不動産業者も活用しながら、賢い土地の活用方法を考えていきましょう。