分譲マンションの築年数が古くなってくると、そろそろ建て替えをするのではないか、と少し不安になりますよね。
しかし国土交通省によると、分譲マンションの建て替え件数は既に工事が完了したものから建て替え予定のものまで含めて、平成31年4月1日現在でわずか278件しかありません。
建て替えの実施が検討され始める30年を超える築年数の分譲マンションの個数は現在197.8万戸あることが分かっています。
つまり、一棟あたり50戸で計算しても約4万棟の分譲マンションが建て替えを検討する時期に差し掛かっているにもかかわらず、そのうちの0.7%ほどしか実際には建て替えが実施されないということです。
それでは、なぜ建て替えが少ないのか・建て替えが実施されない分譲マンションはどうなるかを中心に解説していきます。
もし、分譲マンションの建て替えが決まってしまったらどうするか
もし建て替えが決まってしまったら、居住者に残された選択肢は建て替えに賛成し再入居する・建て替えに反対し立ち退くのいずれかです。
建て替えに賛成し、再入居する
建て替えに賛成した場合、分譲マンションを解体し新築マンションの建設が完了するまでの期間は仮住まいを探し、建て替え完了後に再入居するということになります。
再入居に伴い、分譲マンションの建て替え費用のみならず、引っ越し代や仮住まいの家賃料の負担が発生します。
引っ越しは往復2回・工事期間中2年程度の仮住まいだと想定すると、建て替え費用の平均1800万円に加えて約200万円、総額約2000万円の出費が必要になります。
これらの費用は住宅ローンを利用することも出来ますが、分譲マンションの購入時のローンが残っている場合は審査に通る可能性が低いです。
ただ、巨額な建て替えに伴う費用を用意できない場合は、国や自治体の支援助成制度を利用すると費用負担が軽減できます。
例えば東京都の場合、建て替えに伴う共同施設整備費が一戸あたり100万円補助されたり、建て替え工事期間中に都営住宅を仮住まいとして利用できる制度などがあります。
また、満60歳以上の方は住宅金融公庫の「返済特例制度」を利用することで、毎月の利息分のみの返済で最大1000万円まで借入することが出来ます。
しかし、あくまでも借りるだけでほとんどの費用負担は居住者にのしかかるということは注意しておきましょう。
建て替えに反対し、立ち退く
建て替え費用やそれに伴う費用を考えて、「立ち退き」を選択する選択は非常に賢明な選択だといえます。
立ち退きによって立ち退きをそれでも高額な費用を払って建て替えを行うよりは経済的合理性が高いと言えます。
建て替えに反対して行う立ち退きで気を付けておきたいポイントは、「売渡請求権」が実行され半ば強制的に「時価」で建て替え組合に売り渡すように請求されるという点です。
つまり、マンションの住戸部分の権利を売却するということです。売渡請求権が実行されると以下のような流れで売却が完了します。
※所有者側から建て替え組合側に対して行う「買取請求」と分譲マンションの権利を失うという点では同じですが、基本的には売渡請求が実行されます。
売渡請求権が実行される流れ
- 分譲マンションの建て替え決議の成立後、「建て替えに参加するかどうか」の意思確認を書面で催促される。
- 期間内に回答を行わない場合、建て替えに「不参加」とみなされ、マンションの持分が確定する。
- 売渡請求権を行使する意思表示が反対者に届き、時価による売買契約が成立する。
ちなみに、一般的な「時価」は建て替え後の新マンションの想定からさかのぼり以下のように算出されます。
住戸部分の時価(売渡金額)=A.建物全体の評価額×B.住戸の配分割合
A. 建物全体の評価額=建て替え後の建築物と敷地の更地価格ー解体費用
B. 住戸の配分割合=各住戸の専有面積比×効用格差(用途・階層・位置別の場所的利益の比率)
(参考:国土交通省「マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル 」)
建て替えが実施されない分譲マンションはどうなるか
これまで実際マンションが建て替えられたタイミングは、全国平均で築33.4年・マンションの経済的寿命が長い東京都でも40.0年です。(参考:東京カンテイ「マンション建て替え寿命」)
しかし、ここまで見てきたように、築30年以上たっても分譲マンションが実施されることは多くありません。
建て替えが実施されない分譲マンションがたどる道は、定期的に大規模修繕を行い寿命を延ばす・区分所有権を解消して敷地売却する、のいずれかです。
定期的に大規模修繕を行い寿命を延ばす
国土交通省によると、適切なメンテナンスを施すと鉄筋コンクリート造の分譲マンションには寿命の120年まで住み続けることが出来るとされています。
建築後30年超のマンション管理組合又は建替え相談のあるマンション管理組合への調査結果によると、特に配管や給水設備や耐震性に課題を感じており、大規模修繕の必要があることが分かります。
(引用:国土交通省「マンションの改修・建替え等について」)
しかし、大規模修繕は計画的に約12年周期ほどで行われ、劣化したマンション性能を改修するだけでなく改良して、築年数が古くなってもすこしずつ住宅として利用できる期間を延ばしていくという状態をつくることが必要になります。
老朽化にともない分譲マンション内の空室率が徐々に高まる可能性が高いですが、空室割合が30%を超えると維持管理費が溜まりにくく管理組合も機能しなくなります。
その結果、マンションの管理状況が悪化しスラム化がすすみ、残り少ない寿命がくるまでの日々をただ過ごすだけになります。
そのうえ、マンションがスラム化しても区分所有者は所有権を放棄することは出来ず、売ることもできないままに管理費や固定資産税などの維持費を支払い続けることになります。
相続しても後継相続人に管理責任は残るため、”負”の不動産となってしまう恐れが高いのです。
区分所有権を解消して敷地売却する
2002年のマンション建替え法の改正によって「マンション敷地売却制度」によって、耐震性が不足するマンションを敷地売却することが出来るようになりました。
マンション再生を検討するプロセスの中で耐震診断を行い耐震性不足が認定されると、建て替えの決議と同じような手順で敷地売却の計画が進められ、マンション敷地売却決議によって4/5以上の賛成で敷地売却をすることが出来るようになりました。
所有している区分所有権を組合に一本化した後、買受人(デベロッパーなど)に売却します。敷地を売却した代金は各世帯の持分割合(専有面積の大きさなどで決定される)に応じて配分されます。
もちろん区分所有者のなかに反対する人がいる可能性はゼロではないものの、建て替え決議と異なり費用負担もなく敷地売却のハードルは低いといえます。
旧耐震基準(1981年6月1日に改正)で建てられた分譲マンションや、年金暮らしの高齢者が多く建て替え資金の負担が出来ないような分譲マンションは敷地売却の対象になりやすいといえます。
分譲マンションの建て替えが少ない3つの理由
築年数が古いマンションが増加しても建て替えが進まない理由は主に以下の3つです。
- 建て替え費用の住民負担が重いため
- 建て替えが決定するまでの流れが複雑なため
- 法律上建て替えられない分譲マンションが多いため
理由①建て替え費用の住民負担が重いため
分譲マンションの建て替えが少ない理由のひとつは、建て替え費用の住民が負担額が非常に重いためです。
目安として、分譲マンションの建て替えの費用相場は一戸当たりおよそ1800万円と言われています。
建て替えに必要な費用の内訳は、解体費用・建築費用・専門家に支払う調査費・手続きにかかる費用など様々です。
それぞれ、解体費用と建築費用は分譲マンションのグレードや居住部分の面積によって異なります。60㎡以上ある場合はより費用がかかる可能性が高いです。
解体費用 | 90~120万円(60㎡で計算した場合) | 1.5~2.0万円/㎡ |
建築費用 | 1680万円(60㎡で計算した場合) | 28万円/㎡ |
ただ、これまでの建て替え事例のなかには、容積率いっぱいに建てられていなかったマンションを解体し大幅に総戸数を建て増すことが出来た建て替えもあり、その場合は新たに作った分の住居を一般販売した分を建て替え費用にあてることで、以前から住んでいる住民の負担を軽減することが出来ました。
しかし、これから建て替えが検討されるような分譲マンションや都内の狭い面積の分譲マンションでは、建て替えによって大きい建物を建設することは難しいため、どんなに条件が良くても1000万円以上の自己負担は必要になります。
その結果、築年数が古い分譲マンションに住んでいる住民は、暮らしていくことだけで精一杯という人も多くおり、マンションの建て替えのために2,000万円近いお金を工面することは難しいのが現実です。
[simple_assessment type=”condominium”]理由②建て替えが決定するまでの流れが複雑なため
分譲マンションの建て替えが少ない理由の2つめとして、建て替えが決定するまでの流れが複雑だという理由が挙げられます。
上図を見ると分かるように、建て替えの実施が決まるまでに、以下の4つの段階があります。
- 準備段階
- 検討段階
- 計画段階
- 実施段階
ひとつずつ詳しく確認しておきましょう。
準備段階
準備段階は、建て替えや改修・修繕といったマンション再生について管理組合として正式にマンション再生の検討を開始することの合意を得ることが目的となります。
そのために、まずは区分所有者である住民の有志が主導で勉強会などを設け、現在どんな問題点があるのかを情報収集し、そのための費用がどのくらいかかるのか、どのくらいの規模の工事を行うのかなどを話し合います。
つづいて、検討結果を理事会に提示して理解を得ることで、住民全体の集会の決議に発展させていくことが必要になります。
集会の決議では、検討組織を設置すること・検討に要する資金を修繕積立金や管理費から拠出することに対する議決を受けることになります。
ここで、賛成決議がくだされて初めて、本格的な検討を開始することが出来ます。
検討段階
検討段階では、マンションコンサルタントなどの専門家などを交えて建て替えの必要があるか・改修で事足りるかについて検討を進めます。
建て替えに向けての検討委員会を立ち上げ、専門家と一緒に耐震診断やアンケート調査を実施し調査を進めます。
そして、建て替えと改修の費用対効果などの比較検討を行い、マンション再生の方法を決定します。
結果、建て替えが適切だと判断されたら「建替え推進決議」が行われます。基準はありませんが、一定数の合意が取れれば計画段階に移ります。
計画段階
計画段階では、専門家や事業協力者を選定し、建て替えの具体的な計画や費用負担を明確にします。
計画が明確となったら、区分所有法に基づく「建て替え決議」を行い区分所有者である住民の4/5の賛成が得られれば、建て替えの実施が決定されます。
実施段階
実施段階では、実際に分譲マンションが解体され、新たなマンションが着工されます。
実施前には、マンション建て替え組合の設立や住民の権利調整(住宅ローン返済のための引継ぎや新しいマンションの所有権の持分決定)が必要になります。
建て替え後には、再建マンションの管理組合を設立して再入居することで完結となります。
このように、期間としては検討から実施まで10年以上かかることもあり、特に住民の意思表示が強く影響する建て替え決議では区分所有者の4/5以上から合意を得る必要があるため、住民の大きな反対にあって建て替えがとん挫してしまうケースも少なくありません。
理由③:法律上建て替えにくい分譲マンションが多いため
建て替えたくても法律上建替えにくい「既存不適格」な分譲マンションが多いことも、分譲マンションの建て替えが少ない理由のひとつです。
既存不適格とは、建築時は旧法律の基準で合法的に建てられたものの、その後法改正や都市計画変更により現在の法律に対して不適格な部分が生じた建築物のことをさします。
特に建て替えを検討している築30年超の分譲マンションが建築されたのは1970・80年代などになるため、各種法改正の前に建設された可能性が高いです。
反建築物ではありませんが、「土地に対して何階の建物を建てることが出来るか」を定める基準である容積率が超過している分譲マンションが多く存在しています。
容積率が超過している分譲マンションは、「それぞれの住戸の床面積を減らす」か「住戸の数を減らす」のいずれかの方法で建て替えを行う必要があります。
どちらの方法を選択するにせよ、周辺の土地購入費用や減らした住戸分の費用負担が重くのしかかるため、住民の費用負担が高くなります。
さらに容積率を現在の法律の基準に合わせ建物の大きさを小さくする必要があるので、建設会社や不動産会社(ディベロッパー)にとってもメリットが少なくリスクが大きい建て替えだといえます。
これら3つの理由のために、建て替えの必要があるような状態の分譲マンションでも建て替えの実施まではいたらないのです。
それでは、反対に建て替えが実施されない分譲マンションはどうなるのでしょうか。
建て替えが検討される前に分譲マンションを売却しよう
長期間住み続けて愛着が生まれたマンションだとしても、築年数が古くなれば建て替えを検討しはじめ建て替え計画が進むこともあります。
そうなると、結果的に建て替えが実施されなかったとしても住み続けられるかという不安が大きくなり、安心した生活を過ごすことがむずかしくなります。
そのため、現在「築30~50年」の分譲マンションにおすまいの方は建て替えが本格的に検討される前に分譲マンションの売却を検討することをお勧めします。