不動産物件を住宅ローンで購入すると、その物件に対しては抵当権が設定されます。抵当権が設定されているかぎり物件を自由に売買することも譲渡することもできず、実質的な所有権は金融機関が保有している状態になります。
なぜ、住宅ローンの完済にともなって抵当権抹消登記が必要になるのか。登記を行うとしたらどのようなプロセスがあるのかなど、登記手続きにかかわる基礎知識について具体的にお伝えしていきますので、今現在住宅ローンを抱えている方はぜひとも参考になさってください。
抵当権抹消登記が必要になる場面
住宅ローンで購入した物件に対して設定される抵当権。家賃滞納による住宅の差し押さえなどの場面でもよく聞かれる専門用語ですが、実際の意味を正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。
抵当権のもつ意味を理解し、抵当権抹消登記の具体的なプロセスについて把握していざという時にあわてないようにしましょう。
抵当権抹消とは
不動産物件にかぎらず、あらゆる商品はその購入代金を全額支払ってはじめて所有権が認められることになります。
ただ、食料品や日用品などの少額なものであればともかく、不動産物件のような高額商品の場合にはいきなり全額を支払うのが難しいため、購入費用を分割して月々支払っていく、という形式がとられます。
これがいわゆる住宅ローンであり、ローンを完済するまでは物件に抵当権が設定され、ローンを完済した段階ではじめて抵当権がなくなり、所有権が購入者本人に移ることになります。
つまり、抵当権とは「その物件はまだあなたのものではありませんよ」ということを表すためのものであり、抵当権抹消とはローンを完済して所有権が移ったことを公的に証明するための手続きなのです。
抵当権抹消しなければ住宅を売ることができない
抵当権が設定されているうちはまだその物件に対してローンが残っているということであり、抵当権が設定されている状態で物件を売ることはすなわち、「他人のものを無断で売る」こととほぼ同じ意味になります。
よくある抵当権トラブルの例として挙げられるのは、「相続後に土地を売れなくなる」というパターンです。両親から土地や不動産を相続して数十年の年月が経ち、後継者がいないためにいざ物件を売却しようと考える段階になって抵当権の存在が明らかになる、というケースは決してめずらしくはありません。
「いざという時に売れなくて困る」ということにならないように、住宅ローンを完済した時点ですみやかに抵当権抹消登記を行い、後々の世代にまで混乱を残さないようにしましょう。
また、両親などから土地や不動産物件を譲り受けた場合はその時点で必ず抵当権を確認し、住宅ローンの残額についてもきちんと把握しておくことが重要です。
抵当権抹消登記の手続きの期限は
原則として、金融機関から発行された抵当権抹消の期限はありません。したがって、金融機関から受け取った必要書類を提出せずに数年または数十年単位で残しても、法的効力を失うことはないと考えられます。
ただし、書類の交付と登記所への提出との間に金融機関の移転、破産、名称変更等が発生した場合には、新たな登記によりその旨を証明する必要があり、書類の収集には多大な時間と労力がかかるので、書類を受け取った時点で速やかに記入し、可能なかぎり早急に登記所に提出してください。
なお、抵当権抹消登記においては登記済証(登録識別情報)、登記原因証明情報、債権者の委任状などをセットにしておくことが不可欠です。
・抵当権があれば売却不可
・抵当権抹消で所有権移転
・手続きはスピーディに
抵当権抹消登記をスピーディに行うために
住宅ローンを完済したからといって、自動的に物件に設定されていた抵当権が消えるわけではありません。ローン完済後に抵当権抹消登記を行わなければ抵当権が設定されたままであり、物件の売却や確定申告などの際にさまざまなデメリットが生じることになります。
抵当権抹消登記をスピーディに行い、法的な不具合が生じるのをふせぐためのアプローチについて具体的に見ていきましょう。
手続きを行える人は
抵当権抹消登記は原則として。債務を背負っている人、つまり住宅ローンを完済した本人が申請することになっていますが、どうしても時間が取れない場合は両親や配偶者などによる代行が認められています。
家族に代理を頼む場合には委任状を作成して手続きの際に提出する必要があり、なおかつ代理者は本人の身分が証明できる公的書類を持参することが義務づけられています。
また、単身者の場合には司法書士や行政書士などの専門家に一連の手続きを委託することができます。委託にあたっては1件あたり5000円~15000円程度の費用が必要になりますので、事前にシミュレーションしておきましょう。
抵当権抹消登記に必要な書類と費用は
抵当権抹消登記のトータルコストは、一連の手続きを自分で行う場合と司法書士などの専門家に委託する場合で変わってきます。専門家に委託する場合に必要となる費用は以下の通りです。
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登録免許税は「不動産個数×1000円」と定められており、ひとつの土地にひとつの不動産物件が立てられている場合は不動産がふたつ、というかたちで計算され、登録免許税は2000円となります。
委託報酬はおよそ5000円~15000円が基本相場とされていますが、事務所によって細かな相場は異なりますので、そのあたりは手続きの前に確認しておきましょう。
自分で登記手続きを行う場合は上記の費用のうち委託報酬が不要となりますので、その分だけトータルコストが削減されることになります。
必要種類を紛失してしまった時は
抵当権抹消登記に必要な書類を紛失した場合は、まず、書類の代わりに本人確認情報を作成し、登記所に提出して法的許可を得る必要があります。
この場合の本人確認情報とは、「必要書類の再発行」を意味し、金融機関に申請すると登記済証(登録識別情報)以外であれば再発行を依頼することができます。
まず、紛失した書類の再発行を金融機関に依頼し、借入金の返済履歴を確認したのち、所定の条件が満たされたことを確認すると、数週間後に書類が指定した住所に送付されます。必要書類のうち、登記済証(登録識別情報)の再発行のみが許可されていませんが、代行手続きによって抵当権抹消登記を行うことができます。
登記済証(登録識別情報)を紛失して抵当権抹消登記を行う場合は、事前通知の利用をお勧めします。事前通知制度は、土地および不動産の所有権が証明できないことを認めてもらうためのシステムであり、申請すると登記所のほうから本人確認に必要な個人情報を記入するための書類が郵送されます。
書類に必要事項を記入して返送した後、記入に不備がなければ申請が承認されますが、司法書士や公証人などに一連の手続を委任することもでき、一定の委託料を支払うことによって多くの時間と労力を節約することができます。
名義人が自分以外にもいる場合
複数人の名義によってひとつの不動産物件を所有する場合、共同名義人のうちのいずれか1名が代表して抵当権抹消の登記を行うことが認められています。
共同名義人のうちの誰かが遠方に転居したり、重篤な病気やケガなどによって名義人としての義務を遂行することが難しくなった場合でも、他の名義人が単独で手続きを行えば不動産物件の抵当権を変更することができ、登記済証には共同名義人すべての個人情報が記録されることになります。
名義人が亡くなっている場合
不動産物件を保有中に共同名義人のいずれかが死亡した場合は、手続きの必要書類に該当の名義人の氏名を記載したうえで、存命している名義人のなかから1名が代表者として単独で抵当権抹消登記を行うことが認められています。
・手続きは委託可能
・専門家の場合は報酬が発生
・共同名義でも登記は単独
抵当権抹消登記をもとめられる本当の理由
抵当権抹消登記は法律で定められた義務ではありませんが、手続きを怠ったままでは後々さまざまなトラブルが生じる可能性があるため、住宅ローンを完済した時点で手続きをすませておく必要があります。
抵当権抹消登記を行わない場合に想定されるデメリットについて具体的にシミュレーションしていきましょう。
時間が経つほど手続きが複雑化する
不動産物件の抵当権は、債務者本人と債権者である金融機関との間で交わされる契約です。登記情報には住宅ローン契約時の金融機関の名称や所在地について詳細に記載されていますが、金融機関の倒産や移転、代表者の変更などが生じた場合にはその都度登記情報を書き換える必要があり、手続きが煩雑になります。
また、抵当権抹消登記にあたっては契約書以外にさまざまな書類を用意する必要があり、年月が経つほどそれらの書類を紛失するリスクが高まりますので、可能ならば住宅ローンを完済した時点ですみやかに抹消登記を完了させるのが最善といえます。
不動産を担保にして融資を受けることができない
新規の起業や事業の拡大などに際しては金融機関からまとまった融資を受けることになりますが、不動産物件に抵当権が設定されている場合、不動産を融資の担保にすることができず、肝心な時に必要な資金が手に入らない、ということになりかねません。
将来的に起業や事業展開を視野に入れている場合は不動産物件の抵当権をつねに意識し、ローンが終了したらできるかぎりすみやかに抵当権を滅失させ、所有権を確実に移転しておく必要があります。
不動産の売却ができなくなる
実質的には自分の所有物として扱っていても、住宅ローンが残っている間は言ってみれば他人の土地であり、完全に権利が譲渡されているわけではありません。
抵当権を抹消しないかぎり不動産物件を売却することができず、固定資産税などのコストは所有者本人が負担することになりますので、抵当権を抹消しなければ無駄なコストがどんどんかさんでいく、ということになってしまいます。
それでも、以前は手続きの煩雑さからあえて抵当権抹消登記を行わず、最低限の維持費を負担しながら不動産物件を温存しておく、というパターンも考えられましたが、通称「空き家法案」が施行されたことによって状況が一変し、使用していない不動産物件はただちに処分したほうが得策である、という方向にシフトチェンジしていきました。
いざという時に不動産物件をスムーズに処分するためにも、住宅ローンの残っていない物件についてはすみやかに抵当権を消しておくようにしましょう。
・将来を見据えて登記手続きを
・抵当権は融資の邪魔になる
・コスト削減につながる
住宅ローンを払い終えたらやるべき手続きとは?必要な書類って?
抵当権抹消登記の前にすませておくべきこと
抵当権抹消登記はプロセスがやや複雑なため、初心者の方にはすぐにはわかりにくいかもしれません。登記手続きに先だってすませておくべき事前準備について具体的にシミュレーションしておきましょう。
売買専門の不動産会社を見つける
抵当権抹消登記が必要になるのは、多くの場合、不動産売買の局面であると言われています。不動産売買に関して豊富なノウハウをもつ不動産業者と契約を結ぶことによって抵当権の取扱いについても具体的なアドバイスをもらうことができ、手続きのひとつひとつについて詳しく教えてもらうことができます。
まずはウェブサイトから不動産業者の特性をチェックし、実際の店舗に何度も足を運んでスタッフの知識や接客スキルを確かめたうえで相性の合う不動産業者をピックアップすることが登記手続きを円滑に進めるためのポイントと言えます。
不動産の一括査定サイトを利用する
複数の不動産業者を効率よくリサーチするうえで、一括査定サイトは非常に有用なツールと言えます。無料で全国の不動産業者を一括査定できるウェブサイトも増えていますので、初心者の方は特にそれらのサービスを活用し、手続きを進めるための心強いパートナーを見つける必要があります。
・売買を見据えて業者を査定
・無料一括査定を活用
・スタッフの人柄も重要
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抵当権の抹消手続きは忘れずに済ませよう
抵当権抹消登記は法的な義務ではなく、登記をしなくてもペナルティはありませんが、抵当権をそのままにしておくと不動産物件の売却や処分などの場面で思わぬハードルになる場合があります。住宅ローンを完済した時点でただちに抵当権抹消登記を行い、所有権を公的に証明できる状態にしておきましょう。