住宅ローンや担保などで多額の資金を調達して念願の家を購入しても、景気悪化や収入ダウン、急な多額の出費などで毎月の返済が滞ってしまうなど予想もしなかったことは十分に起こり得ます。そんな時、最悪な状況として思い浮かぶのが「競売」ではないでしょうか。
「競売」は裁判所が行う法的な売却方法ですが、一見して債務者に優しい制度のように聞こえますが、やはりいろいろな点でかなり不利な制度といえます。ここでは、「競売」について債務者側の視点から詳しく説明し、「競売」の注意点など、「競売」のデメリットも詳しくお話しします。
1.家の競売についての知識を身に着けよう
家の競売とは、債務者(この場合は家の所有者)が住宅ローンの返済が滞ったり、不動産を担保にして借りていたお金を返済できなくなった場合に、債権者(この場合は金融機関)が裁判所に申し立てを行い、それを受けた裁判所が家を一般に売りに出し、一番高値を付けた買い手と売買契約を結び、その代金を返済に充てることをいいます。一般家庭の場合は、住宅ローンの返済が滞ることが原因となるケースが多いようです。
競売といっても、裁判所が突然やってきて家を黙って持って行くわけではありません。滞納の始めから競売に至るまでの期間は1年ほどの猶予があり、債権者側が裁判所に申し立てない限り競売手続はされませんので、返済が困難になってきた時点で何らかの対処をしておけば競売まで至ることはありません。
ちなみに「競売」には「キョウバイ」と「ケイバイ」の二つの読み方があります。意味はいずれも「差し押さえたものを法律で定めた売買の方法で売ること」ですが、「キョウバイ」は一般的な読み方で、「ケイバイ」は、民法や商法で用いられている読み方と区別されているようです。
・競売実施までは1年の猶予
・早期の対策で競売を回避
2.家の競売までの流れ
家の競売は突然行われるわけではありません。法律で決められた期間ごとの手続き通りに進められます。競売で売却が決まるまではその家に住んでいても構いません。また、競売までに至る手続き中に支払いなどの目途を付けることができれば、すぐにでも競売手続きを停止することができますし、その後もそのまま家に住み続けることができます。
ここで、家の競売までの流れを図にします。ここでは、一般家屋の場合の競売までの流れを例にします。
ローン・担保返済の滞納
債権者より文書送付
裁判所より「競売」通知
物件査定
売却基準価格公表
入札
売却契約
次に、それぞれの手続きについて詳しく解説します。ちなみに、それぞれにかかる日数は平均的なものになります。物件の状況やローン契約状況、所有者(不動産上の名義)などによっては、さらに日数がかかる場合もあります。
2.1.住宅ローンの滞納が3から6ヶ月続くことが目安
家の競売は主に住宅ローンの返済が滞った場合や、家を担保として借り入れたお金の返済ができなくなった場合に発生する法的手続きです。住宅ローンの場合は、滞納が始まってから7~9か月後に債権者である金融機関もしくは保証会社が裁判所に「競売申し立て」の旨を伝えます。滞納猶予期間は金融機関や保証会社ごとに変わりますので、住宅ローンを組んだ際に必ず確認をしておい方がいいでしょう。
裁判所に申し立てをする前には必ず、債権者である金融機関から「催告書」や「期限の利益喪失予告」の書面が送られてきます。この書類は、いわゆる金融機関から債務者への「督促状」のようなものですので、この時点では裁判所への申し立ては行われていません。
しかし、債務者として返済できるかどうかの確認を兼ねていることになりますので、少しでも返済できれば、その旨を債権者側に伝えてすぐに対応してください。そうすることで一先ずは競売を回避することができますし、この時点で今後の支払いに関する見直し、具体的には当面の間返済額の減額や返済期間の延長など返済条件の変更(リスケジュール)なども行うこともできます(ただし、その後は支払いをしないで済むわけではありません)。
この時点でも、返済をせず、債権者との話し合いも行わなければ、「期限の利益喪失」を知らせる文書が送られてきます。期限の利益とは分割で返済することができる債務者側の権利のことで、これを喪失すると、以後は分割での返済は認められず、一括で住宅ローンの残金を支払わなければ、「、債権者は裁判所へ競売の申し立ての手続きをします。住宅ローン契約時に融資先の金融機関が指定する保証会社と保証委託契約を締結している場合は、期限の利益喪失後、保証会社が債務者に代わって住宅ローンの残金を一括で返済することになります。これを代位弁済といい、代位弁済後は金融機関に代わって保証会社が債権者となり、肩代わりした住宅ローンの残金を請求してくることになります。もっとも、保証会社としては一括返済を期待しておらず、競売によって強制的に肩代わりしたお金の回収を図るため、競売の申立ての準備に入ります。
2.2.残金を支払えない場合は裁判所から競売開始決定の通知が届く
債権者から裁判所へ競売の申し立てを受けて、裁判所から債務者あてに「競売開始決定通知」の文書が送られます。この書面が送られてくるということは、債権者が法的に届出を出した証拠となります。この時点でも債務者に何ら対応が見られない場合は、強制的に競売手続きに入ることになります。
2.3.約2ヵ月後に裁判所の執行官が訪れ物件の調査をする
「競売開始決定通知」が送られてきてから、およそ2か月後に裁判所から査定額を決める物件調査の担当者が訪問し、競売落札までの流れや手続きの説明と物件の査定を行います。この時の査定方法は、一般の不動産会社が行う訪問査定の方法と同じです。この時に調査した情報をもとに、競売での売却価格が決定します。
2.4.その約5ヵ月後を目安に競売の入札期日が設定される
査定調査後およそ4か月後に売却基準価格を公表し購入希望者の募集の準備を始めます。売却基準価格は、一般の不動産会社が設定する価格より3割ほど安値になっています。それは、少しでも短期間で売却するためです。この情報は一般に公開しますので(裁判所が運営するインターネットサイトや関係諸官庁の広報を通して行います)、不動産会社や一般の人などが自由に購入ができる状態になります。
公表してからおよそ1か月間に購入希望者が購入希望価格を届け出て「入札」します。売却基準価格は裁判所が設定した価格ですので、出来るだけ高値を付けた人が契約できることになります。もちろん、物件によっては基準価格で売却される場合もあります。そして、その後1カ月ほどで競売物件の入札期日が設定され、入札により最も高値を付けた希望者と売買契約を結びます。希望者が1名だった場合は、その人が落札者となり売買契約を結びます。
なお、債務者側が競売を停止申請できる期限は競売の開札日前日までとなっていますが、このように入札期日が設定されるとすでに購入希望者などの「入札」が始まりますので、競売停止の届出をするのは事実上難しくなります。
2.5.落札後は直ちに立ち退かなければならない
売買契約が決定した後は債務者は速やかに立ち退かなければいけません。ただし、売れなかった場合は、そのまま住み続けることができます。しかし、競売は先に延びただけですので、この家はすでに「自分の家」ではありません。この後からは「特別売却」となり、売却価格を下げて再度「競売」が行われます。価格が下がってしまいますので、その結果売れても債務額が増えることになります(物件の売却価格が変わらないことはまずありえません)。債権者側としても入ってくる金額が減ることになりますので、さらにデメリット部分が大きくなります。
・競売はデメリットしかない
・できれば競売を回避して
3.債務者には家の競売はデメリットが多い
家の競売は、その後の支払いがなくなるかもしくは返済額を減らすことができるので債務者にとってメリットが多いようにも思えますが、デメリットの方がはるかに多くなります。しかも、債権者にとっても競売はデメリットになるのです。
3.1.売却基準価額は相場よりかなり低い設定
競売による売却基準価額は一般の売却価格の70%程度に抑えられてしまうので(確実に売り手が付くように価格を低く設定します)、よっぽど好条件の物件でない限り、競売で得をすることはありません。そのため、競売で支払いをすべて終えられることもあまり期待できません。一方、債権者側である金融機関も価格が低く抑えられるため利益が少なくなります。
それどころか、残債がある場合は債務者が引き続き支払いをしなければいけませんので完済期日がさらに先に延びてしまい、債務者が返済しやすく再設定しますので、月々の回収額や手数料も今までより減る可能性が大きくなります。このように、債務者にとっても債権者にとってもメリットがほとんどないのが競売です。
3.2.プライバシーが漏洩する恐れが
デメリットは金額面だけではありません。裁判所は競売のための売却基準価格を一般に公表すると同時に、その物件の詳細な情報や入札期日、競売基準価格なども公表します。さらに、買い手対象となる不動産会社(個人・会社関わらず入札に参加できますので、転売目的で不動産会社も購入する可能性があります)も買い手を探すために近隣への聞き込みや勧誘、チラシの配布などを行います。
そのため、近隣だけではなく周辺地域にも広く情報が知れ渡ってしまいます。どんなに秘密にしていても必然的に公になってしまい、所有者だけではなく家族や親類などにも悪い影響が及ぶ恐れがあるのです。また、競売という既成事実があると、その後のローンなどを組む時のネックとなり、場合によっては金融機関に融資を断わられることもあります。
お金はその後の節制によって何とかなりますが、一度貼られた「競売」というレッテルはそう簡単には消えないものです。つまり、金銭面のデメリットよりも今後の生活をも脅かしてしまう風評の方がデメリットは大きくなりますので、競売は決して賢い方法ではありません。競売はあくまでも最後の手段として、「払えなくなったら売ればいい」という考え方はやめて、せっかく手に入れる家ですから将来的な支払い計画を立てた上で家を購入することが一番ではないでしょうか。
・競売は悪評が広まる原因
・購入時から賢い選択が大事
4.早期に家の競売を避けるための策を検討
このように競売で儲かる人は誰もいません。よって、誰もができるだけ競売を避けたいと思っています。そのためには、競売に至る前から返済計画を見直し、対策を講じることが大切です。しかも、債権者側も裁判所も対策のために動いてはくれません。動きだすかどうか、どのように動くのかは債務者であるあなただけなのです。
4.1.返済が滞る前に返済条件を変更してもらう
一般の会社員など一定の給料のある人ならば、月々に入ってくる金額は決まってきます。突然、会社が倒産した、解雇を言い渡された、急病で働けなくなったなどの理由がない限り、おおよその家計は設定でできでしょう。
こういう時に、支払いが難しくなってきたなと思ったら、すぐにでも支払い額や支払い期間の見直し(リスケジュール)を始めるべきです。債権者側としても、まだ支払える段階で相談されると、ほとんどの金融機関では相談にのってくれます。また、早めに相談すればそれだけプライバシーも守られますし、当面の間経済的にも楽になるのは間違いありませんただ、返済条件を変更しても、当面の間元本の返済を猶予されるなどして返済額が減ったとしてもトータルの返済額が減るわけではありませんので、猶予期間が過ぎれば、返済額が以前よりも増えることになります。また返済期間を延長してもらって月々の返済額を減らしても、返済期間が延びたことで定年後も住宅ローンの支払いを続けなければならなくなることもあります。近い将来、収入回復の目途がたたないときは、いたずらに返済条件を変更することは問題の先送りにしかならないこともありますので、収入回復の目途がたたないときは、自宅の売却も視野に入れる必要があります。
4.2.返済が滞ってきたら任意売却を検討する
相談の段階で見直しをしても予想以上に返済が難しくなる場合もあります。その時は、任意売却を検討されるのがいいでしょう。任意売却とは、住宅ローンの残る自宅を、債権者(金融機関)と合意の上で、一般の売却方法で売ることを指します。
この場合は、一般の不動産売買と同様の手順を取ります。唯一違う点は、住宅ローンの残債があっても売却できるという点です。一般の不動産売却では住宅ローンが完済していないと売却ができませんが、任意売却は返済ができないという理由での売却ですので、住宅ローンが残っていることが条件になります。任意売却は独断ではできません。
通常、任意売却を得意とする不動産会社や債務整理を専門とする弁護士に相談するのが一般的です。任意売却の手続きは不動産会社や弁護士を通して行いますので、安心して依頼できます。また、金融機関側としても、任意売却であれば競売よりも高値で売れるので、それだけ回収できる金額も増えることになるので、同意してくれる傾向にああります。そ
このように任意売却は債務者にとっても債権者にとってもマイナス要素の少ない方法のため、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)でも任意売却を奨励しています。
4.3.返済が苦しくなってきたら早めに専門家に相談を
一般的に、任意売却をする人は多いですが、任意売却は思い立ったらすぐにできる訳ではありません。任意売却手続きができる条件は決められています。
まず時期としては、債権者(金融機関)から「期限の利益の喪失」あるいは「代位弁済」の文書が届き、同時に一括弁済を要求してきた時点が任意売却の手続きを始める時期ですが、競売の開札日前日までには手続きを取らなくては無効となってしまいます。より厳密に言えば、裁判所が査定をした後およそ4か月後に競売基準価格を公表します。この時点ではほぼ競売が決まったようなものですので、この時点では競売を回避するのはかなり難しくなります。
任意売却は期間が限定されていますので、もっと早くから対策に打ち出すためには不動産会社や弁護士などに相談するのがいいかもしれません。
・任意売却は賢い方法
・早めのお金対策が必要
5.家の競売を回避するために
競売は債務者にとっても債権者にとってもデメリットの方が多い方法です。お互いにとって、競売は最後の手段として他に何らかの方法を見つけ、できるだけ競売を回避するようにしたいものです。そのためにも、返済が困難になる前、できれば住宅ローンや担保を利用して家を購入する場合に「競売」のことも念頭に万が一のための策を練っておいた方がいいかもしれません。
・役に立つ良い不動産会社
また、「家を売る基礎知識を知りたい」方は家を売る記事が参考になります。