相続した不動産の売却を検討しているものの、かかる税金に不安のある方は多いのではないでしょうか。
相続財産について、相続税を支払った方は「取得費加算の特例」を利用して、売却する相続不動産にかかる税金を軽減できる可能性があります。
できる限り出費を抑えるためにも、ぜひこの記事をご参考にしてください。
取得費加算の特例とは
「取得費加算の特例」とは、相続で取得した財産(土地や建物、株式など)を売却した時に、譲渡所得を計算する過程で、取得費に相続税額の一部を加算できる制度です。
課税のベースとなる譲渡所得の金額が小さくなるため、譲渡所得税の節税ができます。
取得費加算の特例の法改正で内容が一部変更
平成26年度の税制改正によって、取得費加算の特例に関わる制度の内容が変更されました。
改正前では、複数の土地を相続し、相続したうちの1つの土地を売却した場合、譲渡所得税を計算する際に売却した土地以外の土地に相続税額をもとに取得費の加算が可能でした。
改正後は、取得費に加算する額の計算をする場合には、売却した土地にかかる相続税額だけを取得費に加算できる内容となり、取得費加算の対象範囲が縮小しました。
相続財産の節税方法!取得費加算の使い方を解説
相続した財産を売却するときの有効的な節税方法のひとつである「取得費加算」について、以下のことを解説いたします。
- 【3選】取得費加算の特例の適用に必要な要件
- チェックシートで特例が施行されるか確認
【3選】取得費加算の特例の適用のための要件とは?
取得費加算の特例の適用するには、以下の3つの要件を満たしている必要があります。
- 相続や遺贈によって財産を取得した方であること
- 財産を取得した方に相続税が課税されていること
- 財産を、相続開始のあった日の翌日より相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
節税効果を十分に得られるように適用要件をしっかり理解しましょう。
▼①相続や遺贈によって財産を取得した方であること
相続後の財産を取得費加算の特例に適用させる最初の要件は相続または遺贈によって財産を取得した方であることです。
また遺贈の場合には、相続人以外の方でも財産を引き継ぐことが可能です。財産を売却したときに他の要件を満たしていさえすれば取得費加算の特例が適用可能なので、相続人以外の方でも取得費加算の特例の活用をおすすめします。
不動産の相続に関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相続に関する知識を身につけ、取得費加算の特例を最大限に活用して節税効果を得られるようにしましょう。
▼②財産を取得した方に相続税が課税されていること
財産を取得した方に相続税が課税された場合には、取得費加算の特例の活用が可能です。
財産を取得したときに相続税が課税されたかどうかを確認すること、さらに特例を申請する場合には税務署に届け出ることが本特例の適用には必要です。
つまり、相続や遺贈で得た財産を売却しても、相続税が課税されていない場合、特例の対象とはならないので、相続税を確実に払う必要があるでしょう。
▼③財産を相続開始のあった日の翌日より相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡していること
取得費加算の特例を適用するための最後の要件が、相続開始の翌日より相続税の申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡していることです。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日(一般的には、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内です。
一般的に相続税の申告期限は、被相続人の死亡の日であるため、特例の適用が可能な期限は、相続開始の翌日より3年10か月以内となります。
例えば、2023年1月1日を被相続人の死亡を知った日(一般的には、被相続人の死亡の日)とすると、翌日から10か月以内なので、相続税の申告期限は2023年11月1日となります。そして、申告期限の翌日から3年を経過する日の2026年11月2日までに財産の売却が可能であれば、取得費加算の特例を適用することが可能です。
取得費加算の特例を理解するためのチェックシート
ご自身が取得費加算の特例が適用できるかどうかを確認するには、国税庁が公開しているチェックシートが便利です。
チェックシートには、特例が施行されるかどうかを確認するために必要な項目がリストアップされています。
特例の適用要件をチェックし、ご自身が該当するかどうか確認しましょう。
リンク:国税庁「相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例チェックシート・措法39条(令和4年分)」(pdf)
特例の適用に必要な条件の一つとして、相続税の課税対象となっているかどうかを確認する必要があります。
また、売却時期や手続きの有無なども重要な要件といえるでしょう。
特例を使い相続後の財産で損をすることなく、節税効果を得ることができます。ぜひ、チェックシートを利用して、自分にとって最適な節税方法を見つけてみてください。
取得費加算の特例の具体的な計算方法とは?
ここでは、取得費加算の特例を適用して、取得費に加算できる金額の計算について解説します。
相続不動産売却時の取得費について詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
相続不動産売却時の取得費の計算方法を解説!取得費に含める費用も紹介
取得費加算による相続税の計算式
支払った相続税のうち、取得費に加算できる金額は、以下の計算式で求められます。
=支払った相続税額×譲渡した財産の相続税評価額/{(相続財産の総額)+(相続時精算課税適用財産の価格)+(純資産価格に加算される暦年課税分の贈与財産の価格)}
(参考:国税庁「No.3267相続後の財産を譲渡した場合の取得費の特例」)
前提条件と計算式を用いた計算例を次の章で解説します。
取得費加算の特例を実施した計算
前章で得た計算式をもとに、前提条件に沿って実際に計算してみましょう。
相続時精算課税適用財産がなく、純資産価格に加算される暦年課税分の贈与財産もない場合の簡単な例として解説します。
以下のケースで、計算シミュレーションをします。
- 相続した財産の総額:4億円
- 売却した不動産の相続税評価額:2億円
- 支払った相続税額:1億円
- 相続時精算課税適用財産の価格:0円
- 純資産価格に加算される暦年課税分の贈与財産の価格:0円
前項でご紹介した計算式に各金額を当てはめると、取得費に加算できる金額を算出できます。
=支払った相続税額×譲渡した財産の相続税評価額/{(相続財産の総額)+(相続時精算課税適用財産の価格)+(純資産価格に加算される暦年課税分の贈与財産の価格)}
=1億円 × 2億円 / (4億円 + 0円 + 0円)
=5,000万円
つまり、4億円の相続財産のうち、相続税評価額が2億円の不動産を売却すると、譲渡所得の計算時に取得費に5,000万円を加算できます。
取得費の加算の特例の手続きについて
取得費加算の特例の手続きのためには、相続財産売却後の翌年に確定申告が必要になります。
売却した翌年2月16日から3月15日までの間に、忘れずに確定申告を行いましょう。
確定申告の際には、申告書類に以下の書面を添付して提出する必要があります。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
確定申告の手続きについては、以下の記事でも解説しています。
4つの制度で相続後の財産の節税効果を最大化する
相続財産の節税効果を最大化するために、取得費加算の特例と併用できる特例制度を4つご紹介します。
- 概算取得費
- 小規模宅地等の特例
- マイホームを譲渡した場合の3,000万円特別控除
その1:概算取得費
概算取得費と取得費加算の特例は併用可能です。
譲渡所得の計算時に、不動産の取得費が分からない場合、売却価格の5%の金額を「概算取得費」として計上できます。
取得費加算の特例を併用する場合、概算取得費に更に相続税額の一部を加えられます。
=売却価格-(譲渡費用+売却価格×5%+相続税額の一部)
概算取得費を用いる場合は譲渡所得税の課税額が高くなりやすいため、相続税を支払う方は取得費加算の特例も忘れずに利用したいところです。
その2:小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例との併用も可能です。
小規模宅地の特例は、相続した宅地の規模に応じて相続税評価額が減額される特例です。相続税の節税ができます。
ただし、取得費に加算できる相続税額の計算は、小規模宅地等の特例を適用して減額された評価額を基準に算出することに注意しましょう。
また、同居親族が自宅を相続した場合や賃貸不動産を相続した場合、相続開始から10か月間は売却してはいけないため、相続してから10か月経過後に財産を売却しましょう。
その3:マイホームを譲渡した場合の3,000万円特別控除
売却した相続不動産が、親と同居していた不動産、あるいは親から相続後に居住していた不動産の場合、「マイホームを譲渡した場合の3,000万円特別控除」が併用可能です。
3,000万円特別控除は、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる、大幅な節税効果のある特例制度です。
親から相続した後に居住していない不動産には適用できませんが、適用できる場合は是非活用して、譲渡所得税を節税しましょう。
相続不動産を売却した時の税金について更に詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
相続した不動産の売却にはどんな税金がいくらかかる?節税できる控除・特例も解説!
取得費加算の特例が併用不可な特例とは?
取得費加算の特例は、「被相続人の空き家を譲渡する場合の3,000万円の特別控除」とは併用できません。
相続または遺贈により譲り受けた被相続人の居住用家屋や被相続人の居住用家屋の敷地などを売却し、特定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から3,000万円を上限に控除できる制度です。
取得費加算の特例とは併用不可なので、両方の特例の適用要件を満たす場合は、ご自身にとってより有利な方を選択する必要があります。
相続した空き家の3,000万円控除の適用要件をわかりやすく解説
取得費加算の特例に関するよくある4つのQ&A
この章では、相続した不動産を売却する時につかえる、取得費加算の特例によくあるQ&Aを紹介します。
Q1.相続した不動産の適切な売却タイミングはありますか?
不動産相続においては、適切なタイミングで実行することが非常に重要です。
相続人が誰であるかや、相続税の額などによって、相続の手続きや対応が異なります。
相続後の財産の中に不動産が含まれる場合には、不動産登記簿謄本や権利証(登記識別情報)、評価額等の情報収集が効果的でしょう。
Q2.複数の相続後の財産を売却する際に気をつけることはありますか?
複数の相続した財産を売却する際には、各財産を得た費用を正確に把握することが重要です。
取得費加算の特例では、それぞれの財産ごとに特例の適用要件を満たしている必要があります。
複数の財産をまとめて売却する場合には、それぞれの財産の取得費用を正確に把握して、特例の適用要件を満たすように注意しましょう。
また、相続人が複数いる場合には、相続人それぞれが得た財産の取得費用を正確に把握して、それぞれの財産に特例が適用できるかどうかを確認してみましょう。
Q3.相続後の財産の売却期限はありますか?
取得費加算の特例を利用するためには、「相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日から3年」と「被相続人の死亡を知った日(一般的には、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内」を合計した期間である「相続開始の翌日から3年10か月以内」に財産を売却する必要があります。
Q4.親族間でも特定は適用になりますか?
親族間の売買においても、取得費の加算の特例の適用は可能です。
相続税が課税されたときは、相続後の財産を得た費用が相続税の課税対象なので、取得費の加算特例を受けると相続税の課税対象額を減らすことが可能です。
売却価格が妥当かどうかを判断するには、専門家の意見を聞くのがおすすめです。
税理士や司法書士に相談するなど、適切なアドバイスを受けて節税効果を高めることをおすすめします。
【まとめ】取得費加算の特例を利用して相続後の財産で損をしない節税ができる
相続した財産を売却する際に取得費を加算した特例を利用すれば、節税効果が期待できるでしょう。
ただし、特例の適用要件や計算方法を理解する必要があります。
取得費加算の特例は、相続税が課税されていることを条件に譲渡所得税の節税効果を期待できます。
また、相続した不動産に関する税金について不安のある方は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
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