事故や事件など悪いことが起こった物件は、心象的な問題で買主が見つかりにくくなります。
事故物件を解体してしまえば市場からのイメージがマシになり、売れやすくなるのではと考える人は少なくはありません。
事故物件には告知義務(事故があったことを買主候補に伝えなければいけない義務)があり、告知義務は物件を解体してもなくならないためです。
この記事では、「事故物件は解体したら売れるのか」という疑問をお持ちの方に、事故物件を更地にした場合の市場での価値や告知義務について解説しています。
事故物件は更地にしても売れづらい
事故物件をたとえ解体したとしても、特に自宅用の土地などでは売りに出したときの土地の価値は変わらないことが多いようです。
心理的瑕疵は更地にしてもなくならない
事故物件とは、「心理的瑕疵(しんりてきかし)」がある物件のことです。心理的瑕疵とは、要は「事前に知っていれば住まなかった」と思うような欠陥があることです。
心理的瑕疵がある場合、物件が取り壊されていても購入を控えたいと考える人は少なくありません。例えば、以下に該当する土地の場合、建物が無くなっていたとしても、あなたが買主候補だとしたら購入しようと思うでしょうか。
▼心理的瑕疵がある物件の例
- 過去に「自殺・殺人」などがあった
- 過去に「事件や事故による死亡」などがあった
- 過去に「事件・事故・火災」等があった
- 過去に何らかの事情で「特殊清掃」を行った
- 物件の周辺に「嫌悪施設」がある
- 物件の周辺に「指定暴力団等の事務所」がある
※補足
- 「特殊清掃」とは、事件・事故・自殺等の変死現場や独居死・孤立死・孤独死により遺体の発見が遅れ、遺体の腐敗や腐乱によりダメージを受けた室内の原状回復や原状復旧業務を指します。
- 「嫌悪施設」とは、その存在が周囲の人から嫌われる施設を指します。風俗店、公害発生施設、原子力関連施設、廃棄物処理場、下水処理場、火葬場、軍事基地、刑務所、火薬貯蔵施設、ガスタンクなどが該当します。
売れても相場より価格が下がる
事故物件は、たとえ売れたとしても、一般的には売却価格は相場より下がります。
心理的瑕疵がない場合と比べると、自然死や孤独死で特殊清掃が行われた場合は1~2割ほど、自殺であれば3割、殺人など心理的な嫌悪感が高くなる事件が起きた場合は5割ほど相場が安くなるといわれています。
(物件の立地ほか、状況により大きく異なります。あくまでも目安としてお考えください。)
▼事故物件の売却価格(心理的瑕疵がない場合との比較)
種類 | 売却価格(心理的瑕疵がない場合と比較) |
---|---|
自然死や孤独死で特殊清掃が行われた場合 | 9割~8割 |
自殺 | 7割 |
殺人 | 5割 |
上の表の比率はあくまで目安です。前述したとおり、心理的瑕疵の捉え方は買主の感受性に左右されるため、売却価格が実際に相場の何割になるかは買主次第になります。少し相場から下げるだけで「安く買えて運がいい」と購入する人もいますし、いくら価格を下げても「そんな物件は絶対に嫌だ」と購入を退く人もいます。
ただ、更地にしても心理的瑕疵はなくならない以上、売れても相場より少なからず安くなることは認識しておきましょう。
事故物件は土地だけでも告知義務がある
前章で述べたとおり、心理的瑕疵は土地だけの場合でもなくなりません。ならばいっそ、「心理的瑕疵を隠して売ればよいのでは…」と悪い考えが浮かびそうにもなりますが、事故物件を売る場合、売主は購入希望者に心理的瑕疵を告知する義務があり、土地だけの場合でもそれは変わりません。
告知義務とは
告知義務とは、購入希望者に対して事故物件である旨を告知する義務のことです。宅建業法47条第1項(業務に関する禁止事項)には、以下のように告知義務について明記されています。
告知義務が発生するのは、自殺や他殺、災害などによる死亡事例が発生した場合です。自然死や不慮の事故死の場合は告知義務はありませんが、特殊清掃が発生すると告知義務が発生します。
賃貸の場合は告知義務は3年間に限定されますが、売買では告知義務の期間に制限は設けられていません。よって、売却では心理的瑕疵に該当する事実がある場合、告知義務は必ず発生することになります。
2021年10月8日に国土交通省から宅地建物取引業者による「人の死の告知に関するガイドライン」が公表されましたので、以下に主な点を掲載します。
取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよい。
対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(上記)以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよい。
取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した不慮の死以外の・特殊清掃等が行われた不慮の死は告げなくてもいい。
※事案発覚からの経過期間の定めなし
(参考:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」)
更地にしても告知義務はなくならない
事故物件を更地にしても、告知義務はなくなりません。心理的瑕疵は事故物件を解体してもなくならないため、心理的瑕疵がある場合に発生する告知義務もなくならないのです。
更地にして心理的瑕疵を隠して売ったとしても、近所の人との話などから、必ず買主は事故物件であることを知ることになると考えておきましょう。
事故物件であることを了承した上で購入される場合は問題ありませんが、知らずに購入させてしまった場合は告知義務違反となり、売主は責任を問われることになります。
告知義務を違反した場合
告知義務に違反すると、売主や不動産会社は契約不適合責任を問われます。
契約不適合責任は、売却から10年後まで効力があり、購入直後に買主が気付かなかったとしても、瑕疵を知った1年以内に通知すれば適用されることになっています。
告知義務違反がバレた場合、大きな金銭的負担を負うリスクがあります。仮に買主が気付かなかったとしても、いつバレるか分からない心理的負担を10年間ずっと抱えて過ごすことは辛いでしょう。
よって、事故物件を売却する場合は告知義務を果たし、契約後にトラブルが起こらないようにするのが健全といえます。
▼告知義務を怠り損害賠償請求に発展した判例
(参照:不動産適正取引推進機構 「神戸地裁 H28.7.29」)
(参照:不動産適正取引推進機構「東京地裁(H21.6.26」)
立地がよければ更地にすることで売れやすくなる
立地がよければ更地にすることで売れやすくなるケースもあります。
コインパーキングや駐車場などは、立地に対する評価比重が高く、人の感受性が重要視される用途ではないため、心理的瑕疵があっても売れる可能性があります。
以下の立地条件を満たしている土地は、駐車場やコインパーキングとして好条件といえるので、該当しないかチェックしてみてください。
▼コインパーキングや駐車場として売り出せる土地条件
オフィス街
観光地
商業地域の近く
飲食店や美容室等集客施設の近く
周辺にコインパーキングがない(飽和状態ではない)
更地にする前に不動産会社に相談をしよう
これまで解説したとおり、事故物件を更地にしても市場価値は大きくは変わりません。
事故物件の解体には高額な費用がかかったり、固定資産税が高くなったりとデメリットも多いです。
解体費用の相場は建物構造と延床面積にもよりますが、概ね100万以上はかかります。
また、建物を解体して、そのまま更地のままだと、翌年から固定資産税評価額が大きく上がってしまいます。建物を解体することで、物件付きの土地に適用されていた「住宅用地の特例」による軽減税率が解除されてしまうためです。
このように、更地にすると金銭的負担が大きくなってしまうので、解体費用を回収できる分の値段で売れる見込みが低い場合はオススメはできません。よって、更地にする前には不動産会社に必ず相談するようにしてください。