所有している資産は、本人が死亡すると相続の対象となります。相続をすると相続税がかかりますが、これを回避するために、事前に贈与をすることも可能です。
生きているうちに資産を贈与することを生前贈与と呼び、これにはさまざまな決まりがあります。少しでも税負担を減らして贈与するためにも生前贈与における注意点を把握しておきましょう。
生前贈与とは
まずは生前贈与とはどのようなものなのか、基本的な理解から深めておきましょう。生前贈与とは、文字通り資産を所有している人が、生きている間に財産を贈与することです。
生前贈与には贈与税がかかりますが、これには課税対象枠が設定されています。
贈与をしたからといって、すべての場合で課税対象になるわけではなく、非課税の範囲内なら贈与税は課税されません。また、何を贈与するかによっても、贈与税がかかるかどうかは異なります。どのようなものに対して贈与税がかかるのか、相続税との違いなども含めて、理解を深めていきましょう。
贈与税がかかるもの
資産を所有している人が、生きているうちに財産を分け与える場合は、贈与税の対象となります。贈与税の対象としては主に金銭が該当し、無償で資産を譲った場合などは、贈与税の対象になると考えましょう。
資産の所有者が生きているうちに贈与するものの多くは、贈与税の対象となるため、なにをどれだけ渡したか、あるいは受け取ったかは把握しておかなければなりません。
贈与税がかからないもの
生活費や教育費など、扶養している家族に対して渡す財産については、贈与税の対象にはなりません。そのため、家族の生活を維持するために渡した資金は、贈与税は非課税になると考えましょう。
ほかには個人が渡すお中元やお歳暮、お年玉なども贈与税の対象ではないため、これも覚えておくことが大切です。また、贈与税がかかるのは、無償で財産を渡した場合です。そのため、介護や実家の仕事を手伝うなど、なんらかの労力が発生している場合に支払われるものは、贈与税は非課税となります。
贈与税と相続税の違い
贈与と相続は混同しやすいですが、それぞれに違いがあります。贈与税は個人が生きているうちに、家族などに資産を渡すことを指します。対して相続は、個人が亡くなってから、所有していた資産を家族などに分配することです。
贈与と相続は、ともに資産を受け取った人が課税対象となることも覚えておきましょう。贈与は資産を所有する人が生きているうちに税金の支払い手続きを行いますが、相続では亡くなってから税金の支払いとなるため、いつ税金を支払うかも異なります。
贈与税と相続税ではいつ支払いなどの手続きを行うかが違うことは理解しておきましょう。
相続税対策できる生前贈与の種類
ひとくちに生前贈与といっても、さまざまな種類があります。どの方法で生前贈与を行うかによって、課税対象も異なるため、種類ごとの違いを覚えておくことが大切です。生前贈与の種類としては、次の7つがあげられます。
- 暦年贈与
- 住宅取得資金のための贈与
- 孫の教育費の贈与
- 結婚や子育て資金の贈与
- おしどり贈与
- 生命保険の非課税枠
- ジュニアNISA
これらの特徴の違いを知り、どれが適しているかを考えておきましょう。
暦年贈与
年間で110万円以下の贈与なら、暦年贈与となるため非課税です。贈与税は1年で110万円までの基礎控除があるため、この範囲内であれば税金はかからないと考えましょう。そのため、現金を非課税で渡したいなら、年間110万円以内で少しずつ贈与することがおすすめです。
暦年贈与における1年とは、1月1日から12月31日を指します。いつまでが1年に該当するかは頭に入れておき、この期間内の贈与は110万円までに抑えることが大切です。
住宅取得資金のための贈与
同じ贈与でも、住宅を購入するための資金であれば、1,500万円までが非課税となります。対象となるのは20歳以上の子供、あるいは孫であり、これに該当する場合は、1,500万円までを非課税で贈与できます。
ただし、非課税になるのは、贈与を受けた翌年の3月15日までに家を購入し、そこに住んだ場合です。先に購入だけして、後から住むということはできないため、この点には注意が必要です。
孫の教育費の贈与
子どもや孫への教育資金として贈与する場合は、1,500万円までが非課税となります。対象となるのは30歳未満の子どもや孫であり、年齢の制限には注意しましょう。
また、教育費の中でも、習い事に対しての資金の場合は500万円までが非課税です。同じ教育費でも、どのような用途で使用するかによって、非課税の範囲が異なる点には注意しなければなりません。
結婚や子育て資金の贈与
結婚や子育てのための資金を贈与する場合も、贈与税は非課税となります。子供や孫の子育て資金の場合は、1,000万円までが非課税です。
結婚費用も非課税ですが、これは300万円までと上限が少し異なります。
おしどり贈与
夫婦間での贈与の場合は、不動産の贈与の際に非課税となる特例があります。これはおしどり贈与と呼ばれるもので、結婚して20年以上経過していることが条件です。
また、夫婦で居住用の不動産を贈与した場合に基礎控除110万円に上乗せして、2,000万円まで控除が受けられますが、投資用は対象外です。
居住用の不動産を贈与した場合は、その後もその家に住み続ける必要があります。さらに同じ配偶者からは、生涯に一度しかおしどり贈与は適用されないため、この点も頭に入れておきましょう。
生命保険の非課税枠
生命保険には非課税枠が設定されており、この範囲内であれば、贈与税は非課税となります。例えば子どもが生命保険の契約者かつ保険金の受取人となり、親に保険をかけたとします。この場合は、将来子どもが保険金を受けることができ、この分が非課税です。
ただし、生命保険は契約形態によってどのような税金がかかるか異なるため、契約時には贈与税の非課税枠があるのかを確認しておきましょう。
ジュニアNISA
金融商品であるジュニアNISAを活用することでも、生前贈与は可能です。ジュニアNISAは0歳から19歳までを対象とした金融商品であり、年間80万円までの資金を5年にわたって非課税で運用できます。
例えば親から孫に金銭の贈与を行い、この資金を使って孫の親が孫の名義で口座を開設すると、世代間の年齢が離れていても運用できます。この際孫に贈与する金額を110万円までに抑えるなら、基礎控除によってこの分の贈与税もかからず、さらにお得にNISAによる運用が行える点も覚えておきましょう。
ジュニアNISAを運用すると利益が出ることもありますが、この分に対しては贈与税は非課税です。つまり、運用次第では贈与した金額以上の資金を得られることもあり、世代間で贈与をする際にはおすすめの制度といえます。
贈与税の計算方法と税率
実際にどれくらいの贈与税がかかるのか、計算方法や税率をもとに理解を深めていきましょう。贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、この範囲内なら非課税です。
そのため、計算が必要となるのは、基礎控除を差し引いても、贈与額が残る場合です。基礎控除を差し引いて贈与額が残る場合は、次の贈与税率や控除額を使って計算します。
基礎控除を引いた後の贈与額 | 贈与税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | なし |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
また、上記の表は20歳未満に対する贈与の場合です。贈与の相手が20歳以上の場合は、税率や控除額などは次のように変動します。
基礎控除を引いた後の贈与額 | 贈与税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | なし |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
年齢による違いを把握しておき、どれくらいの贈与税がかかるのかを理解しておきましょう。
生前贈与で注意するポイント
生前贈与をする際には、注意しなければならないポイントがいくつかあります。これを理解していないと、思わぬところで税金がかかってしまい、税負担が発生することもあります。注意点を正しく把握して、少しでもお得に生前贈与を行いましょう。
相続開始3年前の贈与は相続財産となる
生前贈与なら、年間110万円までは基礎控除で非課税ですが、相続開始の直前には注意が必要です。相続開始の3年前からは、贈与も相続財産の対象となり、相続税の課税対象となります。
そのため、基礎控除内で贈与をする場合は、亡くなる3年前までに贈与を済ませておかなければなりません。相続開始の3年前と、残った資産については、相続時にすべて相続税がかかってしまい、税負担が重くなる可能性があるため注意しましょう。
受贈される人が贈与の事実を知る必要がある
贈与されることを受贈と呼び、受贈する人は贈与されている事実を知っておかなければなりません。そのため、子どもに内緒で口座を作り、そこにお金を入れて贈与の形を取っている場合は、課税対象となります。
贈与は相手にその事実を知らせることに加えて、受贈する人が贈与された資産を自由に使える必要があります。贈与する人だけがその事実を知っていて、受贈する人が資産を活用できない場合は、生前贈与とはなりません。
受贈される人の金額
贈与税がかかるかどうかは、いくら受贈するかによって決まります。年間110万円までは基礎控除で非課税であり、それ以上の金額を受け取る場合は課税対象です。複数人から贈与される場合は、合計で税額を判断するという点に注意しましょう。
例えば父から100万円、母から100万円受け取っている場合は、合計200万円となります。そのため、基礎控除を差し引いた90万円分が課税対象です。
そのため、父や母、祖父母など1人ずつから年間110万円非課税で受け取れるわけではなく、全員分を合計して110万円までが非課税となります。
毎年同じ時期に同じ額贈与しない
年間110万円以内なら、基礎控除によって贈与税は発生しませんが、贈与する時期や金額には注意が必要です。毎年同じ時期に、同じ金額で贈与を繰り返していると連年贈与とみなされ、贈与税の課税対象となってしまうことがあります。
例えば毎年同じ時期に100万円の贈与を、10年間行ったとします。この場合に連年贈与をしたと判断されると、合計1,000万円の贈与があったとして、贈与税がかかってしまいます。連年贈与にならないためには、贈与する時期や金額をずらすことが大切です。
教育や結婚や子育ての贈与は使い切る
教育や結婚、子育てなどの使途で贈与したものは、一定額まで非課税です。ただし、これらで贈与された資金は、一定の年齢までに使い切らないと、相続財産と判断され、課税対象になります。
教育のための資金は30歳までに、結婚や子育てのための資金は50歳までに使い切り、相続財産とみなされないようにしましょう。
不動産の贈与はお得ではない
贈与は金銭で行うだけではなく、不動産で行うことも可能です。おしどり贈与のように、一部非課税が設定されているものもありますが、基本的には不動産の贈与はそれほどお得にはなりません。
これは不動産の贈与は評価額に応じて税金が発生するだけではなく、贈与の際に所有権の移転登記が必要で、登録免許税がかかるからです。つまり、贈与の際には税金と登記手続きのための費用といったさまざまなコストがかかるため、出費が増えて損をしやすいといえます。
不動産の贈与を考えているなら、そのまま贈与せずに、売却して現金にしてから贈るという方法もあります。現金にしてからの贈与なら、年間110万円までは基礎控除で非課税となるためお得です。
不動産を売却するなら、まずはすまいステップで査定を受けることがおすすめです。複数社から査定を受けられるすまいステップで、少しでも好条件で不動産を売却しましょう。
すまいステップ現金を手渡しにしない
金銭の贈与では、現金の手渡しはしないようにしましょう。現金を手渡しにすると、いつ誰が、誰に対していくら贈与したのかが、記録に残りません。
贈与は証拠が残らないとトラブルになる可能性もあるため、基本的には銀行振り込みで渡し、通帳に記録が残るようにしておきましょう。
申告は受けた側が行う
贈与税の課税対象となる場合は、受贈する人、つまり贈与を受けた人が申告を行います。贈与の事実を申告していないと、脱税になる場合があるため、注意しなければなりません。
ただし、贈与を受けたとしても、年間110万円の基礎控除の範囲内なら申告は不要です。あくまで基礎控除を超え、贈与税が発生する場合のみ申告が必要であると考えましょう。
また、贈与税が非課税でも、特例を適用する場合は申告が必要です。申告は税務署にて行い、贈与された年の翌年2月16日から3月15日までの間に手続きをしましょう。
家族構成に合わせた生前贈与を考えよう
親から子どもに生前贈与をするだけではなく、孫にも贈与は可能です。贈与は子供に対して行うだけではなく、内容次第では孫に行ったほうがよいこともあります。
そのため、家族構成を考えながら、誰にいくら贈与するともっとも税金がかからないのかを考えることが大切です。特例の適用なども考慮しながら、非課税となる範囲で賢く生前贈与を行いましょう。